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「怖い菌ではないと思っていた」と運営会社社長。過去には7名死亡した事例も…二日市温泉「大丸別荘」での3700倍のレジオネラ属菌検出騒動に、地元住民は「憧れもあったので余計に残念です」と落胆の声
かつて昭和天皇も宿泊したという博多の奥座敷・二日市温泉の老舗旅館「大丸別荘」(福岡県筑紫野市湯町)が大炎上中だ。週に1回以上しなければならないお湯の取り換えを年に2回しか行わず、基準値の最大3700倍ものレジオネラ属菌が検出されていたことが判明した。
過去には7名死亡した事例も
「大丸別荘」の運営会社の山田真社長は当初、「毎分70リットル以上の湯を24時間入れているので湯が入れ替わっていると思っていた」と強弁していたが、実際に利用客が体調不良を起こしたことが発覚の端緒だっただけに、その認識の甘さは救いようがない。
福岡県によれば、大丸別荘を含む複数の施設に立ち寄った県外からの客が昨年夏、体調不良を訴えて医療機関を受診したところ、レジオネラ属菌が原因だったことがわかった。このため同8月に筑紫保健環境事務所が各施設を検査した結果、大丸別荘の大浴場から基準値の2倍相当の同菌を検出した。
このとき旅館側は、湯の交換頻度や定められた塩素注入について「適正」と主張、さらに2か月後の自主検査でも「菌は基準値以下だった」と県に報告した。ところが同11月に県が再検査したところ、最大で基準値の3700倍の菌を検出した。

大丸別荘の大浴場(ホームページより)
レジオネラ属菌は河川や湖沼、土壌、温泉など自然界に生息する細菌で、感染するとレジオネラ症を引き起こす。同症の病型の中でもレジオネラ肺炎は、全身の倦怠感から頭痛、筋肉痛、咳や高熱、呼吸困難、幻覚や手足の震えといった中枢神経系の症状や、腹痛や下痢がみられるのも特徴。適切な治療がなされない場合には命にかかわることもある危険な病気だ。
実際に温泉施設で感染して死亡する例も後を絶たず、昨年5月にもは神戸市北区の有馬温泉「かんぽの宿」で、利用客の70代男性2人が感染し、うち1人が死亡。2002年7月には宮崎県日向市の「日向サンパーク温泉 お舟出の湯」の利用客295人が集団感染し、7人が死亡する大惨事も起きている。

いくら濾過循環装置を可動させても、水を抜いて浴槽を洗わないと無意味
細菌で形成される「ぬめり」が菌の繁殖を促進させるため、これを放置すると繁殖したレジオネラ属菌がエアロゾル(細かい霧や飛沫)となり、ヒトが吸入することで感染、発症する。
加湿器も水を取り替えずに使い続けると感染源になる可能性があるので要注意だが、ヒトからヒトへ感染ることはない。
地元住民からは落胆の声多く…
大丸別荘のホームページによると、二日市温泉は奈良時代から湧き続けており、同別荘は慶応元年(1865年)に創業。6500坪の広大な敷地に存在する「ホテルの快適性と旅館の風情がある心と体の休まる宿」とうたっている。福岡国際空港から10キロ以内、都市中心部から30分圏内という抜群のアクセスも人気に拍車をかけてきた人気老舗旅館だっただけに、今回の騒動には地元住民を中心に落胆の声も広まっている。
「地元はもちろん、県内でも有名な旅館で、結納やさまざまなお祝い事に使われるような、由緒正しい旅館です。お部屋も立派で、四季を楽しめるような庭園があって、温泉以外も素敵なところなのにもったいない」(近くに住む70代女性)

地元民の憧れでもあった大丸別荘の外観
「私も会社の宴会で使ったこともあるし、同窓会に使われたり、地元の人なら一度は訪れたことがあるような旅館なので周囲も含めてすごく驚いてます。家族や友人とも『気持ち良いな』とか『最高の温泉だ』と話していたのでかなりショックです。温泉以外の料理などの安全面も気になりだしました」(同60代男性)
「このエリアで1番値段の高い旅館なので、頻繁に利用するわけにもいかず、憧れもあったので余計に残念です。家族の女性陣なんかは『温泉に浸かって肌がスベスベになった』なんて言ってましたけど、実は細菌まみれだったのかと思うと鳥肌が立ちますね」(同40代男性)
昭和天皇以外にも多くの著名人が宿泊
同業者にも衝撃が走った。二日市温泉内の旅館の経営者はこう落胆する。
「大丸別荘さんはこのあたりでは1番立派で、昭和天皇も利用された格式高い旅館なので残念ですね。他にも美空ひばりさんや江沢民さん、力道山さん、吉永小百合さんも利用されたことがあると聞いています。今のところ二日市温泉の客足には影響は出ていませんが、お客様同士で大丸別荘さんの噂話にはなっているようです。もちろん当館は週に一度以上はお湯を取り替えて清掃を行っています」
大丸別荘は、昨年5月21日放送の『朝だ!生です旅サラダ』(テレビ朝日系)にて男性アイドルが宿泊する様子が紹介されるなど、公共の電波で取り上げられることも多かった。近隣の別の旅館の主人はこう語った。
「この番組では人気アイドルが訪問されて、名物の水炊きのコース料理を美味しそうに食べていました。温泉以外も魅力があるだけにもったいないですね。二日市温泉全体の評判が落ちないか心配になります。うちの旅館はお風呂がそんなに大きくないので、お湯は毎日取り替えてます」
山田真社長は2月28日、福岡市で記者会見をした。

記者会見での山田真社長
「レジオネラ属菌は怖い菌ではないと思っていた。私の浅はかな考えでご迷惑をかけた」「塩素を注入しなかったのは塩素の匂いが自分の体質に合わず嫌いだったという身勝手な理由だった」「コロナ禍で宿泊客が激減して一層ルーズになった」と謝罪し、事態が収束した際に退任するとの考えを示した。
「浅はかだった」では決して許されないレジオネラ菌の危険性を後編の記事で詳報する。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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