会う前から「愛している」「いいね」を連打して終わり…マッチングアプリを長く使ってもなかなかうまくいかない男たちの特徴とは
消費者庁の「マッチングアプリの動向整理」によると、全世代で約4人に1人が2年以上マッチングアプリに入会している計算になるという。そんなアプリに依存するディープな住人たちを『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』(朝日新書)から一部抜粋・再構成してお届けする。
『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』#1
「好きだ」「愛してる」「キスをしたい」と連呼するアプリ男の正体
12年間、仕事の赴任でイタリア生活をしていたリョウさん(45歳)とマッチングした時は、それまでの相手とあまりにアプローチが違うラテン系のノリに驚愕した。
彼は見た目は端整なイケメンだが、正直で飾らない朴訥さに好意が持てる。それに豊富なイタリア生活体験が気に入ってマッチングし、LINEトークを交わしてみることにした。
リョウさんはアプリに登録してから1年半の間に80人近くとマッチングをしたという。
が、なぜか1ヶ月以上続かないため、必然的に付き合う数も増えていく。LINEトークを2、3回交わしたあたりから、リョウさんの言葉があまりにイタリアンでセクシー方向なのに驚いた。
「好きだ」「愛してる」「キスをしたい」……と連発し始めて、スタンプは熱烈なキスマークやハグマークばかり。会ってもいないのに、こんなにアグレッシヴに口説けるなんてやっぱり中身はもう完全にイタリアンなのか?
リョウさんは5年前までナポリやフィレンツェのレストランに派遣され、スウィーツのパスティチェーレ(パティシエ)として働いていたのだという。どうやらその生活が彼をアモーレな情熱の人に激変させたらしい。サッカーの長友佑都ばりにラテン系のノリだ。実際に会ったらどんな人なんだろうと興味をひかれ、週末、品川で会うことになった。

会ったらあったでキスしよう、ハグしようの連続
カフェで会ったリョウさんは長身で金髪だし、鮮やかなブルーのセーターもイタリアンな雰囲気で、LINEと同じく二言目にはキスしよう、ハグしようの連続。人目もはばからずにキスしようとするので、押し留めるのが一苦労だった。
話を聞いてみるともともとの性格はシャイで無口。東京のレストランで働いている時は30代まで彼女もできなかった。が、職場から派遣されて行ったイタリアのレストランでは年上のマダムたちに、女性とのセクシャルな接し方を学んだのだという。
向こうでリョウさんは店に来るマダムたちに「Bello!」(イケメン)「Carino!」(カワイイ)と人気があった。マダムの中には彼が仕事が終わるのを待っていて、そのままデートに直行し、飲みに行って親密な関係になることもしばしば。
「イタリア語は片言しか話せなくて店の同僚たちとは仲良くなれず淋しかったから、マダムに可愛がられるのはうれしかった。あまり複雑なことを言えないので、会ったらとにかく相手に喜ばれるようにキスやハグをする習慣になって……。今はコロナで帰国して日本のレストランで働いているが、それが抜けてない」
すごくマジメな人なのに…
口下手で自分から相手の楽しめる話題を振るのが苦手というリョウさんにとって、アプリのメッセージやLINEトークを長く続けるのは苦痛だ。深夜のLINE交換は話題に困ってついスタンプを多用し、早めに寝てしまって相手を怒らせることも多い。だからとにかく言葉の必要ないスキンシップに持ち込みたいと焦り、それが逆にチャラいと警戒心を抱かせてうまくいかないことが多いという。
結婚前提のマッチング・アプリではスキンシップが早すぎると、ヤリモク、ナンパと間違えられて関係を絶たれる。それを指摘すると初めて気がついたと驚いていた。
しかもリョウさんがイタリアで学んだのは、年上のマダムに上手に甘えて可愛がられる若い恋人やジゴロ的な付き合い方。向こうではそれでお小遣いを貢がせて暮らしているツバメ的な男性も少なくない。日本でいうところのママ活だが、スキンシップのうまさは日本人の比ではないという。
それを学んでしまったヒデさんは、同世代や真剣な交際を求める人には遊び人と誤解されても仕方ない。だが、アプリ入会の動機は真面目そのもの。
「今の職場は男ばかりで女性との出会いがないので、結婚を前提とした恋人探しをしたかった。でもメッセージやLINEで気に入られないと次に行けないから、文章が下手で話題を盛りあげられない僕には難しい。早めに会って自分を気に入ってもらう方法があったら教えてほしい」
リョウさんにはその後2、3回会ったが、コミュニケーションへの苦手意識が大きな壁だった。「抱きしめたい」「キスしたい」……そして会話のネタにつまると突然、連絡が取れなくなったり、1週間後、ひょっこり連絡してきたり。仕事がブラックでほとんど休みが取れないらしく、体調も壊しがちだという。かなり前から始めた転職活動が進まないのも、コミュ下手が邪魔をしているらしい。

アプリでの振る舞い方に悩む男性
最終的には短期間で別れを告げたが、やはり日本の婚活業界では理解されにくいのか、何度かまた会ってと連絡が来た。シャイで内気すぎるコミュ下手のイタリアンボーイ、という矛盾に満ちたリョウさんは、今もこの矛盾を突き破れずにいる。
アプリは女性のリスクを減らすようにシステムが組まれている。
だから女性に詐欺やセックス目的だと判断された場合、運営に通報されると強制退会されるし、悪質なヤリモク男はブラックリストに載せられてSNSで晒されることもある。それでも完全にアプリの悪用を防ぐことはできないし、当然、真面目な交際と遊び目的の境界が曖昧な場合もあって、トラブルの種になる。
その一方でセクハラ、性暴力への社会的視線はどんどん厳しくなってきている。弱気な男性にとっては「下手に手を出したら一巻の終わり」という恐怖感もつきまとい、どう動いたらいいかわからず戸惑うことも多い。
では清廉潔白をアピールするために徹底して非性的に振る舞うべきなのか、それとも早めに恋愛モードに持ち込むべきなのか。アプリの出会いで最も男性が迷うのがここだろう。
大手外資系企業の税務を担当する42歳のヒロさんはデートにつながらない
大手外資系企業の税務を担当する42歳のヒロさんは、アプリに登録してからもう1年だがなかなかリアルデートに繫がらず、私が初めてマッチングして会った女性だという。
7年前、妻を癌で亡くし1人で子育てしてきた。息子はまだ中学2年。だが、今、婚活をしないと再婚の機会はないと考えてアプリ登録した。
「でも息子も多感な時期だしもし同居したらうまくいくのか、とか先の先まで考えてしまって、毎日アプリをチェックして『いいね!』をつけて回りながらも、現実のアクションが起こせなかった」
ヒロさんは国立大の法学部在学中に国家試験に合格して、卒業後に今の仕事についた。英語も堪能でエリートと言ってもいいコースを歩いてきたが、家庭環境は波乱万丈だった。
水商売をしていたシングルマザーの母が経済的に苦しくなり、中学生から高校までは養護施設で過ごした。その後、再婚した母に引き取られ大学まで進学したが、義父は酒を飲むと家で暴れた。

何度も会いながら結果的にプラトニックなお付き合いのまま別れた
「弱視のために職場でストレスを抱えることも多くてその反動なんだと思う。でも大学の学費を払ってくれたし、歳をとった今は恨みはなくなって。むしろ弱視や視覚障害の人たちの気持ちを理解したくなった。ボランティアで何か助けになることができたらと点字の勉強もしている」
忙しい仕事のかたわら勉強を続けて、もうすぐ点字技能士の資格も取れるという。資格講師としてボランティアで子供たちに点字を教えたいという言葉に心を打たれた。
なんて心が広くて真っ直ぐな……。ヒロさんは、私が1年間のアプリ取材で出会った中でも、トップレベルで社会的な意識の高い人だったと思う。
なのに、なぜ何度も会いながら結果的にプラトニックなお付き合いのまま別れてしまったのか。
これは大きな問題だ。
第一にヒロさんのコンプラが完璧すぎて、恋人という領域に進みにくかった。つまり関係も会話も非性的で、個人的な関係に進むには何かが足りなかった。多分、ヒロさんが性的な言葉や行動などを徹底的に排除してくれたおかげで、そういう面での不安感は持たなくてよかったものの、逆に先に進むとっかかりも見えなかったのだ。
結婚を前提としたマッチングをゲットするのは意外に簡単だが、難しいのはそこから「結婚を前提とした恋人」になるまでの過程だ。恋人にならなくていいのなら、ただベルトコンベアに乗って結婚式まで運ばれていくだけなら誰でもできる。極端な例は一昔前の仲人がいるお見合いや結婚相談所のシステムだ。2人の間に恋愛感情が介在しなくても、「……さんが勧めてくれるから」「親も納得してくれるから」という理由で結婚が成立していた。
「初夜」というシステムは理にかなっていた
では、今はどうなのだろう? 「お見合い」の代わりにアプリがある。
「アプリで確率が90パーセントだったから」「マッチングしたから」「『いいね!』が50ついていたから」……。AIによる相性やおすすめのサポートでマッチングして、その後もAIの指示で結婚という目的地にオートマティックに連れて行ってもらえるのなら、こんなに楽なシステムはない。でも現実にはマッチングしてから交際、結婚にたどりつくまで、2人で試行錯誤しながら進まなければならない。
運よくおたがい恋に落ちて真剣な恋愛の末に結婚する人もいれば、ある程度、打算で相手を選ぶ人もいるだろう。アプリ婚をした人の中で何割ぐらいが、恋愛感情なしのまま結婚しているのか?
恋愛感情がなくてもおたがいへの配慮あるコミュニケーションがあれば結婚は成立するが、非性的関係のままでは長続きはしない。つまり「初夜」というシステムがあった昔のお見合い婚システムは、ちゃんと理にかなっていたということになる。

ヒロさんの場合は配慮あるコミュニケーションは取れていたが、非性的すぎて個人的な親密さがあまりに薄かった。
ではキスをしたりハグをしたり、あるいはセックスをすればよかったのか、というとそういうことでもない。非性的な「社会的存在」としてのヒロさんは印象に残ったが、性的な個体としての彼がまったく見えなかったのが、それ以上進めなかった理由かもしれない。
リョウさんとヒロさんは性的なプレゼンでは真逆の2人だったが、どちらもマッチング依存の相手の中ではかなり印象的だった。リョウさんは性的なアプローチしか知らず、ヒロさんは非性的なアプローチしかできなかった。やはり両方できて初めて本物のマッチングなのだ。この2人との出会いでそれを痛感した。
『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』 (朝日新書)
速水 由紀子

2023年6月18日
979円
280ページ
978-4022952226
結婚相手を見つけ、2人で退会するのがマッチングアプリのゴール。しかし本書では、このアブリ世界に彷徨い続け、婚活より自己肯定感の補完にハマり抜け出せなくなってしまった男女を扱う。アプリで次々に訪れる流動的な人間関係の刺激は、中毒性が強い。相手をどんどん乗り換え続けることで生きる糧を得ている人々、離婚や失恋でトラウマを抱え、婚活と名乗りつつセフレ的な付き合いしかできなくなった人々、等身大な自分を見失って500の「いいね!」をコレクションし、自己肯定感の上昇のみを求める人々。マッチングアプリの婚活沼に依存するディープな住人たちを、「マッチング症候群」と名付ける。 * 恋愛をメンタルを不安定にするリスク要因と捉える20代にとっては、言い争いや修羅場、負の感情の存在しないアプリは心地よい理想の場。 * 年代が上がるにつれて利用期間が長くなり抜けにくくなる→40代50代は婚活ではなく、孤独な老後の友人達を増やすだけ * 特に数々の恋愛で目が肥え妥協できなくなっているアラフォー女性たちにとっては、イケメンな富裕層経営者やハイスペックなモテ男とマッチングし、会って食事できることほど自己肯定感を上げてくれることはない。その本命になるのはほぼ絶望的だが、高級店でディナーを奢ってもらい言葉上手に口説かれて舞い上がれる。「自分はまだまだイケてる」と信じられる…etc.
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