――新型コロナ禍で、不倫調査の現場に変化はありましたか。
岡田 よく「自粛ムードによって、不倫が減ったのでは?」と言われます。しかし結論から言うと、コロナで不倫調査依頼が大きく減ったという事実はありません。むしろ弊社が行ったアンケートでは、不倫をしている人の18%は「コロナ禍になって逢瀬の頻度が増加した」と答えています。世の自粛ムードに反して、不倫中の人々はコロナ禍でいっそう燃え上がっている印象がありますね。
――なぜ、コロナ禍で不倫がより活性化しているのでしょうか。
岡田 コロナ禍で会食や飲み会が減少し、リモートワークが普及した結果、リアルでのコミュニケーションが希薄になっていますよね。それまでの常識が一変し、ただでさえストレスを感じているところに、日々の生活が単調で無味乾燥なものになってしまった。となると、いけないとわかっていても“刺激”を求めてしまうのが人間という生き物なんです。
加えて、弊社に不倫調査依頼を頼むケースは「単なる火遊び」や「一時の過ち」にとどまらない、「本気の不倫」がほとんど。探偵社に依頼をするぐらい切羽詰まっている――それはつまり、依頼者のパートナーが愛人との関係から抜け出せず、家庭を顧みなくなってしまった“末期”の状態です。ここまで入れ揚げてしまうと、コロナだから、自粛だからといって容易に止められるものではありません。
――とはいえ、コロナ禍では緊急事態宣言下やまん妨もありました。人目を忍んでの逢瀬は難しいのではないですか。
岡田 確かにコロナ禍では外での逢瀬、デートの時間が減っており、われわれも調査時間が短くなったことで痛手を受けてはいます。しかし先ほど申し上げたように、“末期”の不倫状態にある人間はいかなる手段を使ってでも愛人と会おうとするんです。
具体的には「業務がリモートワークになったが、家では集中できないのでビジネスホテルで仕事をする」といってホテルに不倫相手を連れ込むケース。また「濃厚接触者になったから、ホテル療養しなければならない」と嘘をついて外泊するケースもありました。後者のケースでは、1週間でも2週間でも愛人と気兼ねなく過ごせますからね。
――コロナ禍ならではの逢瀬の方法ですね。
岡田 また、弊社が行ったアンケートでは「料理宅配代行サービスの配達員と仲良くなった」と答えた人もいます。宅配サービスの配達員なら、平日の昼間に家に上がり込むところを見られても不審に思われませんよね。かつて主婦の不倫の定番だった「保険外交員」や「運送業配達員」の現代版といえるかもしれません。「新しい生活様式」でステイホームが周知されたことも、このような不倫が生まれた一因だと思います。

リモート中の密会、フードデリバリー配達員との恋……2022「コロナ禍不倫」最新事情
探偵社に寄せられる依頼の7割超は「不倫調査」――3刷重版が決定したベストセラー『探偵の現場』(角川新書)の著者にして、探偵社「MR」代表・岡田真弓氏はそう語る。しかもこのコロナ禍において、不貞の炎は下火どころか燃え盛り、ニューノーマル時代の「新しい不倫様式」も生まれているという。そんなコロナ禍不倫の実態について今回、調査現場の最前線を知る岡田氏に話をうかがった。岡田氏の著書『探偵の現場』(角川新書)より「大胆不敵な不倫の手口」はこちら。
まん防だからこそ会いたい…! コロナ禍ゆえに燃え上がる「新しい不倫様式」とは
コロナ禍でこそ燃える不倫カップル

岡田真弓氏
マスク必須社会での尾行は○○カバーを見よ
――「新しい生活様式」のひとつとして、日本ではマスクの着用文化が根づきました。顔の判別が難しくなったことは、不倫調査の大きな妨げになるのではないですか。
岡田 はい。とりわけ、尾行における「面取り」(調査対象者と間違いなく同一人物であると、顔写真をもとに確認すること)が困難になっています。ですので依頼人に、調査対象者のマスクの色や種類、身につけている靴やバッグの特徴を事前に細かく聞いて面取りをしています。
あと、案外見落としがちなのがスマホのカバー。愛人と会うときに普段と違うおしゃれをする人はいても、スマホカバーを変える人はまずいません。これは重要な目印になります。
――MR社では、探偵学校を舞台としたドラマ『クロステイル ~探偵教室~』の監修もされています。今後、探偵社の知名度が上がると、コロナ不況に強い職種であるということから転職先として検討する人が増えるかもしれません。どのような人が探偵に向いているのでしょうか。
岡田 探偵小説やドラマの影響で「探偵=アウトローな職業」だと思っている方が多いのですが、意外と普通な人が多いですよ。というよりも、対象にバレないように調査を完遂するには変に目立ってはいけませんから、“普通”じゃないと務まりません。また、探偵というと「尾行」のシーンを思い浮かべる方もいると思いますが、調査のほとんどは「張り込み」。ですので、いかに忍耐力を持って我慢できるかも重要ではないでしょうか。
このように案外地味な職業ですが、毎日違う現場で働けるので、事務職やデスクワークが苦手な人こそ向いてるかもしれません。
――『クロステイル』で檀れいさん演じるジョーカー探偵社代表・新偕理子は、岡田先生がモデルになった部分もあるとか。
岡田 最近は女性の探偵も増えており、弊社にも重要な調査を任せている若手女性探偵が何人もいます。探偵が女性だった場合の利点は、なんといっても調査対象に警戒されないこと。対象者も愛人も、まさか若い女の子にすぐそこまでつけられているとは思わないものです。
依頼者夫婦の7割が元鞘に。ポイントは「早めの対処」
――MR社では不倫の証拠を突き止めるだけではなく、以後の夫婦生活改善に向けたカウンセリングまで行っているとうかがいました。
岡田 探偵の仕事は「不貞の証拠をつかんで終わり」ではありません。なぜ依頼者が弊社に来るかといえば、「不倫を証明したい」からではなく、「夫婦生活を修繕したい」から。不倫調査は夫婦生活を元どおりにする“手段”にすぎず、調査自体が“目的”ではないのです。
ですから弊社では、業界でいち早くカウンセリング制度を取り入れ、証拠をつかむ前から依頼者の根本的な悩みと向き合うようにしています。調査対象の親御さんや育った家庭環境まで調査・分析し、夫婦関係をどのように修繕するべきか、そもそも修繕できるかどうかまで依頼者と共に考える。真に突き止めるべきは不貞の証拠ではなく、不倫に至った原因なのです。
――その結果、夫婦関係は改善に向かうのでしょうか。
岡田 ええ。弊社が担当した依頼者夫婦の7割が元の夫婦生活を継続しており、この数字はコロナ前も後も変わりません。先ほど言ったように、探偵社に来る時点で不倫はすでに末期ではあるのですが、一方で少なくとも片方に「やり直したい」という気持ちがあるのも事実。不倫に至るには必ず原因があるので、その点をとことん話し合ってお互いが正していけば多くは改善に向かいます。
しかし「7割の夫婦は関係を修繕できる」といっても、夫婦としてやり直したいのであれば不倫を放置しておくのはオススメしませんね。風邪と同じで、重症化する前の早期発見・早期治療が大切ですから。
――不倫は誰しも罹患する可能性のある、風邪のようなものである、と。
岡田 そのとおり。しかし気をつけてほしいのは、不倫ほど治りづらく、感染力が強い風邪はなかなかないということです。対処を間違えれば自分だけでなく、家族の人生、愛人の一生まで変えてしまう。ある意味、どんなウイルスよりも恐ろしいものかもしれませんね。
写真:Alamy/アフロ
取材・文/結城紫雄