米・テスラが、2020年3月より展開しているミドルサイズSUV「モデルY(Model Y)」。2022年9月より、日本でもついに納車が開始され、その革新性に話題が集まっている。
モデルYは「世界で最も販売台数の多い電気自動車」ともいわれており、2022年第3四半期(7〜9月)における米国・中国・ドイツでの製造台数は、2016年に発売されたセダンタイプの「モデル3」と合わせて34万5988台と過去最高となった。
現在日本国内で販売されているモデルYは、2種類ある。ひとつが、一充電走行距離507km(WLTCモード、国土交通省審査値)のRWD「モデルY」(6,438,000円)。もうひとつが一充電走行距離595kmで、3.7秒で100km/hまで加速できるパワフルなデュアルモーターAWD「モデルY パフォーマンス」(8,333,000円)だ。
筆者は普段からモデル3を愛車としているが、今回モデルY パフォーマンスに試乗する機会をいただいた。テスラの最新技術が詰まったその乗り心地を、レポートしていこう。

【詳細レビュー】抜群の静粛性と収納力。テスラの最新SUV「モデルY」は、上質な空間を提供する「大人の移動手段」
イーロン・マスク率いるテスラの最新SUV「モデルY」。日本での展開が始まって以来、そのパフォーマンスと乗り心地の快適さに注目が集まっている。現在「モデル3」を愛車としている筆者が、その実力を測るべく、試乗させてもらった。
最新テスラ試乗レビュー
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今回試乗したテスラの「モデルY パフォーマンス」。カラーは「ディープブルーメタリック」
滑らかでボリューム感あるボディ
テスラの車の物語は、2008年に既存の車両を電気自動車に改造した「テスラ・ロードスター」から始まった。その後、ラグジュアリーセダンである「モデルS」を2012年に発売し、そのSUV版として2015年に「モデルX」が登場。続いて、「3万5000ドル」をターゲット価格とする大衆向けセダン「モデル3」を発売している。
今回試乗した最新のモデルYは、いわばモデル3の“SUV版”で、居住性やユーティリティ性を一層高めた中核モデルだ。この車種が、米国や中国で大きなヒットとなっているのだ。

筆者が普段乗っているテスラの「モデル3」(写真提供/テスラ・ジャパン)
モデルYは小さなSUVとしてラインナップされているが、車のサイズは大きく、全長4751mm、ミラーを含まない全幅1921mm、全高は1624mm。日本で売られているSUVとしては、大型の部類に入る。モデル3と比べるとボリュームがあるボディだが、滑らかな弧を描くデザインにより、数字ほど巨大な印象は受けない。
インテリアはモデル3と同様、中央に15インチの巨大なモニターが設置され、ハンドルとレバーが2つあるだけの前席、そしてフラットで広々とした足元のスペースを持つ後席、というシンプルな構成だ。後席はリクライニングに対応している点で、モデル3とは少々異なる。


「モデルY」の前席。シートもまるでソファのように上質
シートもモデル3に比べるとふっくらとしており、リビングルームのソファのようにくつろげる空間を演出している。荷室も広く、3〜4つのスーツケースを楽々と収納可能。ユーティリティ性バッチリな点は、SUVモデルの基礎をしっかりと押さえている。


収納力も抜群。フロントトランクも装備されている
テスラのスタンダード=余計な操作を排除する
早速走り出す。モデル3同様、ハンドルから右に伸びるレバーを押し下げると、シフトが「D」に入る。このレバーは、メルセデスのシフトレバーと同じ使い勝手だ。反対に、左に伸びるレバーは方向指示器とライトのハイビーム操作に使う。押し下げるとすぐに中央に戻る仕組みは、昔のBMWを彷彿とさせる。
自動車メーカーとして完全に後発のテスラは、ハイグレードな自動車に乗っていた人たちをターゲットにすることで、「価格競争に巻き込まれない」マーケティングを展開してきた。バッテリー調達にコストがかかるため車両価格を安くできない、という電気自動車共通の事情から、「安く売らなくていい車」を手がけているというのが現状だ。
その点、「右のシフトレバーがメルセデス、左の方向指示器のレバーがBMW」という、市場で力のあるメーカーの操作性をいいとこ取りをするあたりも、テスラの巧妙なマーケティングが現れているといえる。

「モデルY」のハンドル部分
少し話が逸れたが、上記の操作以外は、基本的にはタッチパネルで行う。というと、「画面を見なければ操作できないのではないか」「メニューを呼び出すのが煩雑だ」というドライバーの意見が出てくるのは想像に容易い。実際に筆者も、モデル3に乗り始めた頃はそう思っていた。
しかし2〜3ヶ月ほど乗ってみて、さまざまな場面での運転を経験してみると、タッチパネルを使った操作への不安や不満は皆無になっていた。
というより、テスラにおいて、タッチパネルは「ほとんど操作しない」のである。
たとえば、ライトは「自動」に設定しておけば、暗くなったときに勝手に点灯する。ワイパーも「自動」にしておけば、雨が降ったときには自動で作動してくれる。エアコンだって、21℃に設定したうえで「自動」にしておけば、いつでも快適に過ごせる。車に乗り込めば、iPhoneのカレンダーに入っている次の予定の場所を、ナビが自動的にセットしてくれる。そもそも、タッチパネルの電源オン/オフといった操作も不要だ。


運転以外の基本操作は、すべてタッチパネルで行う。15インチでマップも確認しやすい
ドライバーとしては退化してしまうのではと感じるほど、ほとんどのことを車がやってくれる。人間は、運転だけに集中すればいい。
また高速道路に入ったときには、シフトレバーを素早く下に2度押し下げて、「オートパイロット」機能を起動。こうすれば、車速を維持しながら前方の車に追随し、車線をキープするところまでを車がアシストしてくれる。ドライバーはハンドルに軽く手を添えるだけなので、長距離でもラクに移動できる。

高速道路での運転をアシストしてくれる「オートパイロット」モード
マニュアル車から車に乗り始めた筆者も、「運転する楽しさ」に心得があると自負している。しかし、テスラに乗り始めてから「運転にだけ集中する」ことの快適さを知ってしまった。
モデルYも、まったく同様の体験を提供してくれる。
「モデル3」とはまったく違う乗り心地
モデルYは、電気自動車らしいワンペダルの運転が可能で、アクセルを離すと完全に静止するまで回生ブレーキをかけてくれる。そのため、街中でも高速でも、アクセルペダルだけを操作すればいい。
今回試乗したのは、よりパワフルな「モデルY パフォーマンス」。アクセルを踏み込んだ瞬間、ぎゅっと勢いよく、驚くべき加速を見せる。日本でここまでの加速を常用する場所はないが、それほどまでに動力性能は十分。ここまでは、モデル3と同じ体験だ。

運転席の足元部分
しかし、実際に走ってみて本当に驚いた。モデル3に比べて、圧倒的に静かで、スムーズな足のこなしを見せるのだ。非常にフラットな乗り味で、段差のこなし方にも “固さ”がない。加えて、走行中の静粛性が高まっており、フカフカのシートや広い居住空間も相まって、まったく別のクラスの車に乗っているかのような上質な体験だった。
表現するなら、モデル3は「やんちゃで元気」に対して、モデルYは「大人でゆったり」。この味付けの違いは、テスラの製造能力の充実や顧客からのフィードバックに応じて、遮音性やサスペンションの向上など、さまざまな対策がなされた結果だと感じられた。
来年にも「モデル3」のマイナーチェンジが企画されているというが、こうした上質性が加わるならば、より競争力が高まるのではないか、と期待が高まる。
そもそもエンジンがなく、振動や音などがない電気自動車だけに、静粛性が高まるとますます「静かな移動空間」という快適さが際立ってくる。

オーディオの質の高さにも定評があるテスラ。上質なサウンドを、タッチパネルで細かく調整可能
ソフトウェア・アップデートで購入後も進化
テスラは、ほぼ毎月のペースでソフトウェア・アップデートを配信している。地図やソフトウェアの更新などが行われ、細かい機能の向上や、ユーザーインターフェイスの見直しなどが加わる。
たとえば2022年12月に配信されたアップデートでは、電力消費の表示機能が向上し、今までは1%単位だった電力消費を0.1%単位で計算し、より効率のいい運転を促す機能が追加された。またラジオ局のロゴを表示できるようになったり、ナビゲーションの経路を複数から選べるようになった。
過去には、それまで用意されていなかった「方向指示器を操作した際に車両側面のカメラ画像を表示する」機能が追加され、さらにその後、その表示位置を3カ所から選べるようになった。追加した機能の使い勝手をさらに向上させるべく、絶えず見直しが行われている。
「モデルY」は最新モデルだが、タッチパネル上での機能や操作方法、設定におけるアルゴリズムの最適化などが今後もアップデートされていくだろう。長く乗る車だけに、購入後にも最新機能が利用できるようになる点は、オーナーとして非常にありがたい。
自動車業界全体で「ソフトウェアによる進化」が当たり前になるとはまだまだ言い難いが、「モデルY」は運転していて楽しい車、そして車にこだわりがない人ほどその快適さを享受できる1台だといえる。


専用アプリ経由で、充電状況のリアルタイム確認や空調設定が可能。車内にはスマートフォンをワイヤレス充電できるスポットも用意
取材・文/松村太郎
写真/黒田彰