とりあえず空いている祖母の古家へ

サトミ(仮名・35)とユウキ(仮名・37)は高校時代、同じ部活動に勤しむクラブメイトだった。大人になって再会、結婚。生涯のパートナーとして一緒に歩き出した二人は、すでに30代になっていた。

ユウキは東京都の幼稚園に保育士として勤めていた。約10年続け、施設長という責任の重い立場にやりがいを感じながらも、結婚を機に、将来の自分自身の子育てをイメージするようになっていた。

サトミは東京の自宅から平日は毎日、埼玉にある設計事務所に通勤していた。

「子どもの時から人混みが苦手だったので、通勤電車は何より苦痛でした。満員の小田急線の車内へと駅員さんに押し込められ、ぎゅうぎゅう詰めの中、痴漢に遭ったり、とにかく多大なストレスでしたね」(サトミ)

元々体が弱く、夜ぐっすり眠れる日が年に一晩か二晩だったというサトミ。疲れと寝不足から、せっかくの休日も朝はなかなか起きられず、半日寝て過ごすことが多かった。今思えば鬱っぽい状態だったのかもしれない、と言う。

二人は結婚を機に、そんなストレスフルな毎日や、これからの家族のかたち、住む場所などについてあらためて話し合った。埼玉県ののどかな町で育った二人にとって、これから先、子どもができたら自然が豊かな地域で暮らしたいというのが一致した意見だった。

そんな時、夫の実家から、祖母が住んでいた家が空いているので使ってもいい、という連絡を受け取る。場所は埼玉県から利根川を渡った県境に近い、群馬県ののんびりした町だった。

二人とも、職業を変えることに抵抗はなかった。

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「とりあえず都内から離れたい。でも、特にどこへ移住したいという希望もなかったので、まずは祖母が使っていた古家に仮住まいし、そこで次のことを考えればいいや。そのぐらいの気持ちで、祖母の家へ引っ越すことにしました」(サトミ)

決心してからの行動は早かった。二人とも、切りのよい年度替わりに仕事を引き継いで退職することにし、2019年3月、東京を脱出。群馬県で新たな生活をスタートさせた。