「転倒」は高齢者の人生を狂わせる。次に転ぶ前に家族ができること_1

高齢者の「1回の転倒」は、対策を講じる重要なサイン

1度転んだ人はまた転ぶ――。これは格言でもなんでもない高齢者の「転倒」の実態です。過去1年間で1度以上転倒した人は次の年に転ぶ確率が5.9倍高くなると試算する調査(※1)もあり、高齢者の転倒をいかに防ぐかは老年医学専門医として優先的に取り組んでいる課題でもあります。

転倒による骨折も深刻ですが、転倒のけがに伴う「転倒後症候群」にも気をつけたいところ。これは転倒でけがをしてしまった人が再び転倒してけがをすることへの恐れから、歩くこと自体に不安や恐怖を感じてしまう病気で、活動量の低下を招き、さらなる転倒リスクを呼び寄せます。

この不安障害はその転倒で仮にけがや痛みがなかったとしても約半数の人に起こると知られていて、3年後にまで続き得るとも報告されており(※2)、決して軽視できません。高齢者にとってはなんとしても避けたい「負のサイクル」といえます。

転倒した本人がケロッとしていたり目立った怪我がなければ、家族側としては「大丈夫? 気をつけてね」で終わることもあるでしょう。ですが高齢者から転倒の報告を受けたら、先ほどお伝えしたように「1度転んだらまた転ぶ」と考えてほしいのです。今度は骨折するかもしれないし、転倒後症候群で歩けなくなるかもしれません。必要以上に心配することはありませんが、1度転倒したらまた転倒する未来も見据え「リスクを減らすアクション」を起こさなければいけないタイミングだと言えます。

転倒防止のために家族ができることは、実はたくさんあります(※3)。その1つが「家の環境を整える」こと。中でも「トイレ」に手すりを取り付け、便座から「ゆっくり立ち上がれる」環境を作ることは非常に有効な対策です。なぜなら排尿時には低血圧になりやすく、失神による転倒事例がとても多いからです。

人間には交感神経と副交感神経があり、いわゆるアクセルとブレーキの役割を持っていますが、排泄時の神経は「ブレーキ」が優位となり、血圧を下げる働きをしています。そこで一気に立ち上がると重力の影響も受け、脳の血液が少なくなり気を失うことがあるのです。特に一部の心臓の薬、高血圧の薬を服用する高齢者は低血圧によるトイレでの転倒リスクが高まるので、過去に転倒経験がなくても注意が必要です。

<参考文献>
※1 Teno J, Kiel DP, Mor V. Multiple stumbles: a risk factor for falls in community-dwelling
elderly. A prospective study. J Am Geriatr Soc 1990; 38: 1321-5.

※2 Austin N, Devine A, Dick I, Prince R, Bruce D. Fear of falling in older women: A longitudinal study of incidence, persistence, and predictors. J Am Geriatr Soc 2007; 55: 1598-603.

※3 CDC National Center for Injury Prevention and Control. Check for Safety: A Home Fall
Prevention Checklist for Older Adults. https://www.cdc.gov/steadi (accessed June 27, 2021).