まず8月16日・17日に起こった東海道新幹線の運休について、JRの発表や一連の報道から整理しておこう。
8月16日、静岡県内で基準値を超える大量の雨が降ったことが発端となり、東海道・山陽新幹線の東京・博多間の上下線にまで見合わせ区間が拡大された。さらにその後、新大阪駅では、大雨の影響で東海道新幹線と山陽新幹線の直通運転を取りやめ、折り返しの駅となっていたことで列車が詰まってしまった。徐々にその影響は広がり、翌17日も上りの博多・浜松間と、下りの浜松・新大阪間で、運転を見合わせるにまで影響規模が拡大したとのことだ。
「今回、大混乱が起きてしまったのは、旧盆中のUターンラッシュにかぶってしまったという時期的な要因が大きいです。通常時であればダイヤを早く回復させるために、ある程度の本数の列車を運休にして、後から出発する列車は定時に出発できるよう整理していきます。しかし今回は旧盆中ということもあり、旅行中や帰省中の利用客が大半だったため、“遅れてもいいからできるだけ多くの列車を走らせる”という方針で、日中に列車を動かし続けていたため、ダイヤの回復が大幅に遅れてしまったのでしょう。
JR東海は16日に、『翌日の始発に影響が出ないよう遅い時間帯の列車を運休にし』と説明していましたが、けっきょくそれも間に合わず整理がつかなくなってしまい、17日にも影響が続いてしまいました。JRの対応としては、遅れが段々と延びていくと予想できなかったのか、少々疑問が残ります」(梅原氏、以下同)
東海道新幹線は自然災害に弱い?―1964年の技術で誕生した路線に今夏の運休のような混乱が稀にしか起こらないのほうがすごいこと。運休時の迂回ルートは…
台風7号の影響で8月16日・17日と、ダイヤが大幅に乱れていた東海道新幹線。なぜ大雨で早々に運休し、さらには2日間にも影響が及んでしまったのだろうか。新幹線の運休目安や注意すべき自然災害、運休時の迂回ルートについて、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏にうかがった。
東海道新幹線の運休が2日間にも及んだ原因

このような事例は珍しいのだろうか。
「旧盆時期に大雨の影響を受けることは珍しいですが、実は、東海道新幹線は他の路線の新幹線に比べると雨や雪の影響を受けやすい路線なのです。というのも、日本初の新幹線だった東海道新幹線は1964年に開通していますので、そこに用いられたのは約60年前の技術。高架橋やトンネルが少ないなど、その後に誕生した他の新幹線と比べて技術的に自然災害を受けやすいのは、仕方ないことでしょう。
今回は台風が旧盆にかぶってしまうという不運が重なったわけですが、そういったイレギュラーのとき以外は約60年前に誕生した新幹線がきちんと運行できていることは、むしろ素晴らしいことだとも感じます」

確かに昭和中期の技術で誕生した路線と考えると、今夏の運休のような混乱が稀にしか起こらないほうがすごいことにも思えてくる。では具体的にどの程度のレベルの雨に見舞われると運休になりやすいのかも知っておきたい。
「大雨によって列車が運休する基準はいくつかあります。1時間に60mm以上の雨の場合、1時間に40mm以上かつ24時間に150mm以上の雨の場合、24時間に300mm以上かつ10分間に2mm以上の雨の場合、などです。
東海道新幹線は盛り土築堤になっている箇所が多いので、地質やその土の強度、補強の度合いなどに応じて判断しています。土壌雨量指数という降った雨による土砂災害危険度の高まりを把握する指標をもとに、そのエリアをどのくらいのスピードで走るのか、カーブ状になっているのか、陥没や線路脇の斜面が崩れてしまう危険性などを考慮し、運転状況を判断しているのです。
特に静岡県、愛知県、岐阜県には大きな川が多いので、河川の水位が上がって氾濫の危険性があるため運休になる可能性はありますね。今回の三島・静岡間もそうですが、雨の影響や河川の増水の影響も受けやすいので、静岡県は列車運行のネックになりやすい区間と言えるかもしれません」
東海道新幹線の運休時、現実的な迂回ルート
「東海道新幹線で雪の影響を受けやすいのは、岐阜県と滋賀県の県境の地域で、区間で言うと岐阜羽島駅と米原駅の関ヶ原エリアです。積雪の影響で40分程度列車が遅れるケースも多く、それが年末年始の帰省ラッシュに当たってしまったこともありました。スプリンクラーを作動させて雪の影響を減らす対策を取っていますが、雪の降り方によっては速度を落として運転することもあります。
ちなみに上越新幹線や北陸新幹線のように豪雪地帯を走る路線には、東海道新幹線のものと比べてはるかに強力なスプリンクラーが備わっており、だいたい降水量に換算すると1時間60mmに相当するぐらいの水を撒いているので、けっこうな雪でも運休することは少ないのです。
では、東海道新幹線でも設置すればいいと思われるかもしれませんが、もともと強力なスプリンクラーに耐えられるようなコンクリートの線路になっている上越新幹線や北陸新幹線とは、基礎構造から異なっている東海道新幹線では導入は難しいのです」

では、東海道新幹線の遅延・運休に巻き込まれてしまった場合の、大阪・東京間の迂回ルートについてうかがおう。
「在来線の東海道線を乗り継ぐルートもありますが、東海道新幹線と同じように自然災害に見舞われると在来線のほうも運休する可能性が高いので、基本的には大きく北に迂回するルートになるでしょう。
新大阪駅から特急「サンダーバード」で金沢駅まで向かい、金沢駅から北陸新幹線に乗り継いで東京駅へ向かう経路が一番現実的ではないでしょうか。東海道新幹線なら大阪・東京間は2時間半程度で行けるのに比べ、この迂回ルートはトータルで6時間程度かかってしまいますが、なんとしても東京に帰りたいといったときには有効な手段だと思います。
また、建設中のリニア中央新幹線ができれば、東海道新幹線の代替ルートとして非常に有効に機能するはずですので、リニアが開通すれば今回のような混乱も大幅に緩和されるのではないでしょうか」
来年で開業60年を迎える東海道新幹線。大雨や大雪などの自然災害に対する弱点が問題視されているが、 梅原氏によると「脱線や衝突を原因とする乗客の死亡事故は1件も起きていない」のだという。もし運休などの混乱に巻き込まれても、冷静に迂回ルートなどを検討していただきたい。
取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/shutterstock
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