60歳からのお金にまつわる“本当に幸せな結末”…老後資金は「夫婦二人で1400万円」が目安、子どもへの遺産も考えなくていい
60代にもなると、遺産相続や老後資金など “お金”にまつわる心配が増えていく。やがては年齢を重ね過ぎて、アレコレ理由をつけてお金を使って楽しむこともできなくなっていくかもしれない。だからこそ、お金の使い方をあらためて考え直すべきなのだというが…いったいどうすべきなのか。『60歳からはやりたい放題[実践編] 』(扶桑社新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『60歳からはやりたい放題[実践編]』#4
親の財産は当てにせず親子円満
60代くらいになると、親御さんを亡くされる方も増えてきます。その際に問題になるのが、「遺産相続」です。相続では、どんなに仲の良い家族でも、誰が何をもらうのか、揉めることが大半です。
推測ではありますが、80代、90代で親が亡くなったとき、子供は60代前後です。定年退職も控え、老後不安を抱えている中、受け継げる財産は少しでも多く欲しいという気持ちが、前面に出てしまうからなのでしょう。
ただ、親の財産は当てにしないほうが円満な人生を送れるように私は思います。

以前、私の病院で出会った女性の患者さんの中には、こんな方もいらっしゃいました。
その方はすでに夫とは死別していましたが、ご自身名義の不動産を持っており、介護に困ったらこの不動産を売って有料老人ホームに移れば良いだろうと考えていたそうです。しかし、いざご自身に介護が必要な段階になっても、子供たちはなかなか有料老人ホームに入れたがらないのです。
そして、親である患者さんが困って私に相談してきたので、私はお子さんに「なぜお母様を老人ホームに入れないのですか?」と質問してみました。
すると、そのお子さんはこう答えました。「先生はご存じないんですか?有料老人ホームは10年償還ですから、今後10年間、母が生きた場合は1円も返ってこないんです。それはもったいなくないですか?」と。
私としては、「不動産はあなたのものではないし、親が頑張って稼いで建てたのだから、好きなように使わせてあげてください」と言ってやりたくなりましたが、こんなお子さんは決して少数ではありません。
本来であれば、子供は親には「お金を使って、残りの人生をもっと楽しんでください」と言うぐらいがちょうど良いのです。
自分に残る財産がいくらあるかということを計算し始めると、親の行動がいちいち気になって、口をはさみたくなってしまう。そんな親子関係は、双方にとってつらいものです。
私は、常日頃から公言していますが、相続税は100%でいいと思っています。そうなれば、年配になればなるほどにお金をどんどん使うようになるので、日本経済も円滑に回るはずです。
子供に遺産を遺す必要はない
親の財産を当てにしない代わりに、あなた自身が子供に財産を残す必要もありません。
私が60代の患者さんによくアドバイスする言葉があります。
それは、「ご自身の資産は、生きている間に自分のために使いきってください」という言葉です。
先祖代々の土地をはじめ、代々受け継いできた資産は別かもしれませんが、ご自身で稼いできたお金であれば、それは後の世代に資産として残す必要はありません。なぜなら子供にお金を残すと、財産トラブルになることが多いからです。
私自身がこれまで見てきた高齢の患者さんの親族の人間関係トラブルは、ほぼ大半が相続についてです。お子さんが一人だけならばいいのですが、複数人いる場合は、少額であってもケンカが発生しがちです。

お金ならまだ均等に分けることができますが、不動産の場合は、なかなか分けることも難しいのです。仮に法律の規定どおりに均等に兄弟間で分けられたとしても、何らかの不満は発生します。
「これまで私が介護を担当してきたのに、どうして他の人と同じ金額なのか」
「親から、兄ばかりかわいがられていて、いつも良い思いをしていたのだから、もっと遺産は減らしてもいいんじゃないか」
「うちの子供よりも、姉の子供のほうが学費の支援をしてもらっていた金額が大きい。あのときの学費分を、私の遺産の取り分に加えてほしい」
など、兄弟姉妹間でこれまでたまっていた恨み、つらみが、相続をきっかけに噴出して、仲がこじれてしまうのです。仮に親族同士では話がまとまっていても、そこにお互いの配偶者が入ってくると、余計に事態は悪化します。実際、相続をきっかけに絶縁したという兄弟姉妹は珍しくありません。
こんな様子を目の当たりにしてきたこともあり、私自身も、子供に財産を残す気はありません。実際、同じように考える人は多いようで、世界一の投資家と言われるウォーレン・バフェットやマイクロソフトのビル・ゲイツ、アマゾンのジェフ・ベゾスなど、世界のお金持ちたちも、「子供には必要以上の財産を残さない」と明言しています。
子供や孫には生きている間にどんどんお金を使おう
親が子供に財産を残すと伝えると、子供は自分のもらえる財産が減らないように、親がお金を使うことを嫌がるようになります。
すると、親が旅行に行こうとしたら「危ないから駄目」と制約をかけたり、高いお店で外食しようとすると「体に悪い」と止めたりするため、親側が窮屈な思いを強いられることもあります。
それより子供には、「自分の稼いだ財産は残さない」とはっきり事前に伝えておいて、子供や孫から「何か欲しいものがある」と相談を受けた際、自分がお金を出したいと思うものであればお金を出すくらいの関係性のほうがちょうど良いでしょう。
また、事前に伝えておくことで、子供は余計な期待を持たず、親の財産を当てにせずに済むし、親も最期まで自由な人生を楽しむことができるはずです。

一方で、生きているうちに子供や孫にお金を使うことは、私は悪いことではないと思います。繰り返しになりますが、現代は資本主義社会です。誰かのためにお金を使うことは、その人から感謝されることにもつながります。
事実、子供や孫のためにお金を使えば、相手にも「自分のことをかわいがってくれているんだな」「大切にしてくれているのだな」と伝わります。
生きているうちに大切な存在にお金を使うことで、自分自身も優しい気持ちになれるし、子供や孫たちにも感謝されるでしょう。自分の財産を生前に使うか、死後に残すかの違いだけで、家族との関係性は大きく変わります。
前者を選んで、みんなに感謝される機会を増やすほうが、残りの人生はもっともっと楽しくなるはずです。
老後資金は「夫婦二人で1400万円」が目安
老後のお金の問題と言えば、みなさまの印象として残っているのが「老後2000万円問題」でしょう。
ただ、この「2000万円」という数字について、あまり気にする必要はありません。
なぜなら、この数字は、2017年の高齢夫婦無職世帯の平均収入から、平均支出を差し引くと、毎月5.5万円分赤字になるため、毎月の赤字を30年間分として、総額2000万円が足りなくなるという計算を元に、導きだされた平均値に過ぎません。
どこに住み、どんなライフスタイルを送るかによって、生活費は違います。だから、あやふやな「2000万円」という数字に心を乱す必要はありません。
先にも述べましたが、人間は年を取ると、お金が若い頃ほど必要ではなくなります。だから、年金が支払われている人であれば、十分にそれで生活できます。

とはいえ、「老後資金が足りなくなったら怖い」という方もいるはずです。
そこで参考になるのが、以前、経済ジャーナリストの荻原博子さんと対談した際に教えていただいた、「実際に介護を経験した人がかかった費用は、一人平均600万円」という数値です。
医療費にしても、日本には高額療養費制度があるため、仮に高額な医療を受けてもさほどお金がかからないので、費用として200万円ほど見ておけば良いとのこと。
つまり、介護費用二人分で1200万円と医療費200万円分。夫婦で合計しても1400万円あれば、最低限の介護・医療用の蓄えとしては十分だそうです。さらに、家を売るなりリバースモーゲージなどを使えば貯金はそれ以下でもいいことになります。
私自身は「最悪、生活保護というセーフティネットがあるのだから、貯蓄はしなくても大丈夫」と思っていますが、仮に「老後が心配」という方は、この数字を一つの目安にしてみてはどうでしょうか。
将来を不安に思ってお金をため込んでも、一番楽しめるタイミングに使わないのはもったいない。体が動かなくなってから、「あれに使えば良かった」「こんなことをしてみたかった」と思っても遅いのです。
人間はいつ亡くなるか分かりません。何歳まで生きるか分からないからこそ、不安に駆られてお金をため込んでしまう。でも、お金はあの世には持っていけません。先のことは心配し過ぎず、幸福感を高めることを優先してほしいと思います。
文/和田秀樹 写真/shutterstock
『60歳からはやりたい放題[実践編] 』(扶桑社新書)
和田 秀樹 (著)

2023/9/1
¥968
208ページ
978-4594095567
ベストセラー『60歳からはやりたい放題』の進化版!
前向きで毎日が楽しくなる60の具体策
これさえやれば大満足人生!
・肉を食え!
・健康診断を受けるな!
・遺産を遺すな!
・若作りをしよう!
60歳以降の不安が解消!
残りの人生を幸せに生きるには?
【目次】
第1章 我慢しない食事こそ、健康の源
第2章 医者や健康診断に騙されるな
第3章 若作りで老化を食い止めよう
第4章 好きな趣味に没頭して前頭葉を刺激すべき
第5章 やりたい仕事を気楽に楽しむ
第6章 お金を使いまくって幸せに
第7章 他人を気にせず自分の人生を生きる!
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