いわゆる「こむら返り」は病名ではありません。医学用語では「有痛性筋けいれん」と言います。
痛みを伴う筋肉のけいれんのことですが、「こむら」はふくらはぎのことを指すので、その周辺が痛くなることを「こむら返り」と一般的に呼ばれています。
ふくらはぎ以外でも、すね、足の指、太もももなりやすいです。
こむら返りは、高齢者の場合はさまざまな病気の原因となって起こることがありますが、足の筋肉や腱に備わったセンサーが誤作動を起こすことによって、起こることがほとんどです。
人間の筋肉は2つのセンサーがあります。
ひとつは筋肉の中にある「筋紡錘(きんぼうすい)」で筋肉が伸びすぎないようにするセンサーの役目があります。筋肉が伸びると筋紡錘は脊髄を通して筋肉に縮むように命令します。
もう一つのセンサーは筋肉と腱の境目にある「腱紡錘(けんぼうすい)」です。
筋肉や腱が伸びすぎないようにするだけでなく、縮みすぎないようにするセンサーの役割を持っています。
通常、腱紡錘は筋肉が伸びたときは、脊髄に情報を送って縮むように命令し、反対に筋肉が縮むと伸ばすように命令します。
これは私たちが自分の意思で筋肉に命令しなくても自動的に行なわれる反射です。
ですが、さまざまな理由でこの腱紡錘のセンサーが働かなくなることがあります。
すると、筋肉が縮んでも脊髄に情報が伝わらないので、筋肉が収縮しっぱなしの状態になりけいれんを起こしてしまうわけです。
これがこむら返りの状態なのです。
寝ているときの急な激痛「こむら返り」はなぜ起こるの? もしかして病気? 筋肉のセンサーの誤作動が原因とは?
夜中や明け方に急にふくらはぎに激痛が走るこむら返り。記者は取材で、一日中ヒールで歩き回った日は必ずなるので毎回つらい…。こむら返りは体の中でどんな状態になっているのか、原因、予防や対策について、下肢静脈瘤専門クリニック目黒外科 院長の齋藤陽先生に解説いただいた。
こむら返りは筋肉のセンサーが誤作動を起こしている

こむら返りの原因は筋肉量の減少や疲労、冷えによることが多い
こむら返りの主な原因は、筋肉量の減少、筋肉疲労、血流が悪い、体の水分不足、冷え、電解質異常が挙げられます。
筋肉量は20代をピークに年齢と共に減少していきます。
当然、ふくらはぎの筋肉も弱くなります。
ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれていて、心臓に血液を送り戻すポンプ作用がありますが、筋肉量が減少するとポンプ作用も弱くなり、リンパ液や血液の流れが悪くなり、疲労物質が溜まりやすくなります。
また、長時間の立ち仕事やデスクワークによって、ふくらはぎの運動が不足している場合も筋肉内に疲労物質が蓄積します。
そのため、筋肉量が減少した運動不足の高齢者は、こむら返りになりやすい傾向にあると言えるのです。
さらに、就寝時のトイレの回数を気にして、水分を十分摂らないこともこむら返りの原因になります。
若い人でも就寝時にこむら返りになるのは、仰向けの状態で寝ているとちょうど布団の重みが足首にかかっています。
すると足首が伸びた状態になっていて、これはバレリーナがつま先で立っているような体勢になります。
そうなると、ふくらはぎやアキレス腱も伸びすぎているので先ほど説明した腱紡錘のセンサーが反応しすぎて、異常に収縮をしてしまい、けいれんを引き起こしてしまうのです。
もちろん、足の冷えや、慣れない靴で歩き回って筋肉が疲労してしまうこととも関係しています。
さらに気温が高く、汗をかく季節も要注意です。
汗をかくと、水分だけでなくナトリウムの不足にもなります。
ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの電解質は筋肉と神経の情報伝達に重要な役割を果します。
スポーツしたり、気温が高い日に外で作業したりすると足や全身がつるのはナトリウムが不足しているからです。
熱中症で全身がつるのは、体の電解質異常によるものなのです。
水分だけでなく、経口補水液などで塩分も摂るようにしましょう。

また、冷え、動脈硬化、水分不足で血流が悪くなると血液は足の先まで届かなくなります。
すると筋肉は酸素やビタミン・ミネラルが不足しがちになり、こういったこともこむら返りの原因と考えられています。
こむら返りの対処法はゆっくり伸ばすのがポイント
こむら返りの対処法はいくつかありますが、まずはストレッチが有効です。
ふくらはぎがつったときは、つま先を持ちゆっくり膝を伸ばしましょう。
ゆっくり伸ばすことがポイントです。
痛くてつらいので、急に伸ばそうとすると筋紡錘や腱紡錘が働いて余計に筋肉を縮ませようとしてしまうので注意してください。
足先やすねがつったときも、けいれんしている逆方向にゆっくり伸ばすようにしましょう。

毎晩、こむら返りに悩む人には漢方の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)が効果的です。
足がつったときに飲むとおさまりますが、夜中によくこむら返りになる人は、寝る前に飲んでもいいでしょう。
ただし、普段からさまざまな漢方を飲んでいて、甘草を含んだ漢方を複数種類飲んでいる人は、偽性アルデストロン症という副作用を引き起こす可能性があるので、注意してください。
また、ふくらはぎを温めるのも有効です。痛いから動きにくいかもしれませんが、熱いお湯のシャワーをかけたり、ドライヤーで熱い風を患部に当てたりするのがおすすめです。冷やすと逆効果なので気をつけること。
予防対策としては、足の筋肉が疲労していると感じたら、入浴して足を温めてから就寝すること。足の疲れがとれて冷えを解消してくれるので、こむら返りの原因を取り除くことができます。
また、水分をしっかり摂ることも大切です。特に就寝中にこむら返りになる人は、寝る前に水分をしっかり摂っておくようにしましょう。
ただ、こむら返りに頻繁になる人は、何か病気が隠れている可能性があります。
特に高齢者は糖尿病、腎臓病、甲状腺機能低下症、動脈硬化などが原因の場合も。
また足の血管がぼこぼこしているなら下肢静脈瘤の疑いがあります。
そういった場合は専門医の診察を受け、治療することで、こむら返りは解消しますので、気になる人は早めに受診するのがおすすめです。
取材・文/百田なつき
関連記事
新着記事
親ガチャの真実…身長・体重は9割、知能・学業成績も5、6割は遺伝という衝撃! 生まれてくる時期や場所、親は選べないけれど、いつまでもその場所にいるわけではない
「居場所がない」人たち#3

なぜ鬼畜米英を叫んだ戦前の右翼は、親米へと「華麗なる変身」を遂げたのか。靖国参拝しながら“アメリカは同盟国!”の思考分裂
『シニア右翼-日本の中高年はなぜ右傾化するのか』#1

