日本人はピュアなものに高い価値を感じる。
お肉が上質であればあるほど、焼かずに生で食べることを良しとしたり、味付けはタレではなく塩だけを良しとしたりしがちだ。
しかし、この際だからはっきり言っておこう。
生肉は確かに美味しいが、火を入れることでお肉は化ける。より香りが際立ち、お肉本来の旨味がより深みを増すのだ。だからこそ焼肉がこれほど人気を得ているのだろう。
また、塩で食べるのであれば分厚いステーキが一番だ。塩は食べ疲れしやすいので、色々な部位を塩で食べても違いが分かりにくかったりする。
そして、年間250食以上焼肉を食べ続けてきて分かったのは、焼肉を突き詰めるとタレに行き着くということだ。良店と呼べないような焼肉店のタレは、お肉の味を消し去るような破壊力がある場合が多い。一方、名店のタレはお肉の味を消すどころか、むしろお肉の味を引き立ててくれる。
では、肉バカが一番好きな焼肉のタレはどこか!?
それは東京・浜松町にある「焼肉くにもと」だ。
くにもとの焼肉にはSNS映えを狙うような派手さはない。ウニやトリュフも出てこない。あくまで王道の焼肉を突き詰めている。

焼肉猛者たちが最後に辿り着く美味しすぎる焼肉。「くにもと」の味よ、永遠なれ
年間250食焼肉を食べる、和牛に人生を捧げた肉バカ・小池克臣氏。彼が日本一の焼肉のタレと称賛する名店「焼肉くにもと」本店の大将が2021年、この世を去った。追悼と、そしてこれからも受け継がれていく素晴らしい味への深い愛を込めて、くにもとの凄さを語る。
牛肉のおいしさをもっとも引き立ててくれる食べ方とは……

浜松町駅近くにひっそりとたたずむ、くにもと本店
焼肉におけるモミダレとツケダレの役割
一般的な焼肉店のタレは2種類ある。焼く前のお肉をもみ込むモミダレと、焼き上がったお肉をつけるツケダレがそれだ。
お肉が運ばれてくるまでに、ツケダレを舐めてみると面白いことがわかる。酸味があって、特別おいしく感じないのだ。しかし、焼いたお肉をツケダレにつけて食べたあとに味わってみるとその印象はガラッと変わり、信じられないほど美味しくなっている。
つまり、名店の焼肉は熱されたモミダレと肉汁がツケダレに加わることで、初めて味が完成するように作られているということだ。
和牛の特徴であるサシに由来する甘みを、ツケダレの酸味がまろやかに包み込んでくれるのだ。そして、くにもとはこのツケダレが素晴らしい。ここまで計算し尽くされたタレにいつも感動を覚える。

くにもとで供される肉には手書きの部位名が添えられている
ちなみにくにもとの最高峰のタレには最高峰のお肉が必要だ。お肉のポテンシャルを引き上げるタレだからこそ、ポテンシャルの低いお肉では、その本領が発揮されない。極上のお肉だからこそ、お肉もタレもどちらも活きるのだ。
特徴的なオーダー、“盛り合わせ”の魅力
くにもとが提供するお肉に銘柄による縛りはないが、じっくりと長期肥育された雌の黒毛和牛のみ、仕入れている。それも東京食肉市場内で上物を扱うことで有名な吉澤畜産の担当者がくにもとのために吟味した極上品だ。
そして、くにもとの焼肉は食べ応えが凄い。1切れのポーションが小さいと何を食べているのか分かりにくいが、くにもとではポーションが大きく、お肉を頬張って食べるために、1切れごとの満足度が全く違う。また、お肉は部位ごとに厚みが違い、部位それぞれの良さを最も堪能できるものとなっている。もちろん食べやすさも工夫されていて、部位に合わせた隠し包丁が入っているため、誰でも大きなポーションの焼肉を難なく食べることができる。
さらにくにもとで特徴的なのは、最初のオーダーでは必ず盛り合わせを選ぶようになっていること。盛り合わせには、上等(7000円)、飛び切り(10,000円)、別格(15,000円・すべて税込価格)があるが、この3種の違いは盛り合わせに入る部位の違いだ。別格にはシャトーブリアンやサーロインといった高級部位がふんだんに盛られている。
肉バカは上等をオーダーすることが多いが、盛り合わせのクラスに関わらず、丁寧な技術と肉の上質さはどれも一緒。必ず大満足してしまう。

高級部位が分厚く盛られた“別格”
くにもとは浜松町に本店と新館の2店舗がある。ご兄弟でそれぞれ切り盛りしていたのだが、昨年12月に本店の大将がお亡くなりになった。
肉バカがリスペクトしてやまない最高の焼肉職人だった。
通い続けるお客の立場として、とても悲しく、お店の心配もしていたが、そんな心配など必要はなかった。大将の2人の息子さんが立派に大将の意志を引き継ぎ、今お店に立っている。また、息子さんたちの焼肉を食べて心から安心した。大将の味がそこにしっかりと感じられたからだ。名店の味はきちんと受け継がれている。
焼肉好きにはもちろん、そうでない人にもぜひこの最高の味を知って欲しい。

盛り合わせのあとに余裕があったらぜひ切り落としをオーダーして
●小池さんによる「焼肉くにもと」の詳細はYouTubeでもぜひ!