東京都葛飾区にある京成立石駅周辺は”せんべろの街”として有名な地域だ。
駅を出て徒歩1分、そこには立石仲見世商店街が待ち構えている。商店街の中に入ると、そこに令和の雰囲気は皆無。平成を飛び越え、昭和にタイムスリップしたかのような錯覚を受ける雰囲気で、まだ明るい時間帯からあちこちでおじちゃん達が飲んでいる。
そんな”せんべろの街”で肉バカを魅了して止まない老舗の焼肉店がある。
立石の中でも有名な居酒屋「宇ち多゛(うちだ)」の目の前で、味のある暖簾を掲げている「幸泉(こうせん)」。
創業40年を超える老舗で、立石を代表する焼肉の名店だ。
店内はL字のカウンターになっていて、ガスコンロが4つ。詰めて座れば最大9人が入れる程のこじんまりとした店内で、2階には宴会用のお座敷がある。お店の雰囲気通り、メニューに奇抜なものはなく、焼肉はカルビとロースといったオーソドックスなスタイル。地元の常連さんが予約もなしにフラッと入ってきて、ビールを喉に流し込みながら焼肉をちょこっと楽しんでいる。

せんべろの街”立石”で40年以上続く老舗焼肉が代替わりして、さらなる極みへ
年間250食焼肉を食べる、和牛に人生を捧げた肉バカ・小池克臣氏。彼が愛してやまない焼肉店は数あれど、せんべろの街として有名な、東京・立石の「幸泉」はその中でもまた特別な存在だ。平成を飛び越え、昭和の香り漂うこの店の神がかったおいしさと魅力をお届けする。
昭和にタイムスリップしたかのような趣

昭和の趣を感じさせるなんとも風情ある佇まいだ
若き2代目の挑戦
つい最近までおばあちゃんがワンオペでカウンターに立っていたが、おばあちゃんの体力的にもキツイ頃合いになり、遂に先日引退を決めてしまった。そして、お店がそのまま閉店になってしまうという流れの中で、幸泉の危機を救ったのがおばあちゃんの実のお孫さんだった。
実はこのお孫さんは元々焼肉屋になるのが夢で、下町の名店、東京・町屋の「正泰苑」で2年、正泰苑から独立した店主が始めた「金山商店」で10年修行を積んだ筋金入りの職人だった。
おばあちゃんの引退を知り、気持ちが揺れる。
幸泉は自分が考えていた焼肉店とはちょっと違う……しかし、悩んだ末にお孫さんが出した答えは、幸泉を継ぐことだった。
これまでの常連さんを大事にしながら、幸泉で自分のスタイルの焼肉を作り上げるチャレンジが始まった。
前菜のセンマイ刺しからハイレベル
幸泉のメニューはかなり絞られている。
黒板には前菜としてセンマイ刺しが書かれているが、これが驚くほど旨い。水っぽさが全くない上に、シャキシャキの歯切れとさっぱりとした味付けのバランスが絶妙なのだ。
この食感を生み出すのはセンマイの下処理時の茹で時間にかかっている。何度もトライ&エラーを繰り返すことで辿り着いた境地だ。肉バカの場合は必ず1人1皿注文するほど、このセンマイ刺しに心奪われている。

シャキシャキの歯応えと旨み溢れるセンマイ刺しは1人1皿頼むべし
そして、誰もが頼む焼肉店の顔とも言えるタン塩。根元の上質な部分が美しくお皿に並んでいる。熱いロースターに乗せればジュッと音が響き、食欲をこれ以上なく刺激する香りが立ち上る。
タン塩に歯を立てれば、サクッサクッと気持ち良い歯切れ。焼肉店の技術がよく分かる塩の塩梅もパーフェクト。さらに2枚目につけた梅ダレがタン塩と絶妙なハーモニーを奏でる。

絶妙な塩加減がタンの味をぐんと底上げする
白米が止まらなくなる神がかったタレ
ハラミは細かなサシがはいった和牛のもの。揉み込まれている塩ダレだけでも十分旨いが、オリジナルの薬味ダレもクセになる味わいだ。
赤身角切もオススメのメニュー。サシの全く入らない部位だが、柔らかでジューシー。唯一の注意点としては、焼き過ぎないこと。パサパサで硬くなってしまうのだけは避けたい。
カルビもロースも並と上があるが、胃袋に自信のある人は全部食べてOKだ。リブロース等を細かく部位分けしていたりするので、何を食べても旨い。
さらに甘みのあるタレの美味しさも特筆すべきもの。東京の焼肉店で多い、砂糖の重たい甘さではなく、甘みがありながらさっぱりとしていて、さらに白米との相性が神がかってるのだ。
特に真っ赤な並のロースをさっと炙る程度で食べると、言葉を忘れ、一心不乱に白米をかき込んでしまう。この並ロースと白米は、毎日食べても飽きないだろう。


並ロースと白米の組み合わせは箸の動きをエンドレスにする
都内でも決して便利とは言えない京成立石にありながら、全ての焼肉好きに通って欲しいと思う名店だ。
おばあちゃんの頃からの常連さんを大事にしながらも、より進化させたオーソドックスな焼肉。
肉バカはおばあちゃんの頃の焼肉も好きだったが、2代目の焼肉はもっと好きだ。
進化しながら受け継がれていく街焼肉ほど魅了されるものはないだろう。
「幸泉」の真髄がわかる小池さんの動画がこちら↓
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