「賞レースで勝つコント」と「面白いコント」は何が違うのか? かが屋・加賀が「面白すぎて死ぬかと思った」と語る、あるトリオのコントとは
「舞台袖に最も芸人が集まるコント師」と称され、芸人からの評価も高いかが屋。そんな彼らが「劇場で見たときに、おもしろ過ぎて死ぬかと思った」と語るあるコントから、賞レースで“勝ち切るネタ”とはどういうものなのかに迫る。
かが屋インタビュー♯2
広く受け入れられるコントは「ファミレス」

かが屋。マセキ芸能社所属。2015年結成。コンビ名は加賀翔(左)と賀屋壮也(右)の名字を合わせたもの
——今年は60本ぐらいネタを書いたと話していましたが、そこから、どういう基準でキングオブコントでかけるネタを選ぶのですか。
加賀 ざっくりと、A群、B群、C群みたいなのがあるんですよ。
——それは1軍、2軍、3軍みたいなものですか。
加賀 いや、わかりやすいとか、わかりにくいみたいな分け方ですね。たとえば、A群はわかりやすくて、大会とかに持っていく用のネタみたいな。で、その中から、キングオブコントで勝てそうなネタを選びます。
——見た瞬間、お客さんがパッとネタの世界に入れるような。
加賀 そうですね。コットンさんとか、それがすごくうまい。僕は野球のことはあまりわからないんですけど、コットンさんは、球速も出る上に、コントロールがいいというイメージ。狙ったところに、強いボールを投げられるタイプなんですよ。だから、いろんな賞レースで結果を残せているのだと思います。
——キングオブコントの2013年の王者、かもめんたるの岩崎う大さんが、広く受け入れられるコントのことを「ファミレス」と評していたことがありました。ただ、ファミレスはお客さんを選ばないけれども、どんな味かはだいたい想像がつく。だから、賞レースで勝つには、ファミレスのように間口が広く、その上で、いかに意外性とか驚きを加えられるかだと。
加賀 ファミレスだと思わせといて、どこまで工夫できるかですよね。ファミレスの料理人だって、こんなメニューも出せるんですよ、と。
賀屋 ご飯の話、わかりやすいですね。「今日のお客さんは何を食べたい口になってる?」 みたいなのも想像しやすい。笑い過ぎてお腹がいっぱいになるっていう表現もしっくりきますよね。
加賀 飯の話になると、急にテンション上がるよな。
賀屋 食べ物にたとえると、想像が無限に広がっていく感じがする。
ビスブラを食べ物に例えたら

加賀 ビスブラ(ビスケットブラザーズ)は何だと思う?
賀屋 めちゃくちゃなデカ盛りを出してくれる町中華。
加賀 なんか違うな。
賀屋 創作系料理か。めちゃめちゃ創作してくるもんな。
——逆に一般の人にどんどんわかりにくくなってきているような……。
加賀 キングオブコント用のネタを作れる人なんて、そういないと思うんですよ。でも、あえて挙げるなら、ビスブラさんは、それがめちゃくちゃ上手な気がしますね。あの人たち、すごく細かいんですよ。叩いて、叩いて、叩いて、どんなにウケていても「まだ詰め切れてない」って磨き続ける。
——ビスケットブラザーズは何年か前から、このコンビはいったいいつ世に出てくるんだろうという大物感がありましたよね。
加賀 最初からおもしろかったですもん。どのネタも。ぶっ飛んでるように見えて、すっごい繊細なんです。独特な筆跡だけど、めちゃくちゃきれいな字だね、みたいな。

——去年のキングオブコントの1本目のネタなんて、きんさんが野犬で襲われているところに、セーラー服にブリーフ姿のヒーローがやってきて、謎のスティックを振り回して「きらきらりん」と言いながら退治するという……。あの設定で、めちゃくちゃにならないというのは、そういうことなんでしょうね。
加賀 ネタ作りを担当している原田(泰雅)さんは、1、2回戦で負け続けていた頃から、キングオブコントの常連だったさらば青春の光の森田(哲矢)さんに「俺はあの舞台で、あんたと戦いたいんだ」って言っていたんです。真顔で。
賀屋 すごいんですよ、気合いの入り方が。『キングダム』(中国の春秋戦国時代を舞台にした武将ものの漫画)に出てくる人みたいな。
加賀 ほんまにそう。
賀屋 顔とかも。
大事なのはお客さんを「どうもてなすか」

——自分たちがおもしろいと信じるものをやることと、賞レースで勝つことって、無理なく一致すればいいですけど、そうでない場合は、本当に難しいですよね。どこまで適応すべきなのか。できない部分もあるだろうし、したくないという部分もあるだろうし。
加賀 僕らにはキングオブコント用にネタを作れるほどの器用さはない気がするな。ただ、ハナコが2019年に優勝したときの2本目の『犬』っていうネタがあるじゃないですか。あれを劇場で観たとき、おもしろ過ぎて死ぬかと思ったんですよ。
でもね、正直、キングオブコントで通用するとは思わなかった。誤解を恐れずに言えば、中学生でも考えられるようなネタですから。「ワンちゃんの気持ち」みたいなタイトルで。一見、普通そうで、ぜんぜん普通じゃないネタなんです。それを構成と演技力で、キングオブコントで勝てるネタにした。
はみ出して、はみ出して、一周して元に戻ってきて優勝したみたいな感じがしましたね。うまく言えないんですけど、あのやり方なら自分たちにもできるかもしれない。完全に合わせるのではなく、合わせたと錯覚させてしまうというか。
——錯覚?
加賀 見やすいと思わせて、見させちゃう。単独ライブを観に来る人は基本的に僕らのファンなので、どんなネタをやっても向こうから歩み寄ってきてくれるんです。
でも、キンブオブコントのお客さんは、僕らを観るのは初めてだという人もたくさんいる。そういうお客さんって「今日はどんな風にもてなしてくれるんですか」という気持ちでいるものなんです。
賀屋 お客さんって、「もてなしてくれてるな」というのを感じるとネタに入ってきてくれるんですよ。
——賞レースのお客さんは、どうしても構えてしまうと言いますよね。
加賀 変な緊張状態になりますからね。普通のライブに比べると、笑っちゃいけないと言われている状態に近い。ネタを純粋に楽しむというよりも、このコンビはスベらないかな、ネタを飛ばしたりしないかな、みたいな感情が入っちゃうので。
でも、そういう状態って、一個おもしろいことがあるとバーンと弾ける。緊張って、弓をキューっと引いている状態に近いので。どこかで耐え切れなくなって、手を離したくなる。そのきっかけのひとつになりうるのが、「もてなし」の精神だと思うんですよね。

取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
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