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新海誠は『すずめの戸締まり』で“大人”になった

土居 まずお互いの新海誠との出会いから話していきたいと思います。ぼくが新海誠をちゃんと知ったのは、2007年に渋谷のシネマライズで上映されていた『秒速5センチメートル』です。
北村さんはどういう風に?

北村 実は映画館じゃなくてレンタルなんですよ、最初に見たの。注目されてる作家だったし、パッケージがやっぱり美しいじゃないですか。それで借りてみたら、今まで見たことないようなアニメーションだったので、びっくりしました。

当時、ぼくが好んで見ていたアニメーションは宮崎駿とか押井守でした。あと今敏なんかも好きでしたけど、ちょっとちがう感覚の作家が現れたなと。

2010年代の作品は映画館で見ましたが、ぼくは『言の葉の庭』が一番好きです。人物造形がいちばんできてると思うんですよ。キャラクターがちゃんと歴史性を持って生きている感じがする。
映像表現もとても美しくて、公園の緑がかった輪郭とかもすごく新鮮でしたし、京都アニメーションの劇場アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形』など、後の作品にも影響を与えていると思います。

土居 ぼくは『言の葉の庭』は観ていると結構ムズムズしてしまうところがあって、映像はすごいけど、出てくる二人が生々しくて……足をめぐるやりとりに、わーっと匂い立つ感じがあって、ちょっとおののいてしまう。『君の名は。』以前の、えぐみが取り切れる前の新海誠の真骨頂というか。

逆に『君の名は。』以降の新海誠はどんどんえぐみが取れていって、今回の『すずめの戸締まり』なんてある意味で丸くなったというか、成熟したような感じ。

北村 新海誠が大人になった感じがしますね、ついに。