――名久井さん、今日の撮影中ずっと画集を持っていてくださいましたが(笑)、ご自身でお気に入りポイントはありますか?
名久井 私は、パカッと開く仕様が気に入っていますね。

「50周年記念画集に込められた、スタッフの想い」くらもちふさこ×名久井直子スペシャル対談(中)〜デビュー50周年記念画集『THEくらもちふさこ』こだわりのすべて その3
画集「THEくらもちふさこ」のデザインを担当した名久井直子さんとくらもちふさこ先生の初対談。「印刷した方がきれい」「原画の方がきれい」とゆずらないおふたりが、画集のデザインプランをたっぷり語ります。(具体的な仕様の話はこちら)

名久井さん曰く「並製のホローバック」。本文部分はPURという糊で接着されていて、本表紙と背はくっついていないため、パカっとひらく (撮影:細川葉子)
くらもち 私のお友達も「開いてみました」とメールをくれましたよ(笑)。このページを開いてみたくなります。

『海の天辺』コミックス1~4カバーイラストの収録ページ 広開本だからノド(本の内側の綴じ目)も切れない(撮影:細川葉子)
―――『海の天辺』のこのイラストをできるだけ大きく収録したい、ということで名久井さんと図書印刷さんが仕様をきめたそうです。チップボール(板紙の一種)を使った本表紙も面白いですね。
名久井 くらもち先生の作品は、ファンなら文字だけでも絵が見えてくるんですよね。だから、画集だけどあえてこのデザインをやりたかったんです。

薄手のチップボールにオペーク白でロゴ印刷した上に、『東京のカサノバ』のセリフだけを鮮やかなピンクであしらった本表紙

画面左(表4側:裏表紙)は『花に染む』で弓を射るシーンの遠景
くらもち 私、紙のグレーの色味に蛍光ピンクの組み合わせるのが好きなんですよ。名久井さんは好みのものを作ってくれるというより、新しい好みを作ってくれますね。
名久井 全ページをこのザラ紙に刷ってもかわいいですよね。画集としてはダメだけど(笑)。
くらもち それ、面白いね(笑)。でも、この本文用紙の手触りも好きです。持った感じがソフトですよね。
名久井 これは日本製紙の紙ですよ。くらもち先生は日本製紙の紙じゃないと!
くらもち なるほど。これはきっと父もよろこんでいるんじゃないかな…(注:くらもち先生のお父様は日本製紙勤務。『いろはにこんぺいと』のアパートも、かつて駒込にあった製紙会社の社宅がモデルだ)
――くらもち先生は過去にも何冊か画集やムックが出ていて、どれも素晴らしいので、差別化が難しかった、と担当編集のさっほーさんが仰っていましたが、いかがですか?
くらもち 絵は変わっていないので、同じになってもおかしくないのに、一切そういう声を聞いてないんですよ。過去の本ももちろん好きですが、これは本当に別物になっていますね。「お買い得」という声を聞いたとき、本当にうれしかったです(笑)。
くらもち先生のコメントも多数収録
――「コロナ禍もあったので、どうしても原画展においでになれない方もいるだろうから、画集は先生と一緒に歩いて見て回っているような構成にしたい」という担当さんの想いから、できるだけ時系列で、作品と同じページに先生のコメントも掲載する、という方法をとったそうです。
名久井 作品もコメントも頑張って収めましたよ。制作スタッフの間で「キッチリオサメール」と呼ばれながら(笑)。

キャプション(出典)とくらもち先生のコメントKURAVOICEを同一ページ内に置きつつ絵の邪魔をしないよう配置するのが「キッチリオサメール」。手間がかかるので、ふつう画集ではあまりやらない(撮影:ハナダミチコ)
名久井 私はここも気に入っています。絵が欠けるから普通画集ではやらないんですけど、先生はいいよと言ってくれる気がして。
くらもち いいます(きっぱり)。

『THEくらもちふさこ』33p。角版イラストの背景に、ちょっとだけ別イラストが乗っている。キッチリオサメつつ、微妙な破調が好リズムに(撮影:細川葉子)
くらもち 私は、その神社でお参りするページが、原稿よりも統一感があって好きなページです。

『THEくらもちふさこ』36p。『いろはにこんぺいと』の淡いカラー本文を雑誌の時と同じサイズで収録している(撮影:細川葉子)
名久井 その感覚は先生しかわからないものですよ(笑)。私はできるだけ原画に近づけようと頑張るしかないですから。
くらもち 「このページ、こんな風になったんだ!」って、うれしくって飛びあがっちゃったもの。
名久井 印刷すると、原画の強いところが物理的に少し弱まって、やわらかくなるせいですかね?
くらもち そういうことか〜。でも改めてこうして画集をみると、名久井さんが随分こまかく見てくださったんでしょう。
名久井 夜中にみんなでずいぶん色校正をしましたね。
――1晩で赤ボールペン1本使いきってらっしゃいました。

実際の校正紙。原画と突き合わせながら、細かく赤字を入れる。
名久井 そう! インクが切れちゃって(笑)。何度も校正取らせてもらい、最後の最後は沼津の図書印刷さんの工場まで行きました。図書印刷さんも最後まで対応してくださって。…ギリギリだったんですよね。翌週はもう〈まん延防止〉で工場に入れなかったんで。
くらもち みなさん、そんなに……。泣きそうです。
名久井 工場に行っちゃうと、もう版は変えられないですけど、インキの強さを変えられるんです。用紙の部分部分で強さを変えられるので、最後に少し調整するとだいぶきれいになります。
くらもち そんなことができるんだ! いろいろなことを経験されているから、こんなに綺麗な色にできるんですね。
――名久井さんが色校正で大事にしていることは何でしょうか?
名久井 印象が近いことですね。本当は全点まんべんなく原画と近づけたいけど、それはできないから、見た目の雰囲気や感覚を大事にしています。
くらもち 感覚って大事ですよね。
――少女漫画誌は昔から墨版を入れない3色+蛍光ピンクで分解してきたので「原画のままにはならない」という大前提があります。
名久井 今回は墨も入っていますから、連載当時の記憶がある人からすると全体的にカリッとして見えているかもしれないです。そういえば、2色印刷もなくなりましたね。
――今ではコスト的に4色印刷と変わらなくなったのと、描き手の手間も4色と変わらないのだそうです。

『別冊マーガレット』1985年3月号。2色印刷の予告がオシャレ(撮影:細川葉子)
くらもち わー、このページなつかしい。これは当時の別マ自慢の緑の2色ですね(笑)。この色がとても特別な色だと編集さんに言われた記憶があります。私自身は2色ページ好きだったんですよ。
なじませた差し色使い
――ちなみに 今回の画集で使われているブルーとピンクの差し色はどのように決められたのでしょうか?
名久井 これはですね…先にピンクを使おうと決めていました。
作品ごとに目印を入れたいわけだけど、収録する原画の横幅を狭めたくなかったので、斜めにして乗せちゃおうと。どの絵にも蛍光ピンクの要素が入っているから、重なっても馴染むんですよ。

作品の区切れ目に入る印象的なピンクの帯(撮影:細川葉子)
くらもち 蛍光ピンクってオールマイティに使える色ですよね。
名久井 そうですね。蛍光100%になると絵より派手になってしまうから、そこは落として使うように気をつけました。
くらもち ピンクと言ってもどのピンクでもいいわけじゃないんですね。
名久井 蛍光ピンク100%ではなく、マゼンタ(赤紫)とイエローも混ぜることで少し色味を弱くしています。自分では派手な色というより、落ち着く色かなと思って採用しました。このピンクと対となるようにしたのがKURA VOICEの見出し部分の水色です。そこからカバーの色に近づいていく感じですかね。

ほんの少し黄味がかった品のいい水色。Y版に蛍光のあるインキも混ぜているため、ピンクと対抗できる発色に(撮影:細川葉子)

カバーはくらもち先生が「ナクイブルー」と呼んだ色(撮影:細川葉子)
対談<下>につづく

©くらもちふさこ/集英社
デビュー50周年記念くらもちふさこ展―デビュー作から「いつもポケットにショパン」「天然コケッコー」「花に染む」まで―
<開催地>弥生美術館
<開催期間>2022年1月29日(土)〜2022年5月29日(日)
<リンク> https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/now.html
ⓒくらもちふさこ/集英社
撮影 細川葉子
取材・文 ハナダミチコ
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