1月10日(現地時間)、第80回ゴールデン・グローブ賞授賞式が行われた。会場はこれまで通りビヴァリーヒルトン・ホテルで、セキュリティを過ぎて、レッド・カーペットーー実際には今回は灰色の絨毯だったーーに足を踏み入れたときから、すでに感極まっていた。正直なところ、無事この日を迎えられるとは思っていなかったからだ。
業界大バッシングで、存続すら危ぶまれた第80回ゴールデン・グローブ賞が開催。華やかなスターの姿と、感動の裏事情!【授賞式編】
主催するハリウッド外国人記者クラブが人種問題や運営方法で糾弾され、昨年は中継が見送られたゴールデン・グローブ賞。しかし記念すべき80回を迎えた2023年は、きらびやかにカムバック! その裏側と本賞の意義を、最速でお伝えする
ゴールデン・グローブ賞は消滅の危機に瀕した

「斬新」という理由で“グレー・カーペット“となった今年のGG賞。世界中からメディアが取材に詰めかけた。中央は女優のラヴァーン・コックス
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ご存じの方もいるかもしれないが、昨年のゴールデン・グローブ賞はテレビ放送されなかった。ゴールデン・グローブ賞を主催するハリウッド外国人記者クラブに黒人会員がいないことがメディアで大々的に報じられ、それにともない、放送権を持つ米NBCが2022年の授賞式中継の放送中止を決めたためだ。
それが、2021年5月のことである。トム・クルーズも過去に受け取った3つのトロフィーを、抗議の意味をこめて返却。ハリウッド外国人記者協会は業界の腫れ物となり、誰もが距離を取ろうとしていたのだ。
その後、ハリウッド外国人記者クラブが行ったさまざまな改革について、ここではいちいち述べない。当事者(※)が書いたところで客観性に欠けるし、悪意を持った人ならいくらでもケチをつけることができるからだ。ただ、1年半ものあいだ、コロナ禍がもたらした陰鬱なムードとあいまって、ぼくはゴールデン・グローブ賞が消滅する心構えをしていた。
※小西氏は同クラブの会員

シアターで発表される一般的な映画賞とは異なり、スターたちが円卓を囲んでディナーも供されるGG賞は、ハリウッドいち華やかなパーティでもある
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だからこそ、セレブたちでごった返すレッド・カーペットを目の当たりにして、涙がこみ上げてきた。ゴールデン・グローブ賞は、いまもエンタメ業界に必要とされていたのだ。
初司会を務めたジェロッド・カーマイケルは、冒頭のモノローグでハリウッド外国人記者クラブをめぐるスキャンダルについて言及。黒人だからこそ司会に起用されたと自虐的なジョークを披露した。

司会のジェロッド・カーマイケル。スタンダップ・コメディアンとして知られる
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才能発掘の場兼パーティでもある唯一無二の賞
だが、重苦しいムードを一変してくれたのが、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)で助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァンだった。
「私は自分のルーツを決して忘れるなと言われて育てられました。そして、最初のチャンスを与えてくれた人への恩を忘れるなと」

感動的な受賞スピーチを披露するキー・ホイ・クァン。復活おめでとう!
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そう言うと、『フェイブルマンズ』(2022/映画ドラマ部門作品賞・監督賞を受賞)チームのテーブルに座ったスティーヴン・スピルバーグ監督に感謝の気持ちを述べたのだ。
そう、クァンといえば、子役としてスピルバーグ監督の『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)に抜擢された過去がある。その後は長く裏方の人生だったが、本作で表舞台にカムバック。ゴールデン・グローブ賞という晴れ舞台で、クァンは恩人に謝辞を伝えることができたのだ。

スピルバーグ自身も自伝的作品『フェイブルマンズ』で作品&監督賞の2冠に
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その後の展開は、涙あり、笑いあり、ハプニングありで、つまりはいつも通りだった。数ある映画賞のなかでも、ゴールデン・グローブ賞は「Party of the Year(1年で最高のパーティ)」と称される。映画だけでなくテレビドラマも対象のため、ハリウッドの人気セレブが一堂に会して、結婚披露宴のように円卓を囲み、お酒も振る舞われからだ。お堅い雰囲気は皆無。実際、ぼくの目の前の『ウェンズデー』(2022)のテーブルにいたティム・バートン監督のもとには、役者たちがひっきりなしに挨拶に来ていた。

右からティム・バートン監督、『ウェンズデー』主役のジェニー・オルテガ、パーシー・ハインズ・ホワイト
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一定期間仕事をしたのちに、バラバラになるというノマド的な生活をしているハリウッドのタレントにとって、ゴールデン・グローブ賞は旧交を温めたり、憧れのスターや監督に挨拶する絶好の機会となっているのだ。

受賞は逃したものの『バビロン』テーブルはゴージャス。ブラッド・ピットとマーゴット・ロビー
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ゴールデン・グローブ賞のもうひとつの意義は、新たな傑作や才能の発掘にある。他の映画賞やテレビ賞と比較して、ゴールデン・グローブ賞は新人や見過ごされてきた作品に積極的に賞を与えることで知られている。今年もシーズン2にはいったばかりのシチュエーションコメディ『アボット
エレメンタリー』(2021~)に、作品賞(テレビ<コメディ/ミュージカル部門>)をはじめ、主演女優賞、助演男優賞を授与している。

タイラー・ジェームズ・ウィリアムズ(中央)の受賞に驚喜する『アボット』一同
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こうした姿勢は、駆け出しの役者にとっては大きな励みになるはずだ。実際、人気俳優のジョージ・クルーニーも、『ER 緊急救命室』(1994~2009)でゴールデン・グローブ賞を受賞したことが、俳優としてのブレイクのきっかけになったと語っている。
一連の騒動のおかげで、ゴールデン・グローブ賞の価値を再確認できた。来年の授賞式にむけて、今年もたくさんの作品を見ていきたいと思う。
第80回ゴールデン・グローブ賞(2022年度)受賞リスト
◆映画<ドラマ>部門◆
作品賞 『フェイブルマンズ』
主演女優賞 ケイト・ブランシェット(『Tar』)
主演男優賞 オースティン・バトラー(『エルヴィス』)
◆映画<コメディ/ミュージカル>部門◆
作品賞 イニシェリン島の精霊
主演女優賞 ミシェル・ヨー(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)
主演男優賞 コリン・ファレル(『イニシェリン島の精霊』)
監督賞 スティーヴン・スピルバーグ(『フェイブルマンズ』)
助演女優賞 アンジェラ・バセット(『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』)
助演男優賞 キー・ホイ・クァン(『エブリシング・エブリウェア~』)
脚本賞 マーティン・マクドナー(『イニシェリン島の精霊』)
アニメーション映画賞 『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
非英語映画作品賞 『アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判』
作曲賞 ジャスティン・ハーウィッツ(『バビロン』)
主題歌賞 「Naatu Naatu」(『RRR』)
◆テレビ<ドラマ>部門◆
作品賞 『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』
主演女優賞 ゼンデイヤ(『ユーフォリア/EUOHORIA』)
主演男優賞 ケヴィン・コスナー(『イエローストーン』)
◆テレビ<コメディ/ミュージカル>部門◆
作品賞 『アボット エレメンタリー』
主演女優賞 クインタ・ブランソン(『アボット エレメンタリー』)
主演男優賞 ジェレミー・アレン・ホワイト(『一流シェフのファミリーレストラン』)
◆両部門共通◆
助演女優賞 ジュリア・ガーナー(『オザークヘようこそ』)
助演男優賞 タイラー・ジェームズ・ウィリアムズ(『アボット エレメンタリー』)
◆テレビ<短期シリーズ/アンソロジー/テレビ映画>部門◆
作品賞 『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』
主演女優賞 アマンダ・サイフリッド(『ドロップアウト シリコンバレーを騙した女』)
主演男優賞 エヴァン・ピーターズ(『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』)
助演女優賞 ジェニファー・クーリッジ(『ホワイト・ロータス~』)
助演男優賞 ポール・ウォルター・ハウザー(『ブラック・バード』)
◆名誉賞◆
セシル・B・デミル賞 (映画への功績) エディ・マーフィ
キャロル・バーネット賞 (テレビへの功績) ライアン・マーフィ
ゴールデン・グローブ賞だから見られるこの風景

記念写真を撮る『ブラックパンサー』組。中央がレティシア・ライト、右が助演女優賞を受賞したアンジェラ・バセット
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現ファッション番長アニャ・テイラー=ジョイと現カレの俳優マルコム・マックレー
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クァンとダブル受賞で、健在ぶりを見せつけた旧香港勢ミシェル・ヨー姐さん
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ビリー・ポーターはまたまたド派手なフューシャピンクのタキシード・ドレスで話題を呼んだ
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『エルヴィス』でタイトルロールを演じ主演男優賞を獲得したオースティン・バトラーと、プレスリーの元妻リサ・マリー
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プレゼンターを務めたショーン・ペン
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ドラマ部門の主演男優賞コリン・ファレルとブラッド・ピットの記念撮影。こんなツーショット、GG賞でなければ見られない
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