映画とはテレビの洋画番組で観るものであった

初めての映画との出会いは、映画館かというとそうでもなく、もっぱらテレビの洋画劇場とかでした。 大前提として映画を観る選択肢でビデオがまだ普及する前の時代。 料理で言うところの、チンすりゃなんでもあったまる電子レンジが登場する以前とでも言いましょうか。

このビデオがない時代感がわかってもらえないので、事細かに説明する機会が増えてきても、まるで石器時代について解説するようで、惨めな気持ちになってきます。最近一番の衝撃はレンタルで借りてきたテープを巻き戻す———“巻き“戻す習慣がすでになくなっている———だってメディアがディスクだから! 彼ら彼女たちにとっては生まれたときからずっと。なんということでしょう?  さらにこれからは、どうしていちいちディスクをセットしてたの?という質問に答えなければならない時代が来るのです。間違いなく! 

「映画でここまで人間の葛藤を描けるのか!」高2の樋口真嗣を打ちのめし、池袋の街をさまよわせた『未知への飛行』。そしてそれを日本に持ち込んだ『シベ超』のマイク水野とは?_1
©Science Photo Library/amanaimages
すべての画像を見る

すべての関係が目まぐるしく変わっていく…変化、進歩、発展。大好きだった新しいものはどこへいったのか。気がつけば進化という名の奔流から取り残されているのでしょう。

そんなロートルの戯言第2弾でございます。 

映画評論家の強烈なパーソナリティ

かつて、高視聴率を稼げる目玉として、テレビ番組の形で映画をオンエアしていた時代がありました。各局ともゴールデンタイムに、劇場公開終了した映画を独自のキャスティングで日本語吹き替えにして、前後に解説者が見どころを解説して、と至れり尽くせりのパッケージングで、毎週放送していたのです。

基本的に午後9時から始まり11時ちょっと前で終了する枠なので、CMを抜くと正味1時間半弱。世にある映画はだいたい2時間前後だったから、20分近くはカットされた編集版。だけど劇場公開時観ていなかったら、比べようがないのでどう違うのかもわからない。似ても似つかない、というか最悪の場合、台詞も音楽も番組都合に合わせて変えられた、まったく別物を見せられていたと後で知って、愕然としたのも良い思い出で、むしろそんなバージョンが何度目かのパッケージ化の特典として珍重されてたりもするから、何がどう正しいのかさっぱりわかりません。

それでも家にいながらにして映画が観られる。しかも毎週、と言うより民放各局が各曜日のゴールデンタイムを洋画劇場に割いていたんだから、ある意味夢のようでもあるけど、なんでも配信で見放題の今のほうが絶対夢のような状況だと思うんだよね、みんな感謝してないけどさ。

月曜はTBSの「月曜ロードショー」。 火曜はなくて、水曜は日本テレビの「水曜ロードショー」、のちに金曜に移って今でも番組枠として残っている唯一の存在。木曜は東京12チャンネル改めテレビ東京の「木曜洋画劇場」。金曜がフジテレビの「ゴールデン洋画劇場」。土曜を飛ばして日曜がNET改めテレビ朝日の「日曜洋画劇場」。

それ以外にもイレギュラーな特番枠や野球中継が降雨で中止になると雨傘番組として映画をやったりするので油断も隙もなかった——っていうか、野球中継も今やほとんどの野球場がドーム球場で開催しているから中止とかないんだなあ。未来だよねえ。

もちろん、今だったら好きな映画を好きなタイミングで観る方法がいくらでもある。決まった時間にテレビの前に座らないと享受できないのは不便極まりない。でも、その一期一会のドキドキ感って実は映画館で初めて映画を観るときにちょっと似ていて、今思い出しても不便を感じることってそんなになかったのです。

しかも始まる前の解説、これがなければ本編がカットされるのも減るんじゃないかと思うんだけど、小さな親切であり大きなお世話ともいえるこのコーナー、各局それぞれに個性あふれる解説者を擁していました。

老舗のテレビ朝日は「昭和を代表する映画評論家」というよりも「映画評論家のアイコン」というべき淀川長治さん。TBSは映画評論家であり食通でオーディオ評論家の荻昌弘さん。おっとりとした語り口で紳士的でなかなか素敵だったのに1988年に亡くなって、コメディアンの小堺一機さんが後を引き受けたものの、当時30代とまだ若い小堺さんにはその年輪の差は埋め難かった。なんか若造が偉そうに映画のこと語ってんじゃないよって感じに見えたわけですよ…自分なんかもっと若造のくせに! 

「映画でここまで人間の葛藤を描けるのか!」高2の樋口真嗣を打ちのめし、池袋の街をさまよわせた『未知への飛行』。そしてそれを日本に持ち込んだ『シベ超』のマイク水野とは?_2
元祖映画評論家・淀川長治氏は「ロードショー」でもおなじみの存在だった
©ロードショー2009年1月号/集英社

で、フジテレビは俳優の高島忠夫さん。テレビ東京は2〜3年おきに変わって番組の顔として定着しなかったけど、1987年に洋画劇場解説者としては珍しく女性が起用される。映画評論家の木村奈保子さん。他局でも何かしら繰り返される、洋画劇場番組の特徴とも言える最後の決め台詞が、「あなたのハートには何が残りましたか?」という問いかけで、なんともいえない気分になったけど、17年間続いたんだからすごいモノですねえ。