キングオブコント“禁断のキスネタ”で会場を沸かせたいぬ。「決勝進出が決まって、尊敬するジャルジャルさんにアドバイスをもらいにいったら…」
キングオブコント2022では禁断(⁉)のキスネタで大いに会場を沸かせたいぬ。大会中、最大の“問題作”となったパーソナルトレーナーと中年女性の純愛ネタはいかに生まれ、ブラッシュアップされていったのか?
いぬ インタビュー♯2
僕らは長いこと「キモ」が強過ぎた

いぬ。吉本東京所属。2009年結成。ネタ作り担当の有馬徹(左)と太田隆司(右)はともに宮崎県出身で、高校時代はラグビー部の同級生
——いぬは、これまでのキングオブコントでは5年連続で準々決勝止まりでしたが、今回、初めてその準々決勝の壁を突破し、そのまま一気に決勝の舞台までたどり着きました。準決勝で足踏みする組が多い中、初めての準決勝でいきなりクリアするというのは、なかなか珍しいですよね。
有馬 僕らは毎年、1、2回戦はすごいウケるんですよ。でも、次の準々決勝になると急にウケなくなる。ネタ時間が1、2回戦は2分なんですけど(今大会から2回戦は3分に変更)、準々決勝になると急に5分と長くなるんです。僕らは瞬発力があるというか、キモおもしろいみたいな感じのちょっとふざけたネタが多くて。そのノリだと5分はきつかったのかもしれません。
——今回、その準々決勝を初めて突破した『夢の中で』というパーソナルトレーナーと中年女性の純愛物語のネタは、確かに、その瞬発力と、展開力を併せ持っていましたもんね。あれは新ネタなのですか?
有馬 今年の2月ぐらいにできました。そこからブラッシュアップしていって、ラブストーリーのような形になったのは5月くらいですかね。僕らは長いこと「キモ」が強過ぎたんです。けど、ここ最近、そこにようやく「おもしろい」の部分もついてくるようになって。
——ネタおろしの段階から今までとは違う手応えがあったのですか。
有馬 ぜんぜんウケ方が違いました。これ、もしかしたら……って。
太田 もしかしたら、今年はキングオブコントの決勝に行けるんじゃねえかって思いましたね。
——準決勝はとても広い会場でしたが、いぬの場合は、それをものともしないパワーがありましたよね。
有馬 速いテンポの掛け合いがある組とかは、広過ぎてやりにくかったでしょうね。僕らは主に動きで見せるネタだったので、そこは有利に働いたのかなという気がします。
——お客さんも笑えて笑えて仕方ないという感じでした。
有馬 ネタが終わったときは正直、トップ3に入るぐらいのウケ量があったんじゃないかと思いましたね。
キングオブコント独特の「ドーン」で明転

——決勝進出が決まったことをマネージャーから伝えられたときの動画があるじゃないですか。そのときの喜び方が10組中、いちばん派手でしたね。太田さんが飛び上がっているのを見て、ある芸人さんが「本当に犬みたいに喜んでました」と笑っていました。
太田 僕は半々ぐらいの感覚だったんです。受かっても落ちても不思議じゃないな、と。自分たちもウケたという手応えはあったんですけど、準決勝は全組、拍手笑いが起きてたような感じだったんですよ。なので、ガチャってマネージャーが入ってきたとき、めちゃくちゃ心拍数が上がりました。きたっ! って。
——マネージャーが結果を伝えに来たとわかったわけですね。
太田 はい。もう2時間ぐらい待っていて。動画を回しながらマネージャーが入ってきた瞬間、ちょっとニヤニヤしてるように見えたんです。「これは、もしかしたら……」と思いましたね。そうしたら、本当に合格だったんで、よっしゃー! ってなって。
——準決勝がいちばん緊張するという人もいれば、やっぱり決勝がいちばんドキドキしたという人もいます。2人の場合はどうでしたか。
有馬 僕は準決勝も決勝もガチガチでしたね。ずっと緊張していました。
太田 僕はどちらも楽しもうという方向にマインドを持っていけましたね。
——傾向として、ネタを考えている人のほうが絶対緊張していますよね。いぬでいうと、だから、有馬さんですよね。
有馬 準決勝の出番前とか、僕はかなり前から袖でスタンバイしているんですけど、相方はどこかへ行ったり、後輩としゃべったりしていて。それがほんとイライラするんですよ。「もっと気持ち入れてくれよ」って。僕はずっとピリピリしていましたね。
太田 決勝のリハーサルがいちばん緊張したかな。キングオブコントってネタの開始時、「ドーン」って音が鳴って舞台が明転するじゃないですか。あれをリハーサルで実際に体験して、一気に緊張がきました。いよいよキングオブコントが始まるんだな、って。
有馬 緊張するよね、あれ。
——コントで、ああいう始まりは普通ないものですか。
太田 ないですね。キングオブコントだけだと思います。
ジャルジャルからのアドバイス

——M-1だと出囃子がとても印象的ですが、キングオブコントも特徴的なのですね。
有馬 はい、キングオブコントは「ドーン」です。
太田 あれはリハで一度、体験しといてよかったなと思いましたね。
——細かな話になりますけど『夢の中で』は、太田さんは本名のままなのに、有馬さんは「吉田さん」という役名を付けていました。それはなぜですか。
有馬 太田は実際、パーソナルトレーナーもやっているし、半分くらい太田が入っている役なんで。僕の場合は女性だし、完全に別人なので、有馬のままだとちょっとおかしいかな、と。僕らは結構、コントごとに名前を変えますね。そっちの方が役に入りやすいですし。僕はジャルジャルさんの影響をかなり受けているんです。そのジャルジャルさんはコントごとに名前を変えるんですよ。
——確かに変えますね。変えない派は、名前を間違えるのが怖いからって言いますよね。今回は、そのジャルジャルさんからアドバイスをもらったりもしたのですか。
有馬 いやいや、できないですよ。畏れ多くて。
太田 僕は「決勝進出おめでとう」と言われたときに、ちょっとグイっと近づいてみようと思って「決勝は、どんな心持ちで行ったらいいですか?」と聞いたら、「それは、ちょっと知らんわ」みたいな。
——いかにも言いそう。
太田 「自由にやったらええんちゃう?」みたいな。アプローチの仕方を完全に失敗しました。お2人ともシャイな方なので。

取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
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