クロコップが「来年の決勝進出は絶対無理」と断言する理由。元同居人・お見送り芸人しんいちには「漫才やめた方がいいです」と言われ……
クロコップ インタビュー♯3
今年と同レベルのネタを2本揃えるなら、あと4年は欲しい

クロコップ。ケイダッシュステージ所属。2013年結成。ネタ作り担当の荒木好之(左)としょうた(右)はともに大阪府出身で中学の同級生
――決勝が終わったときの率直な感想は?
しょうた 終わっちゃったな、って。優勝できなかった悔しさよりも、終わっちゃった感。終わらせるのがもったいなかったです。決勝が決まってからの一ヶ月、ファイナリストになったことで仕事もチラホラもらえるようになったりして。その期間が終わってしまうんだな、って。
荒木 ライブに出るたびに「おめでとう」と言ってもらえましたから。ほとんどしゃべったことのない後輩があいさつに来てくれたり。
しょうた これでまた、あの1年が始まるんだなっていう気持ちですね。また一からがんばらないとあかんのかっていう。相方がネタを作ってくれてるんで、たぶん僕よりももっとそう思っているんじゃないですか。
荒木 キングオブコントの決勝って、ほんとに難しい。僕らのこのネタも1年がかりでブラッシュアップして、それと並行して新ネタを作ってようやくたどり着いた。その下地には、何度も準々決勝で負けた歴史もある。
しょうた この1年がんばっただけじゃないもんね。
荒木 後ろ向きな話はしたくないんですけど、今の僕の感覚では来年は絶対無理ですね。決勝に行くのは。周りのレベルもどんどん上がってきているし、ほんと、みんなすごいんで。今年と同じレベルのものを新たなに2本揃えるとなったら、あと4年は欲しい。冷静に考えて。
――でも初出場組は、どこも同じようなものなのではないですか。これからは、かけられる時間は短くなっても、決勝を踏んだという経験が何よりもの武器になるとも思うのですが。
しょうた そうですね。これまでは決勝にどうやったらいけるのかまったくわからなかったので、ずいぶん遠回りもしたと思うんです。けど今は、こうやったら決勝に行けるというイメージは持つことができるようになったので。
荒木 あと、お客さんの僕らを見る目も変わってきますよね。期待して見てくれるようになると思うんです。そうやってハードルを上げてくれた方が、それを超えた瞬間のウケがすごい。なので、お客さんにはガンガン、ハードルを上げて欲しいですね。でないと決勝に出られたとしても、また負けちゃうんで。
代表作『空手家の子』はエラーから生まれたネタ
——しょうたさんは、あまりにも変なネタを作られて、「これはさすがにできない」みたいに感じることはないのですか。
しょうた ありますよ。毎月、新ネタ3本ずつ下ろしている時期があって、それだけ作っていると、中にはもうネタとも呼べないようなネタもあったりして。やってもいいけど、これ、ウケんの? みたいな。
荒木 『空手家の子』もそうだったな。「おもしろ荘」で優勝したときのネタなんですけど、明日のライブで新ネタを3本やらなきゃいけないってときに、最後の一本がどうしても出てこなくて。とりあえず、アマゾンで翌日着の空手着を2着注文したんです。それを着て出て、相方には、俺が前で踊るから、お前はそれを真似しとけ、って。

キングオブコント2022決勝前にプレッシャーから5キロも痩せてしまったと語る荒木
――本当に、それだけのネタでしたよね。
荒木 そうしたら、めちゃめちゃウケて。それをどんどんブラッシュアップしていったら、僕らを代表するネタにまでなった。いうたら、エラーから生まれたようなネタなんです。僕らは追い詰められたときの方が、爆発力のあるネタができる。
——何かの法則に当てはめていくわけではないんですね。
荒木 そういうタイプのコンビもいますけど、僕らは絶対、そっちのタイプじゃない。0か100かというところでやってるんで。おそらく平均で言えば、50を下回っていると思います。
しょうた 全然ウケへんときも、しょっちゅうです。
――決勝で披露した『あっち向いてホイ』も?
荒木 あれはウケる方です。でも、全然ウケないネタでも、「なんだこれ、なんだこれ」って掘っていったら、その1を100にする自信はあるんです。きっとキングオブコントで勝てるネタもできると思うんです。
――『空手家の子』もまさにそんな雰囲気のネタですよね。わけわからないネタなんだけど、見ていると笑えて仕方なくなってくる。
荒木 そこがお笑いのおもしろいところですよね。経験と照らし合わせて、これは絶対ウケるだろうと思って自信満々で持っていっても、ウケないときはぜんぜんウケない。めちゃめちゃ練習したからといって、それが必ずしも結果につながるわけでもない。なのに、舞台袖でたまたま思いついたアドリブがいちばんウケたりすることもある。
コンビ名「クロコップ」の由来

「こうやったら(キングオブコントの)決勝に行けるというイメージは持つことができるようになった」と語るしょうた
——ところでクロコップはM-1も出ているんですか。
しょうた 僕は出たことないですね。
荒木 僕はクロコップを結成する前、大阪にいた頃に他のコンビで出たことはあります。もともと漫才をやりたくて芸人になったんですけど、2年目ぐらいからオープンフィンガーグローブを付けてピン芸人をやり始めたら、漫才はもういいやってなっちゃった。
——向いてなかったということですか?
荒木 向いてないです。ざっくり言うと、漫才って素の自分でしゃべる芸で、コントは役を演じる芸じゃないですか。でも、漫才をやってても、コントみたいだって言われて。変なことばっかりやっていたからでしょうね。要するに、僕が素を出しているつもりでも、役を演じているように見えちゃうんですよ。
それこそ、この前のR-1(グランプリ)で優勝したお見送り芸人しんいちとルームシェアしていたことがあるんですけど、彼にも「漫才やめた方がいいです」って言われて。
――それは素の状態でもおもしろいという意味ではないんですか。だったら、最高の武器じゃないですか。
荒木 おもしろいんじゃないんです。僕は、変なんです。じゃないと、こんな格闘技用のグローブを着けてネタなんてしないんで。
——実際、格闘技経験もあるのですか。
荒木 ないです。見る専門です。そもそも格闘技している人は普段、こんなの着けません。僕は単なるコレクターなんで。
――ちなみに、クロコップというコンビ名は、格闘家のミルコ・クロコップからきているんですよね。
荒木 そうです。僕は格闘技が好きなんで、つけるなら格闘家の名前がいいなと思っていて。
しょうた 僕は別に好きじゃないんですけど。本当は他にもっと候補があったんだよな。
荒木 あったけど、語感がいちばんかわいかったので。でも、ちゃんと意味もあるんですよ。ミルコ・クロコップって、勝っても負けても、判定が少ない選手だったんです。そこが僕は好きで。ウケるときはめっちゃウケるけど、スベるときは豪快にスベる……僕らと同じゃないですか。

取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
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