1995年の配給収入ランキング1位は、人気シリーズの第3弾『ダイ・ハード3』(48億円)である。だが、この年の映画ファンにもっとも強い印象を残した作品は、2位『スピード』(45億円)だろう。タイトル通りのテンポ重視のストーリー展開は、大きな話題となった。
7月号の表紙を飾ったキアヌ・リーヴスは、本作で世界的なトップスターの仲間入りを果たした。それまでのリーヴスは、『マイ・プライベート・アイダホ』(1991/ガス・ヴァン・サント監督)、『ドラキュラ』(1992/フランシス・フォード・コッポラ監督)、『から騒ぎ』(1993/ケネス・ブラナー監督)『リトル・ブッダ』(1993/ベルナルド・ベルトリッチ監督)と、個性派監督の野心作で多彩な役柄に果敢に挑戦していた。

徹底したビジュアル重視主義の「ロードショー」が、その実績・人気からあえて表紙に起用した実力派俳優とは?
『スピード』が大ヒット! 現在も脈々と続くキアヌ・リーヴス人気が頂点に。また、美男美女ばかりが起用されてきた表紙に、あの大俳優が登場する。
ロードショーCOVER TALK #1995
『スピード』でキアヌ・リーヴスが大ブレイク!

キアヌの端正な顔立ちは現在もほとんど変化がない
©ロードショー1995年7月号/集英社
役者としての成長を優先したものと思われるが、リーヴスがもっとも輝くのは、ストイックなヒーローを演じたときだと個人的には思っている。主人公は物語を牽引していく役割上、悪役と比べて退屈なキャラクター像になってしまいがちだが、精悍で謎めいた雰囲気を持つキアヌはそれをたちまち魅力的に変えてしまう。新人FBI捜査官を演じた『ハートブルー』(1991/キャスリン・ビグロー監督)でほの見えていたその才能の片鱗は、『スピード』のロサンゼルス警察のSWAT 役で全開に。その後も、『マトリックス』(1991~)『ジョン・ウィック』(2014~)といった人気シリーズに引き継がれていくことになる。
『スピード』からはもうひとりスターが生まれている。2月号の表紙を飾ったサンドラ・ブロックだ。『スピード』でたまたまバスに乗り合わせた乗客アニーを演じた彼女もブレイク。「Girl Next Door(近所に住んでいそうな普通の女の子)」と呼ばれた親しみやすさと、抜群のコメディセンスで、『あなたが寝てる間に…』(1995)『デンジャラス・ビューティー』(2000)『トゥー・ウィーク・ノーティス』(2002)などロマンティック・コメディで活躍していくことになる。
ちなみに、『スピード2』にキアヌ・リーヴスは不参加だが、『イルマーレ』(2006)においてサンドラ・ブロックと再共演を果たしている。ふたりはプライベートでも仲良しだそうだ。
トム・ハンクスが表紙に登場したワケ
いまでも第一線で活躍するハリウッド俳優が、1995年に初めて表紙を飾っている。「『フォレスト・ガンプ』を見よう!!」という特集とともに、4月号の表紙に登場したトム・ハンクスである。ハンクスと言えば、『スプラッシュ』(1984)をきっかけに、80年代はコメディ映画を中心に活躍してきた。90年代に入ると、『プリティ・リーグ』(1992)『めぐり逢えたら』(1993)と徐々に役柄を広げ、エイズ患者を演じた『フィラデルフィア』(1993)でアカデミー主演男優賞を受賞している。

『フォレスト・ガンプ』以降、『ジュラシック・パーク』のような娯楽大作のものだったVFX(視覚効果)は、人間ドラマにも持ち込まれていった
©ロードショー1995年4月号/集英社
これほど長く活躍しているのに「ロードショー」の表紙と縁がなかったのは、残酷な言い方になるが、イケメンじゃないからだ。平凡さ、親しみやすさが、映画俳優トム・ハンクスの最大の魅力だが、「ロードショー」はぶっちゃけアイドル誌でもある。どれほど演技がうまくても、アメリカで人気があろうとも、部数に貢献できないスターは表紙に起用できない。
逆に言うと、今回の表紙初起用は、トム・ハンクスが無視できない存在になったことを意味する。『フィラデルフィア』に続いて『フォレスト・ガンプ 一期一会』(1994)でもアカデミー主演男優賞を受賞。しかも、後者は1995年の配給収入ランキングで3位になる大ヒットとなっており、さらに6位の『アポロ13』(1995)にも主演している。ピクサーの『トイ・ストーリー』(1995)でもウッディの声を担当しており、ハリウッドの話題作、良作には必ず出ているのだ。現在でも「ハリウッドの良心」的な存在として、製作・出演の両面で大活躍しており、遅まきながら表紙に起用したのは正解だった。
なお、1995年3月号から付録で「ROADSHOW文庫」なる付録がスタート。出演作や人となりをまとめた冊子で、第1巻はハリソン・フォードで、オードリー・ヘプバーン、キアヌ・リーヴス、トム・ハンクス、ジョディ・フォスター、ブルース・ウィリス、ウィノナ・ライダー、ケヴィン・コスナー、ジャッキー・チェン、リヴァー・フェニックスとビッグスターが続いていく。まだ、インターネットが普及していない時代において、人気俳優の詳細な情報を提供していた。
◆表紙リスト◆
1月号/ブラッド・ピット 2月号/サンドラ・ブロック※初登場 3月号/デミ・ムーア※初登場 4月号/トム・ハンクス※初登場 5月号/メグ・ライアン 6月号/ジョディ・フォスター 7月号/キアヌ・リーヴス 8月号/ウィノナ・ライダー 9月号/ニコール・キッドマン※初登場 10月号/ウィノナ・ライダー 11月号/クリスティーナ・リッチ※初登場 12月号/アリシア・シルヴァーストーン※初登場
表紙クレジット ©ロードショー1995年/集英社
ロードショー COVER TALK

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