
試合の激しさが増すスターダム。愛川ゆず季「どこまで行くんだろう?っていう恐怖感で私は引退した」団体の進む先とロッシー小川が泣いた試合
2019年にブシロード傘下となり、コロナ禍でも売上高が3年で5倍になった女子プロレス団体・スターダム。現在の女子プロレスブームを牽引する団体だが、今のスタイルに落ち着くまでには苦労を重ねてきた。秘話満載の創設メンバー同窓会鼎談をお届けする。(トップ画像:スターダム創設メンバー (左)愛川ゆず季 (中)ロッシー小川 (右)風香)
現在の女子プロレスブームを牽引するスターダム。2019年にブシロード傘下となってから、コロナ禍でも3年で売上高が5倍に成長し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
今回は、旗揚げメンバーである愛川ゆず季、元ゼネラルマネージャーの風香、そしてエグゼクティブプロデューサーのロッシー小川が同窓会鼎談を開催。スターダムの変化について忌憚なく語ってもらった。

愛川ゆず季は扱いにくい!?
愛川ゆず季(以下、愛川) わたしは扱いにくかったですか?
ロッシー小川(以下、小川) 扱いにくいって言ってしまったら終わりだから。うまくコントロールするかしかない。
風香 なにが扱いにくいんですか?
小川 ゆずポンはこだわりが強いから。あと、試合をあんまりやりたがらないんですよ。月3回くらいやれば満足なんで。
風香 まあ、いい数字だと思いますけど…。
小川 けど、世間一般的にはプロレスをガンガンやるのがプロレスラーという認識があるから。1試合にそれなりの対価を払っていたし、もっとやればもっと稼げるって思うじゃん。でもゆずポンは「もういいです」とか言って。
愛川 私は1試合を大事にしたいというのがすごいあったから。毎試合、自分の限界まで試合をしたいというところで、体も心も限界になるのが月3、4回でした…
風香 本当に真面目だよね。すべてにおいて。すごい!
小川 6人タッグとか8人タッグは、それなりの試合でいいと思うわけ。そこで目一杯やられても、時間が何分あっても足りないから。そういう風に調整する試合もあれば、シングルマッチとかタイトルマッチはがっつりやらなきゃいけないけど、使い分けていかないと精神がもたなくなっちゃう。
愛川 でもハードヒット(打撃、関節技中心のバチバチしたファイトスタイル)の試合って、小川さんは「そこまでしなくていい」という考えだったじゃないですか。いまのスターダムは結構激しいと思うんですけど、そこはどう思ってるのか聞きたかったんです。
小川 エスカレートしちゃってるんですよね。
愛川 ですよね! みんな自分が目立ちたいから、どんどんどんどん技が派手になっていくし、激しいし。確かにすごいんだけど、「どこまで行くんだろう?」っていう恐怖感でわたしは引退したんです。
小川 団体が大きくなると、生存競争が大変。のんびりしている人はだれもいない。
愛川 本当に命を削って試合をしている。魂の叫びを感じる試合。
小川 そうじゃない人もいるよ。(鹿島)沙希とかさ。自分のプロレスを見つけたわけよ。喋ったりさ、おちょくったりしてさ。体は使ってないんだけど、頭を使っている。
ロッシー小川がかつてビンタを禁止した理由
愛川 一時期、小川さんはビンタを禁止しましたよね?
小川 なぜかと言うと、一番簡単に沸くから。もっと頭を使って試合をしなさいと。場外乱闘も沸くじゃないですか。じゃなくて、プロレスラーは頭と体をどう使って試合を組み立てるかだから。
愛川 わたしもすごく悩んだところです。蹴りの選手だったから、打撃でいいところが当たれば簡単に沸くけど、プロレスラーとしてはどうなんだろうとか、すごく悩みましたね。

愛川 ブシロードさんのグループに入ったのは、いつですか?
小川 2019年12月。
愛川 話が来たときに、迷いとかはなかったんですか?
小川 自分は常に話題作りをしたいから、乗ろうかなと。いまの状態が100%ベストかと言うとそれはわからないけど、一人でやってる力よりも大勢が関わる力のほうが絶対大きくなる。それはいまのスターダムを見てもらえれば確実に言えるわけだから。
風香 時期もちょうどコロナ禍だったから、よかったって小川さんが言ってて、本当だなって。
小川 試合がなくても選手は給料が保証されてたし。プロレスにしてもなんにしても、大きくなろうと思ったら、なにかの資本とかがバックに付かない限りは常に同じことの繰り返し。今日はお客が入った、入らなかった。その繰り返しで、それ以上にならない。それでいいんだったらいいけど、もっと高みを目指したいんだったら、もっといろんなバックボーンを付けないと。

スターダムは一つのテレビ局
愛川 2021年3月に日本武道館でスターダム10周年記念大会が行われて、わたしもランブルで出させていただいて、風香さんも解説で出させてもらったんですけど、ブシロードさんというバックも付いて迎えた10周年はどうでしたか?
小川 いい大会だったと思いますよ。でも、まだまだ上があるなとか、この続きがあるなとか、もっと大きい会場でやりたい、もっとこうしたいっていう欲が余計に出てくるよね。やらないんだったらそういう世界がわからないから、それで済むんだけど。そこに踏み入れると、もっともっとってなるから。
愛川 小川さん、武道館から帰宅して、家で「岩谷麻優vs世志琥」の試合を観てたら、涙がターって流れたって言ってて。
風香 えー! 嬉しい! 感動した、いま。
愛川 小川さんがプロレスを観て涙を流すなんて……。
小川 いや、結構あるんだよ。
愛川・風香 えーーー!!!
小川 家の中では結構ある。試合で泣くんじゃなくて、シチュエーションだね。
愛川 わたしの試合はありました?
小川 ゆずポンの試合はないよ。相手を痛めつける試合だから。
愛川 アハハハハ!
小川 最近だね。年を取ってきたんだよ。
風香 でも嬉しい! 世志琥ちゃんと麻優ちゃんで泣いたっていうのが。
小川 やっぱり、麻優のほうが勝ってしまったなっていうのが一つだね。本来は違っていたのが、この10年で逆転したんだなっていう。
愛川 プロレスを観て涙を流す人は心が綺麗だと思うんですよ。小川さんもまだ心が(笑)。
風香 たぶんその綺麗さじゃなくて、自分が育てた子と、そうじゃなくなってしまった子が交わったときに、自分が育てた子が勝ったっていうのじゃないですか?
小川 それもあるね。単純にいい試合とかでは泣かないけど、そこになにか刺さるものがないとね。
愛川 では、今後のスターダム。小川さんはなにを見てやっているんだろうって。
小川 いまグループとしてやっていて、売上目標は当然あるだろうし、それに向かって行くっていうのは経営陣の考えであって、ビッグマッチを重ねる中でお客さんを入れていかなきゃいけない。でも育成もしていかなきゃいけないし。いい選手がいたら抜擢しなきゃいけないし。まあ、育成が一番大事なんじゃないかな。
愛川 わたしがいた頃って、わたしがいて、みんながいる中で、一人プッシュする選手がいたと思うんですけど、いまは大会ごとに主役が変わっていってるじゃないですか。それって、選手が増えたからですか?
小川 絶対的な人がいないんじゃないの? 平均してみんなできるから。あと、観客を飽きさせちゃいけない。だから毎回、主人公が違う。俺はスターダムって、一つのテレビ局だと思っていて。テレビ局の中にいろんなドラマがあるんですよ。ファンの人はそれぞれが好きなドラマを観てもらえばいいと思う。いまは一つのドラマじゃないんですよ。いまの時代に伝えられるスターを作っていきたい。スターを輩出するための団体がスターダムだからね。

取材・文/尾崎ムギ子 撮影/神田豊秀
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