「コットンにまんまとハメられるところでした」キングオブコント2022優勝のビスブラが明かす、決勝のネタ選びに潜む駆け引き
ここ数年で「大会のレベルが飛躍的に上がった」と言われるキングオブコント。2022年のファイナリストたちの貴重な証言から、その舞台裏を浮き彫りにしていくシリーズ連載。今回は『野犬』で大会史上最高得点(481)をたたき出し、見事、優勝を飾ったビスケットブラザーズが、決勝のネタ選びの背景にあった駆け引きを明かす。
ビスケットブラザーズ インタビュー♯1
松本人志が「100(点)つけてもよかったぐらい」

『野犬』でのおなじみのポーズをきめるボケの原田泰雅(左)とツッコミのきん(右)
――まずは、決勝1本目のネタ『野犬』で、481点という衝撃的な高得点が出ました。2015年に審査員5人制(1人の持ち点は100点)になって以降、2019年の1本目にどぶろっくがマークした480点を1点上回る史上最高得点でした。
原田 どぶろっくさんのときは、僕らも会場にいたんですよね。決勝に初出場した年で、舞台裏の暫定席に座ってたんです。そうしたら、地鳴りのような笑い声が響いてきて、セットがずっと揺れていて。笑いが爆発すると、ほんまに会場が揺れるんやって思いましたね。ただ、僕らはネタ中、自分たちがけっこう大きな声を出しているんで、どれくらいウケてるかはっきりとはわからないんですよ。だから、点数が出るまでは、手応えらしい手応えはなかったですね。
――審査員の松本人志さんは、まだ2組残っていたので98点という評価でしたが「100(点)つけてもよかったぐらい」とまで話していました。
きん あれは嬉しい言葉でしたね。
原田 それでも、まだニッポンの社長と最高の人間の2組が控えていましたからね。芸人人気も高いコンビですし、さらに最高点を更新されるんやないかみたいにも思っていました。でもひとまず、その時点で3位は確定したので、「2本目できるんや」という程度で。
――2019年の初出場のときと比べると、審査員も一新され、だいぶ雰囲気も変わっていたように思うのですが。
きん それよりも何よりも、一度出場して、審査員との距離感がわかっていたのは大きかったですね。キングオブコントって審査員席、めっちゃ近いんですよ。体感で4、5メートルぐらいかな。言い過ぎ?
原田 10メートルは確実にないよな。とにかく近い。ただ、僕はネタ中は眼鏡を外しているので、ほとんど審査員の顔は見えない。モザイク5人衆です。
きん 肉の塊らしいです。
原田 そうそう。(審査員は)肉の塊って、よう言ってます。

――点数も見えてないのですか。
原田 見えてないですね。でも、浜田(雅功)さんが一人ひとり読み上げてくれるので、なんとかわかりますが。
――コンタクトレンズは、あえて付けないのですか。
原田 先端恐怖症なので、コンタクトを付けられなくて。
きん 先の尖ったものが自分に向かってくるのが怖い。コンタクトは、付けるときに指が自分の方に向かってくるじゃないですか。それが怖いらしいです。
『野犬』は大事に大事にしまっておきました
――『野犬』は、何年か前からあるネタですよね。
原田 つくったのは2019年ですね。2020年の準決勝でも一度、やってるんです。あのときはコロナの影響で、キャパ500人ぐらいの会場にお客さんを70人くらいしか入れてなかった。なので、ウケたという感覚はあったんですけど、いつものような爆発する感じじゃなくて。何とかなるかなと思ったんですけど、落ちちゃいましたね。
きん 準決勝は2本披露しなきゃいけないんですけど、もう1本のネタも、ちょっと伝わりにくいネタだったんですよね。
原田 でも、『野犬』はまたどこかでやるチャンスはきっとあると思っていたので、そこからはあんまり人前ではやらないようにして。
きん 大事に大事にしまっておきました。
原田 何を大事にしてんねんというネタですけど。
きん こんな汚いネタを。
――野犬に襲われているきんさんを、セーラー服とブリーフ姿の原田さんが「きらきらりん」という声とともにスティックを振りかざしながら撃退するというネタで。
きん あのネタはめっちゃ信頼していたんです。でも、一時的に封印して、今年に入ってまた解禁したら、最初の方、ぜんぜんウケなかったんですよ。それで2020年の動画を観返したら、当時は原田が痩せていて、めっちゃスピーディーに動けていることに気づいて。
――そんなに体型が変わったんですか。
原田 この2年で10キロぐらい太りました。野犬って動きも激しいし声も張らないといけないネタなので、この体型になってからやったら途中で吐きそうになって。だから、スピードを抑え気味にしてたんです。でも、どうやら、このネタの肝はスピードやぞと。それで舞台の袖から最速で登場するようにしたら、またウケるようになったんです。

「2年前は今よりも10キロほど痩せていた」という原田
きん お客さんの反応がこんなに変わるんかっていうぐらい変わりました。
原田 新しい発見でしたね。キモくてヤバそうなやつって、イメージ的に、だいたいゆっくり出てくるじゃないですか。でも、そうすると、ただの変態になってしまう。そこにスピードという意外性を加えると、「キモい」が「笑い」に転化するんです。
きん 動きがかわいらしくなるからですかね。
原田 でも、あのネタって僕の恰好がヤバいだけで、言ってることは割とカッコいいんですよ。
――ヒーローものですもんね。
原田 リハーサルのとき、普通の服装でやると、ぜんぜんウケない。基本、まったくボケてないんで。僕はカッコいいやろと思って、ノリノリでしゃべってるだけですからね。ただ、あの恰好をした瞬間、ウケるという仕組みになっているんです。
きん だから、何がおもろいのかわからないという人もいるかもしれませんね。
コットンに「1本目にやる方を教えて」って聞いたら……
――準決勝では、1本目に『ぴったり』という、女友達だと思っていた子が、実は女装していただけで本当は男の子だったというネタ。そして2本目がこの『野犬』でした。決勝ではネタの順番が逆になっていましたね。
原田 悩んだんですよね。本当は『野犬』の方が派手なネタなので、ファイナルステージまで残ったら、あっちの方がウイニングランみたいになるんじゃないかなと思っていて。
きん 優勝できるとしたら、そのパターンだと思っていたんです。

「『野犬』は何がおもろいのかわからないという人もいるかもしれませんね」と語るきん
原田 ただ、僕らの前の組のコットンが『証拠』という浮気の証拠を消す業者のコントをやることになっていて。そのネタも女性がカツラを脱いで、実は男だったというシーンがあるんです。あそこが『ぴったり』と被るんですよ。しかも僕らがコットンの後の出番だったので、後の方が絶対、笑いは少なくなるんで。
――そういう場合、コットンさんに「1本目、何をやりますか?」と聞いていいものなのですか。
きん 聞きました。「1本目にやる方を教えて」って。
原田 「気ぃ遣わんで、やりたい方やればいいから」って。そうしたら、その後、まったく連絡が途絶えて。本番が迫っていたので、こっちから催促したら、ようやく『証拠』の方をやると教えてくれたんです。僕らが優勝したとき、2位のコットンがめっちゃ拍手してくれていて、彼らの好感度がえらい上がったみたいなんですけど、ここは声を大にして言いたい。俺らは、あいつらにはめられかけたって。
きん いや、危なかった。
原田 危なかったです。ああ見えて、あいつら悪どいですから。

取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
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