【ネタバレ有り】涙無しでは観られない、ネコを愛し続けた画家の映画_1
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今ネコと暮らしているのは、ルイスのおかげ!?

カンバーバッチがネコ画家の役を演じるとあっては、これはもう劇場に駆けつけるしかないではないか! いずれは必ずオスカー俳優になること間違いなしの演技派とネコは、私の大好物。両手に筆を持って(!)ものすごいスピードで絵を描くルイス・ウェインの、妻とネコに対する愛情深さ。
さらに、彼の時代を生きるには、風変わりに映ったルイスのキャラクターを、カンバーバッチがユーモアを持って繊細に演じた。やっぱりうまいな〜彼は!

【ネタバレ有り】涙無しでは観られない、ネコを愛し続けた画家の映画_2

二本足で立ったネコが、洋服を着て靴を履き、人間のように食事をしたりクリスマスパーティを楽しんだりするイラストを見たことがある人は、案外多いのではないだろうか。私も蚤の市で売っているような古い絵葉書の中で、何度かこういうネコのイラストを見て知ってはいたが、それがルイス・ウェインの筆によるものとは知らなかった。
驚いたことに、このネコのイラストが18 世紀末、つまり100年以上も前に誕生していたというのだから、随分と古い話なのだった。

そもそもルイスがネコの絵を描くきっかけとなったのには、家族の反対を押し切って結婚した妻のエミリー(クレア・フォイ)と一緒に雨の中で見つけた1匹の子ネコ、ピーターの存在があった。身分制度が色濃いこの時代に、上流階級に属するルイスと家庭教師だったエミリーの結婚を、世間は白い目で見ていたが、彼らはお互いの心に欠けていたピースを探し当てたように愛を育み、幸せな結婚生活を送っていた。

だが、その幸せも束の間で、結婚から半年足らずでエミリーの末期癌が発覚。その悲しみのどん底で、2人は子ネコのピーターと出会ったのだ。エミリーを喜ばすために描きまくったピーターのイラストの数々。後に、この絵を新聞社のオーナーに見せたことがきっかけとなって仕事をもらい、ルイスが描いたネコのイラストが大ブームになったというわけ。

最愛の妻エミリーを亡くしたルイスの喪失感は深いものだったが、ルイスは取り憑かれたようにネコの絵を描き続け、ネコ画家として有名になる。
当時、ネコは不吉な存在で、ネズミを捕ってくれるだけの動物とみなされていたが、ルイスがペットとして飼い始めてから、より一般に浸透していったと言われている(諸説有り)。だが彼のネコへの愛が、今日のネコブームに続いているのは間違いなく事実。そう思うと彼がより身近に感じられるのだった。

【ネタバレ有り】涙無しでは観られない、ネコを愛し続けた画家の映画_3

私自身がネコ好きとして、特にルイスの気持ちがよく解ったシーンは、ピーターが死んでしまうところだ。大の大人のルイスが何日も部屋にこもって床に脱力したまま寝っ転がり、子供のように泣きじゃくるのだ。エミリーが死んだときの静かな悲しみ方、ネコのピーターが死んだときの子供のような悲しみ方。ルイスという本能的なキャラクターになりきったカンバーバッチの、表現のうまさが光るシーンだ。

高齢になったルイスの後ろ姿を見たときにも、私はカンバーバッチのうまさに唸った。ルイスは晩年近くになると次第に精神を病み、ネコの絵もかなりデフォルメされてサイケデリック調に変わってくるが、相変わらず絵筆は握っていた。

カンバーバッチの顔の老け具合は、もちろん違和感なし。老けメイクと相まったその表情に、おお、カンバーバッチは歳をとるとこういう顔になるのね、と想像できるレベル。さらに、彼の後ろ姿が人生の終わりを悟って、妻のエミリーに語りかけるような、わびしさと幸福感の入り混じった老人の背中なのだった。

ネコのピーターを連れて、エミリーと信じられないくらい美しい森を散歩するシーン。白黒ネコのピーターが、ワンショットで自然の中を歩くシーン。晩年のカンバーバッチの後ろ姿。

この3シーンを観ただけで私はノックダウンでありました。あと、本作はネコを全部CG無使用で撮影したので、ネコ好きにはたまらない作品ですが、大ラストのネコの歩きは絶対に見逃さないでね。あれこそが、ネコというものよ! 

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ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』 
原題:The Electrical Life of Louis Wain 上映時間:1時間51分/イギリス
監督:ウィル・シャープ 
出演:ベネディクト・カンバーバッチ クレア・フォイ トビー・ジョーンズ 他
https://louis-wain.jp/
12月1日より全国公開 TOHOシネマズシャンテほか

イラスト・文/石川三千花 
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