人が生きる上で根源的に持つ欲求としては、睡眠欲・食欲・性欲の3つがよく引き合いに出される。
睡眠欲に関しては、警察での自白の強要や、スパイ映画で情報を喋らせるために眠らせない、というようなシーンで言及されるし、性欲については言わずもがな、数えきれない映画がそれをテーマとして描いてきた。
残る食欲に関しても、いわゆる“グルメ映画”というべきジャンルがある。
その一方で、ホラー映画の中で、グルメシーンがいいアクセントになっている例もかなりある。
グルメと恐怖は、意外と相性がいいのではないだろうか……?
【恐怖×グルメ】は最高のマリアージュ!? 怖すぎる食欲減退ムービー5選
お腹が空くグルメ映画の名作は多いが、料理をスパイスにした恐怖映画にも傑作は多いのだ。高級レストランを舞台に繰り広げられる異色のサスペンス・スリラー『ザ・メニュー』(11月18日公開)をはじめとした、【恐怖×グルメ】の名作5本を紹介する。
人間の根源的な欲求と恐怖は相性抜群!?
究極のグルメ・ブームの先にある恐怖体験
『ザ・メニュー』(2022)The Menu 上映時間:1時間48分/アメリカ

左から、超一流シェフのスローヴィク(レイフ・ファインズ)と、客として店にやってきたマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)
11月18日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2022 20th Century Studios. All rights
『ザ・メニュー』(2022)の舞台は、離れ小島にポツンとたたずむ超有名レストラン「ホーソン」。メニューはシェフのお任せコースしかなく、料金はバカ高く、予約を取るのは至難の業だ。
島にはシェフであるスローヴィク(レイフ・ファインズ)の屋敷と、従業員たちの住み込み寮以外には何もなく、客は専用のフェリーボートで運ばれる。そんな「ホーソン」で今宵、ディナーを楽しむのは、それぞれにいわくありげな5組の客たち。
コース料理のメニューには、ひとつひとつ想定外のサプライズが添えられており、この日、急遽ディナーに参加することになったマーゴが感じた違和感をきっかけに、レストランは不穏な雰囲気に。シェフにとって嫌な客ばかりが、今宵のディナーに選ばれた理由とは……?
シェフがパンッと手を叩くと、一糸乱れぬ動作で整列する従業員たちは、まるで新興宗教の信者たちのようであり、遮断された孤島に連れてこられた客たちは脱出不可能な場所に監禁された捕虜のような立場。
このシチュエーションで次に起こることといえば、“恐怖”以外にはあり得ない。命懸けのディナーの顛末は、見てのお楽しみだ!
レクター博士が提供した究極のグルメとは?
『ハンニバル』(2001) Hannibal 上映時間:2時間11分/アメリカ

左からレクター(アンソニー・ホプキンス)、クレンドラー(レイ・リオッタ)
AFLO
第64回アカデミー賞で最優秀作品賞を含む主要5部門を独占した『羊たちの沈黙』(1991)の続編として、前作のジョナサン・デミからリドリー・スコットへと監督がバトンタッチされて製作されたのが『ハンニバル』(2001)。
ヒロインのクラリス役も、ジョディ・フォスターからジュリアン・ムーアに代わったが、むしろ本作の主役はハンニバル・レクター博士。これを前作同様にアンソニー・ホプキンスが怪演している。
この作品で忘れられないのは、クラリスを使ってレクターをおびき出そうとするものの、逆に行動の自由を奪われた司法省のエリート、クレンドラー(レイ・リオッタ)が、豪華な屋敷のダイニング・ルームで、レクターの提供する料理に舌鼓を打つシーン。
レクターは薬物でもうろうとするクレンドラーの頭蓋骨を切り開いて、脳みそを切り取って調理し、それをクレンドラー自身に食べさせる。脳という臓器は、身体のほかの部位が傷ついたときにその痛みを感じるのだが、脳自体は痛みを感じない(らしい)ので、クレンドラーは自分自身の脳を食べているとは気が付きもしないで、満足げに食べるのだ!
その後、レイ・リオッタを別の映画で見かけるたびにどうしてもこのシーンを思い出してしまったものだ。彼は、2022年5月にロケ先のドミニカ共和国で67歳で亡くなった。
殺人鬼一家が作るチリソースがおいしい理由とは?
『悪魔のいけにえ2』(1986)The Texas Chainsaw Massacre 2 上映時間:1時間41分/アメリカ

前作で殺された甥の復讐に燃える元保安官のレフティを演じたのは、デニス・ホッパー。チェンソーを手に、一家のアジトに乗り込む
Everett Collection/アフロ
トビー・フーパー監督が、ドキュメンタリー・タッチの生々しい描写で観客を恐怖のどん底に引きずり込んだ『悪魔のいけにえ』(1974)から12年。再びメガホンをとった『悪魔のいけにえ2』(1986)では、前作でヒッピーの旅行者の男女らを虐殺した殺人鬼一家のソーヤー・ファミリーが、10年以上たって、またやらかし始める。
ソーヤー家は、父と3人の息子たちの全員が殺人鬼で、特に人間の顔の皮を剥いで作った仮面をつけ、チェーンソーを振り回して襲いかかかる4男のレザー・フェイス(ビル・ジョンソン)が有名だ。しばらくなりを潜めていた一家が久しぶりに何食わぬ顔で世間に姿を現したのは、テキサス州ダラスで毎年開催されるチリソースのコンテストだった。
長男ドレイトン(ジム・シードー)はあだ名が“コック”で、一家の食事を作る担当。彼の作ったミートたっぷりのチリソースが、コンテストで2年連続優勝するのだ。
ドレイトンの作るチリソースが美味しいのは、使っているミートに秘訣あり。だが、それが何の肉なのかは……たぶんみなさんが想像する通りだ。
ちなみに、ソーヤー家はヒッチコックの名作『サイコ』(1960)に登場する猟奇殺人者ノーマン・ベイツと同じく、“エド・ゲイン事件”という実際の事件をヒントにドラマ化されたもの。『悪魔のいけにえ2』のチリソースは、もちろん創作だ。
実際に起きた事件という最大級の恐ろしさ
『八仙飯店之人肉饅頭』(1993) 八仙飯店之人肉焼飽 上映時間:1時間40分/香港
実際の事件をモチーフにした『悪魔のいけにえ』と違い、香港映画『八仙飯店之人肉饅頭』(1993)は、正真正銘、マカオで実際に起きた猟奇殺人事件を忠実に再現した作品。
舞台は1986年のマカオ。美味しいと評判の八仙飯店は、元従業員ウォン(アンソニー・ウォン)が新たな店主となり繁盛していたが、元店主一家が行方不明であることが判明。一方、海岸では手足だけの死体が発見され、警察はウォンが怪しいとにらむ。
ウォンは捜査に来た警察官たちに、サービスで肉饅頭(叉焼飽)をふるまい、彼らはみな「うまい、うまい!」と食べるが、その中身は……。
香港映画らしく、警察官たちの描写はかなりコメディタッチで、相当に凄惨な場面が描かれる(R-18)本作の中ではその点が救いになっている。
また、ウォン役のアンソニー・ウォンはその後『インファナル・アフェア』(2002)などでも活躍しているが、出世作『八仙飯店之人肉饅頭』のインパクトが強すぎて、暴力的な役しかオファーが来ないことが悩みの種だという。
まさに、事実は小説(映画)よりも奇なりだが、どんなシナリオライターが思いつくよりも恐ろしいストーリーだった!
著名シェフたちが殺されるのは得意料理の調理法!
『料理長殿(シェフ)、ご用心』(1978)Who Is Killing the Great Chefs of Europe? 上映時間:1時間52分/アメリカ

左から、ロビー(ジョージ・シーガル)、マックス(ロバート・モーレイ)、ナターシャ・オブライエン(ジャクリーン・ビセット)
Everett Collection/アフロ
最後に、もう少し肩の凝らないグルメ・サスペンス・コメディをご紹介しよう。
『料理長殿、ご用心!』(1978)は、1970年代に人気を博したキュートな女優ジャクリーン・ビセットの代表作。
大富豪で、料理雑誌を発行する料理評論家の大家でもあるマックス(ロバート・モーレイ)は、雑誌の特集で“世界で一番美味しい4皿の料理”という記事を出す。これが大きな波紋を呼ぶことに。
4皿に選ばれたのはロンドンのコーナー(ジャン=ピエール・カッセル)の作るハトのグリル焼き、ヴェネチアのゾッピ(ステファノ・サッタ・フロレス)のロブスター料理、パリのムリノー(フィリップ・ノワレ)のフレンチ、そして絶品ケーキを作るパティシエ、ナターシャ・オブライエン(ジャクリーン・ビセット)の作るデザート。
選ばれなかった有名シェフ(ジャン・ロシュフォール)が、コーナーの店にいるマックスに抗議するため駆けつけた翌日、コーナーがグリルの中で黒焦げ死体になって発見される。
次にヴェネチアで、ゾッピがロブスターの水槽の中で水死体で発見され、ムリノーもまた……。ひとり残されたナターシャを救うべく、元夫で大衆料理チェーン店経営者のロビー(ジョージ・シーガル)が奮戦する。
誰が真犯人かはお楽しみだが、シェフたちが自分の得意料理の調理法で殺されるブラック・ユーモアがスパイスとなり、猟奇的連続殺人を描いた映画なのに、おしゃれな世界観をまとっている。
登場する料理は“ヌーヴェル・キュイジーヌ”の旗手で、リヨン郊外の三ツ星レストランのオーナー・シェフだったポール・ボキューズが監修しているので、どれも本当に美味しそうだ!

©2022 20th Century Studios. All rights

©2022 20th Century Studios. All rights

©2022 20th Century Studios. All rights

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文/谷川建司
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