コロナ禍の中、緊急事態宣言が出された2020年4月、広屋佑規、林健太郎、小御門優一郎の3名により「劇団ノーミーツ」は誕生した。彼らが制作したのは、ビデオ会議を利用した「Zoom演劇」。結成の約1ヶ月半後に上演した初の長編公演『門外不出モラトリアム』では5000名を動員し、話題となった。
その後、オリジナル公演を重ねた彼らは、2021年2月に閉園後のサンリオピューロランドを使用した新しいオンライン演劇『VIVA LA VALENTINE』を上演。2022年3月にはニッポン放送の社屋を使用したオールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』を手がけ、上演当日はTwitterのトレンド入りを果たした。
コロナ禍も3年目となり、オフラインでの演劇も徐々に再開しつつある今。彼らは今後どのようなエンターテインメントを展開する予定なのか。今までとこれからについて語ってもらった。
コロナ禍で注目、企業やアーティストとコラボ。「ノーミーツ」が歩んできた2年間とこれから
2020年4月にオンライン演劇という新しいエンターテインメントを打ち出した「劇団ノーミーツ」(現在の“ストーリーレーベル「ノーミーツ」”)。コロナ禍も3年目に突入した現在、彼らは企業やアーティストとコラボをし、新たなフェーズへと移行している。今回は、主宰の3人に、立ち上げからの2年間とこれからについて語ってもらった。

ノーミーツを旗揚げした(左から)広屋佑規、小御門優一郎、林健太郎
「エンタメ業界、どうする?」の中で実験的に旗揚げ
ーーそもそも「劇団ノーミーツ」はどのように生まれたのでしょう?
広屋佑規(以下、広屋) 2020年4月5日にZoom上で出会い、その4日後の4月9日に「劇団ノーミーツ」を結成しました。3人とも映画や演劇に携わる仕事をしていたのですが、コロナ禍で活動ができなくなっていて「自粛しながらも、なにかできることはないか」と考え、実験的に始めることにしたんです。
小御門優一郎(以下、小御門) そもそも僕と広屋さんは、その日が初対面だったんですよね。「ノーミーツ」という名前も、緊急事態宣言中の期間限定ユニット的な気持ちで付けました。
林健太郎(以下、林) 僕は立ち上げ前から広屋さんとも小御門とも仲が良かったのですが、正直そんなに頻繁に合うような間柄ではありませんでした。ただ、映像作品としてきちんと成立しているZoomでの演劇をやりたいと考えたときに、企画や映像、演劇ができる人として思い浮かんだのが2人だったんです。
ーー初の長編公演『門外不出モラトリアム』は、当時かなり話題になりました。今、振り返って、なぜ話題になったと考えていますか?

広屋 スピード感を持ってオンライン演劇という新たなジャンルを成立させられたからかなと思います。1回目の緊急事態宣言が発令されたとき、エンタメ業界では「これからどうなるんだろう」という不安が漂っていました。その中で、1つのアンサーとして提示した、この挑戦をおもしろがっていただけたのかなと思いますね。
小御門 僕は、自分たちが持っている演劇や映画の思考を集約させるのではなく、オンライン演劇という新しいフィールドで、0からおもしろいものを作るという思考も良かったのかなと思います。
林 同時代性のある内容も評価していただけました。『門外不出モラトリアム』は、4年間フルリモートで過ごしていた大学生活の青春物語なのですが、コロナ禍でどうやったら希望を描けるのかという作品テーマに共感の声が集まったんです。
コラボ公演ヒットの鍵は「リスペクト」と「協力体制」
ーー2021年2月にはサンリオピューロランド(以下、ピューロランド)とタッグを組み、オンライン演劇『VIVA LA VALENTINE』を上演しました。オリジナル公演を制作していた皆さんが企業とコラボすることになったのは、なぜですか?
広屋 『VIVA LA VALENTINE』に関しては、オリジナル公演『むこうのくに』を見たピューロランドの担当者さんから「なにか一緒にできないか」と連絡をいただいたのがきっかけです。当時、どこかとコラボをするということは考えていなかったので驚きました。

ーーコラボ相手のいる公演は、どのように作り上げているのでしょう?
林 こちらから企画を提案し、お互いが「おもしろい」と納得した上で形にしています。制作が始まってからは、アイディアを出し合いながら作り上げているので、ノーミーツとコラボ相手、という垣根なく、1つのチームとして取り組んでいますね。
小御門 そもそもノーミーツ自体が立ち上げから2年しかたっていないこと、さまざまな職種のメンバーが知見を持ち寄って形成されている集団であることもあって、独自の文化や言語がないんです。だから言語が違うことによる難しさを感じることなく、ただ単純に掛け合わさった相乗効果を楽しんでいます。
広屋 今のところ僕たちが無邪気に企画を提案した時に「いいね!」と賛同し、おもしろがってくださる方とご一緒できているんですよね。だから、知見を共有するというよりは、林の言った通り一緒に肩を組んでいる感覚に近いんです。

ーーコラボ公演では、劇中の小ネタや的確な解釈で、コラボ相手のファンが満足しているのも印象的です。
小御門 ご一緒するIPへのリスペクトや、価値への理解を大切にしているんです。『あの夜を覚えてる』については、ニッポン放送で働いている人たちにインタビューをしたり、担当の方と「ラジオがテーマなら、ここは外せないよね」というアイディアを出し合ったりして、脚本を作りました。だからこそ「ラジオ好きでよかった」という感想は本当に嬉しかったですね。
広屋 企業の方と「こういう要素を入れたら」とディスカッションするだけでなく、相手を知ることは怠らないようにしています。例えばピューロランドでの『VIVA LA VALENTINE』の時には、制作チームと共にピューロランドに足を運び、どんな方が多いのか、どういう風に遊んでいるのかというのを見に行きつつ、自分たちが来館者としてピューロランドを楽しみ、その上で担当者さんとお話ししました。

ーー次回の公演『夢路空港』では、実際の空港を貸し切って、JALさんの協力のもと進めているとうかがっております。
広屋 石川県にある小松空港から生配信をします。24時間動いている空港という場所で、営業時間終了後の真夜中24時に開演するのですが、遅い時間からの公演を見てもらえるのかはドキドキですね。また、これまでのように出演者を追う方式ではなく、固定のカメラを設置し、こっそり覗き込むような見せ方に挑戦しようとしています。現地入りできるのは不安なのですが、そこの挑戦がうまくいくかどうかを含めて、楽しんでいただきたいです。
ゲームレーベルを設立! ジャンルや方法にとらわれず物語を届ける
ーーオンライン演劇から枠を広げ、2021年12月には“ストーリーゲーム”レーベル『POLARIS(ポラリス)』を立ち上げたとお伺いしています。
林 もともとオンライン演劇で集まってきた僕らですが、演劇に限らず次の時代で求められていることに挑戦しています。マーダーミステリー(※)を取り上げたのは、物語にこだわって作ってきた僕らなら、できるんじゃないかと思ったからです。
(※)マーダーミステリー…プレイヤーそれぞれが物語のキャラクターになりきって会話をしながら、ミッションの達成を目指す推理型ゲーム。

広屋 『POLARIS』のPの形をしたパッケージのインパクトもあり「ゲームマーケット2021秋」に出展した際には多くの方から興味を持ってもらえました。マーダーミステリー自体、今、まさに広がりつつあるジャンルなので、コアな層だけでなく、より多くの方に良いと思ってもらえたらなと思っています。これから時代が変わって気軽に人と会えるようになった時に、出会いを促進できるゲームとして『POLARIS』があったらうれしいです。
林 現状、コアファンを中心に盛り上がっているマーダーミステリーですが、初心者の方にとっては「気になるけど、難しそう」と始めづらいのも事実です。だからこそ、コアじゃない僕らがプレイして感じた難しさを払拭するような、箱を開けたら誰でも楽しめるよう、設計にはこだわっています。『POLARIS』の作品は、1回もマーダーミステリーをやったことがない人にこそ、やってほしいです。
ーー最後に皆さんが描いている未来、ノーミーツの今後の展望を教えてください。
小御門 2年前からオンラインを使った作品作りをしていて、毎度制約はたくさんあったものの、新しい制約、条件下でしか生まれない物語を作ってくることができました。これからもそこでしか出会えない人と、そこでしか作れないものを作り続けていきたいです。また、もともと演劇をやっていた人間としては、劇場という自分が大好きな空間での公演もやりたいと考えており、オンラインと実際の劇場、両輪で作品に携わっていきたいです。
林 僕は今まで以上に新規事業領域を開拓していけたらなと考えています。まずは『POLARIS』を、どうやって展開していくか。この2年間で世間に「ノーミーツ」や「オンライン演劇」を知っていただけたようなインパクトを与えられたらなと思っています。また「ノーミーツ」を始める前から、ずっとやっていた映画の領域でも挑戦していきたいです。
広屋 「劇団ノーミーツ」として立ち上がった僕らですが、2021年に演劇だけに限らず物語をつくり、届けることに挑戦していきたいという意志で「ストーリーレーベル“ノーミーツ”」としてリブランディングしました。
広屋 オンライン演劇や『POLARIS』以外にも、物語の届け方、作り方はまだまだあると思っているので、いろんな方を巻き込みながら、チャレンジを続けていきたいです。

取材・文・撮影/於ありさ