『M-1』ラストイヤー・金属バットが見据えるM-1とその先。「やっぱ、ちゃんと決勝行かな、変わらんすよ」【ノーカット掲載】
関西きっての無頼派漫才コンビ・金属バット。結成15年目、独自路線を貫いてきた彼らもいよいよ今年が『M-1グランプリ』最後の挑戦となる。「今年の金属バットは賞レースに向けて仕上がっている」という声が各方面から聞こえてくる金属バットを直撃!(5回分の2回目)
金属バットのM-1ラストイヤー#2
15年目の『M-1』挑戦
渋谷の居酒屋の個室での勝手に「M-1決起集会」のスタートから1時間。いい感じにアルコールも回り、多くの脱線を経てついに『M-1』の話題をふった途端、ふたりとも顔をしかめる。昨年は敗者復活戦で爪痕を残したが、今年がラストイヤーとなる金属バットの行方は――。
―――いよいよM-1の3回戦(取材当時)も始まりました。……顔が一気に渋くなりましたね。
友保 だるいっすわ。
小林 面倒やな。

金属バット:小林圭輔(左)と友保隼平(右)
―――どうですか、今までの『M-1』挑戦を振り返って。
友保 特になんもないっすよ。でもいいっすよね『M-1』、おもろいし。
小林 あんな、みんなでキャンキャンすることないんでね。
友保 去年もあきませんでしたねえ。今年は決勝、行けりゃいいんですけどね。ほんまに。
―――去年の敗者復活戦ではだいぶ爪痕を残したと思うんですが、あの反響で仕事も増えたんじゃないですか?
小林 いや、そこまでですよ。
友保 やっぱちゃんと(決勝に)行かな、変わらんすよ。
―――周りから見ると、ちょっとずつ売れてきてるような感じがするんですが。
友保 いや、ずっと底辺でしたよ。ただちょっと、最近やっと視界が明るくなってるような気はしますね。仕事で東京来ることも増えたしな。
小林 東京の仕事っていっても、吉本の劇場の仕事やけどな。
友保 その前からインディーズで東京のライブも出させてもらってたしな。あんま変わらんか。
―――『M-1』の話って、周りの芸人さんとしたりします?
友保 よく(デルマパンゲ)迫田と話してますね。「だるいなあ」「もう始まるやん」って。しんどいんでね。
小林 まずエントリーで金払う時点でだるいっすよ。当日はいいんですけどね。やるだけやから。
友保 どうする、負けたら。だるいなあ。
わしらもアンパンマンのネタとかやるんかな?
―――錦鯉さん、ランジャタイさんなど、地下のインディーズライブから『M-1』で結果を残してTVでブレイクする方もここ数年は多いですよね。
友保 もう面(つら)も関係なくなってきましたもんね。見た目関係なく売れるようになった。
小林 あの(錦鯉・渡辺)隆さんが若い子にモテてるらしいからな。
友保 ほんまおもろいだけのおっちゃんやったのに。貧乏痛風おっちゃんとしか思ってなかったからな。それが「包容力がある」みたいに言われてな。
小林 ほんまどうなってんねん。
友保 めちゃくちゃよな、あんなん。

―――面白ければ見た目に関係なく売れる、っていう今の風潮は、おふたりにとっても追い風というか……。
小林 失礼ですね!
友保 フハハハハハ(笑)。もう「見た目が汚い」まで言ってたな。まあいい流れっすよね、今は。
―――『M-1』が終わったあとのことって考えてたりしますか? 「囲碁将棋」さんとか「Dr.ハインリッヒ」さんとか、『M-1』終わってから楽しそうに漫才していらっしゃいますよね。
小林 みんな楽しそうっすよ。
友保 昨日、ガクテンソクの奥田さんと飲んだんですけど、奥田さんも「『M-1』終わったら最高やで」って言うてて。「ネタなんかもうなんでも好きにしてええから。俺なんか、こないだ『ドラえもん』のネタ書いたもんな」って。ああ、すごいな、うらやましいなって。わしら、ドラえもんのネタなんか書いたことないもんな。
小林 だいたい賞レース向きじゃないことがほとんどやからな、おれらのネタなんて。
友保 『M-1』のために整えてやってるからな。
―――それがなくなるのは楽しみでもありますか?
友保 そうっすね、わしらもアンパンマンのネタとかやるんかな?
ライブの観客が増えて変わったことは?
「『M-1』が終わったあとが楽しみ」と口を揃えて語ったふたり。最後に、これまでの15年間でのコンビ間での変化と、『M-1』後の野望について尋ねた。
―――『M-1』に限らずかもしれませんが、この15年でネタの作り方も変化してきましたか?
小林 ネタはどうなんやろ。あんま変わってないなあ。
友保 早起きするようにはなったな、仕事のせいで。朝イチで東京行きの新幹線乗るとか。ほんまクソですわ。早起きしなくてもええっていうから芸人になったのに。

―――東京に住んだりしないんですか?
友保 東京なんか人の住む場所じゃないでしょ、へへへ。
小林 みなさんは逆になんでこんなとこ住んでるんですか? こんな人も多くて坂も多い……。
友保 大阪やったら最悪歩けばどこでも着くからな。
―――友保さんは早起きするようになった、と。小林さんはなにか変化はありました?
友保 ええスーツ着るようになったな。
小林 金銭面がこう(よく)なったからな。無限に金貯まっていくんで。まあ出費はそんな変わってない気がしますね。金の使い方がわかってないんすよ。
友保 なんや「金の使い方がわかってないんすよ」って、えらい早口で。
小林 ええがな。
友保 あとはゲームしなくなって昔よりマシになりました。あまりにゲームばっかしてたんで、一回、家行ってパソコン潰したろかなって思ってたんですけど。
―――逆に小林さんから見て、友保さんの変化を感じるのはどんなところですか。
小林 なんすかね、真面目になったっすね。
友保 ウェイ。
小林 前に出るタイプではなかったんですよ。ライブでも、コンビどっちも前に出ないというか「できるだけ仕事したくない」みたいな。
友保 いや、そらどっちかは前に出なあかんやろ。
小林 「どっちかは前に出なあかん」っていう意識もなかったやろ。
友保 それは、昔は俺らを見にきてる客がおらんかったからや(笑)。今はチケットも売れてもうたら、なんかせなあかんやないですか。見にきはった人がかわいそうやから。
M-1後の理想のコンビは?
―――お客さんが増えたことで、真面目になった。
友保 まあね、申し訳ないですから。わざわざ来てくださってねえ。行かないでしょ普通、お笑いライブなんて。

―――『M-1』で優勝したあとのことって考えたりします?
友保 そんな忙しくならず。ぼちぼちで仕事できたらいいですよね。
小林 理想は、今のパンクブーブーさんやな。劇場主体でやって。
友保 わし、パンクブーブーさんの今の働き方知らんからな。どうなんやろ。
―――売れても、劇場主体がいいんですね。
小林 そうやなあ。
友保 落語家さんの師匠みたいな感じがええよな。
小林 そりゃいいですよ。そりゃあ、あれはいいよな。
友保 TVはあんまりねえ。朝早かったり拘束時間が長かったりするんで。やっぱ寄席が楽ですわ。楽を覚えてしもたから。
小林 「生活変えたい」とかもないしな。別に今、食えてるし。
友保 みんなを笑顔にできればそれで十分ですわ。
すっかり夜も更け、決起集会も終了。
店を出るふたりに「『M-1』決勝行ってくださいね」と声をかけると、友保は「まあ、あんじょうやりますわ」と答え、雑踏の中に消えていった。どこまでも無欲で無頼。昭和の芸人の香り漂うふたりの背中に、編集部一同はひそかにエールを送り、居酒屋をあとにした。
【写真アリ】金属バットの「M-1決起集会」の様子はこちらから(すべての画像を見るをクリック)

取材・文/山本大樹 撮影/石垣星児
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