ーーTwitterで「作画をする漫画家」からは引退し、今後は原作者として漫画に関わっていくと宣言したことが大きなニュースとなりました。改めてその理由について教えてください。
実はもともとヤングジャンプには原作者志望で入っているんです。ただ、最初に出したいくつかの企画がボツになり、原作だけでなく絵も描くこととなり、始まったのが『かぐや様』でした。なんなら、自分で絵を描くことになったので、しぶしぶの連載だったんです(笑)。
絵に自信があるわけではなく不安もありましたが、ありがたいことに『かぐや様』の連載を7年半やらせていただいた。ここで改めて原作者としてやっていきたいという思いから、今回の宣言となりました。
『かぐや様』赤坂アカが明かす漫画家引退の真相ー「どうしても描けない絵がある」
『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』(以下『かぐや様』)の連載が最終回を迎えた直後の11月3日に、作者の赤坂アカ氏がTwitter上で漫画家を引退し、今後は原作者として活動すると発表したことが大きな話題となった。なぜ今、このタイミングで漫画家を引退するのか? その真意と今後の目標について語ってくれた。
「今後の漫画業界全体の課題と向き合いたい」
もともと原作者志望でヤングジャンプに

『かぐや様は告らせたい』連載終了にあたって @akasaka_aka
ーー『かぐや様』のような作画も含めた漫画制作のどこに限界を感じていたのでしょうか。
僕は絵が得意ではないので、どうしても描けない絵がある。それにネームを描くスピードに比べて、作画で拘束される日数が多くて。何より、やっていて一番楽しいのがストーリーを作っているときなんです。
原作を務める『【推しの子】』の成功も、自信になりました。もしこの作品が大コケしていたら、原作一本でやっていくとは言えなかったかもしれません。
ーー『かぐや様』は大ヒット作になりました。その中で、改めて編集サイドに原作者一本でいきたいと伝えたのはいつ頃だったのでしょうか。
サカイさん、いつ頃でしたか?
(担当編集/ヤングジャンプ編集部・サカイ)文化祭が描かれた14巻以降から、主人公2人の物語は描き切られたという感じは伝わってきました。ただ、まだまだ『かぐや様』で描いてほしい話が、ほかのキャラクターの話であったり、四宮家の深堀りであったりと多かったので、そこでは、まあまあ、と止めたんです。

『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』14巻
――担当のサカイさんとしては赤坂さんが原作者一本となることにストップはかけなかったのでしょうか。
(担当編集・サカイ)原作者に専念することについては、赤坂先生のクリエイターとしての生き方なので異論はなかったです。むしろ、2本、3本と原作を担当していただける作品が増えるなら、編集部としてもありがたい面があります。赤坂さんの才能を一番発揮できる形が原作者だと考えているので、良い選択だと思っています。
漫画以外の原作にもチャレンジしたい
――宣言せず原作者にシフトするやり方もあったと思いますが、あえて宣言した理由は?
イラストレーターとしてはまだわかりませんが、漫画家として絵を仕事にするつもりはもうないんです。こうして対外的に原作者になると宣言することで得られる仕事もあると思いますし、進退の表明は悪くない選択だったと思います。あとサカイさんから「やっぱり絵も描きましょう」と言われないためという面もあります(笑)。
――原作者として、漫画以外のジャンルも手掛けたいという思いはありますか?
めちゃくちゃあります。アニメや小説、ゲームもそうですし、やれるものは全部チャレンジしてみたいと思っています。実は、もうすでに動いているものもあります。
――今後準備している作品の構想やジャンルを教えてもらうことはできますか。
三方向あって全部違います。今、僕が想定しているのは、ハイファンタジー、ラブコメ、グルメです。
――2020年、ヤングジャンプのラブコメ漫画賞審査員を務めた際に「漫画って絵が描けなくてもいいんじゃないかと思う」とコメントしていますね。
あれは漫画家を目指す人へ「絵が下手でも漫画家になれる」とアドバイスしたかったんです。僕自身、自分を絵が描けない側の人間だと思っていますが、描けなくても漫画家になれました。
そもそも漫画の絵って、上手い下手よりも完成度。そこが高ければ商業誌に載れると思っているんです。
ーー上手さではなく「完成度」とはどういうことでしょう?
絵が雑に見えないことです。たとえばデフォルメチックな絵柄だったら、デッサンがとれてなくても何も言われないし、意外と粗が目立たない。そういう方法もあるよと示したかった。

『かぐや様は告らせたい』コミックス13巻より
絵が描けなくても、うまくなくても漫画をとりあえず描いて、周りの反応次第では原作者の道に進むのもいい。
世の中には、絵がうまい人が数多くいます。一方で、ストーリーを描きたいという人が漫画業界には少ない。ストーリーを作るのが楽しいという人にもっと出てきてほしいんです。
漫画家として成功してよかったこと
――『かぐや様』『【推しの子】』の成功で、赤坂さんはおそらくもう生活には困らないと思うのですが、そうした中で、新たな創作に対するモチベーションはどこから湧いてくるものなのでしょうか。
面白い作品を作っていると、お金では買えないものがたくさん得られます。作家としての評価もそうですし、一緒に遊ぼうと言ってくれる人も出てきてくれます。
――たしかに赤坂さんは漫画家やタレントや配信者など、交友関係が広い。
僕が10万部も売れてない作家だったら、会えない人ばっかりだったと思っています。やっぱり著名な人は著名な人と繋がるので。それに、自分が何か担保できるものを作り続けなければ、気後れして、そういう人たちとは大手を振って関われない(笑)。
それと、作品がアニメになって、動いているのを見るのも嬉しい。頑張って描いた作品が面白くなければ、見えない光景があるんです。
――赤坂さんは市場分析も的確ですが、今の漫画界を見て、今後どのようになると考えていますか?
当たりジャンルのデッドコピーが続くと、一部のマーケットにしかアプローチできないものになっていきます。たとえば最近の「なろう系」が何度も繰り返されて、なろう系の要素だけを詰め込み、ストーリーとつながらない、そのジャンルを知らなければ読めない作品になっている。
漫画界にも同じことが起きています。一昔前のラブコメは、ヒットしたラブコメを見てラブコメを描く、デッドコピー作品が増えていました。ただ『かぐや様』では時代を前に戻し、もう少し地に足をつけ、「エンタメとはなんだろう?」とちゃんと考えて取り組んだ作品だと思っています。
――ジャンルに先鋭化することで、ターゲットを狭めているんですね。
当たりジャンルを追うことによって生まれる弊害は絶対あると思っています。僕は以前「エルフを主人公にしよう」と提案したんですが、編集のサカイさんからは「エルフがなんだかわかる人は少ないですよ」と言われました。
いや、そんなことないだろうと思ったんですが、確かに小学2年生がエルフを知っているかといえば知らない。おじいちゃん、おばあちゃんもそう。僕は知らず知らずのうちに読者を絞ってしまっていたんです。
ありものに乗っかった時点で、元ネタを知っている人しか相手にできないジャンルになってしまう。これはなるべく廃した方がいい。老若男女が読めるなど新規が入りやすく、それでいて純粋に面白いと思える作品を増やすことが、今後の漫画業界全体の課題だと思っています。
取材・文/徳重龍徳
【画像】本当に作画引退!? これで惜別なのか…赤坂アカの珠玉イラスト(すべての画像を見るをクリック)

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