アメリカ映画最大の祭典として圧倒的な知名度を誇るアカデミー賞。
その中でも国際長編映画部門は“会話の50%以上が非英語”であること、そして米国外で撮影された長編映画(ドキュメンタリーやアニメーションも含む)が対象だ。栄誉に輝けば、小さな国の知られざる逸材の名が、一気にワールドワイドに知られるチャンスでもある。
第95回米国アカデミー賞国際長編映画部門ファイナリスト15作の発表は米国時間12月21日、ノミネート5作は2023年1月24日に発表予定だが、それに先立ち、各国代表作が出そろった。
日本代表は、本年度カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)の特別表彰を受けた、早川千絵監督『PLAN 75』だ。
昨年は濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』(2021)が受賞したが、過去の受賞作にはフェデリコ・フェリーニ監督『道』(1954)や、黒澤明監督『デルス・ウザーラ』(1975・共に当時の名称は外国語映画賞)などが。映画史に残る巨匠たちの名がズラリ。
今年も例に漏れず、各国期待の監督たちの力作が選ばれている。まず、今年の国際映画祭での話題作が選出されるTIFFガラ・セレクションで上映されるのは、メキシコ代表のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(2022)。
ロシアがボイコットを表明したアカデミー賞。国際長編映画部門で日本代表『PLAN 75』の対抗馬となるのは?
昨年『ドライブ・マイ・カー』が受賞したことで話題を集めたアカデミー国際長編映画賞。この部門にノミネートされるのは、各国から選ばれたわずか5作品だ。現在開催中の東京国際映画祭(11月2日まで。以下TIFF)や、第23回東京フィルメックス(10月29日〜11月6日)、配信サイトでは、各国の代表作を鑑賞することができる。この機会にチェックしてみては?
『ドライブ・マイ・カー』が受賞した国際長編映画部門

『バルド、偽りの記録と一握りの真実』
イニャリトゥ監督といえば、『アモーレス・ペロス』(2000)、『BIUTIFUL ビューティフル』(2010)で同部門にノミネートされただけでなく、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)と『レヴェナント:蘇えりし者』(2015)でアカデミー監督賞を2年連続で獲得した常連監督。その功績を讃えられ、今回のTIFFでは世界の映画界に貢献した映画人に贈られる黒澤明賞も授与される。
イニャリトゥ監督の自伝的作品と言われる新作『バルド、偽りの記憶と一握りの真実』はNetflix製作で、12月16日より配信されるが、ヴェネチアなど名だたる国際映画祭での招待上映のほか、11月18日からは日本の一部の劇場での公開も決定している。
イニャリトゥ監督の盟友アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA /ローマ』(2018)が、同じくNetflix製作作品だったにもかかわらず、第86回アカデミー賞で台風の目となった(10部門にノミネートされ、監督賞含む3部門で受賞)ように、国際長編映画部門以外でもにぎわせてくれそうだ。
世界の映画祭で注目された力作が!
TIFFの花形、コンペティション部門には2作。カザフスタン代表のエミール・バイガジン監督『ライフ』(2022)と、イラン代表のホウマン・セイエディ監督『第三次世界大戦』(2022)が選ばれた。
特に『第三次世界大戦』は、今年のヴェネチア国際映画祭「オリゾンティ部門」で最優秀作品賞と最優秀男優賞を受賞した話題作。第二次世界大戦を題材にした映画撮影が舞台で、エキストラとして参加していた日雇い労働者が、ヒトラー役に抜擢され悲劇に見舞われるという風刺劇だ。

『ライフ』
©Emir Baigazin Production

『第三次世界大戦』
©Houman Seyedi
国際映画祭で注目されたものの、日本での公開がまだ決まっていない作品を上映するワールド・フォーカス部門には、ウクライナ代表のマリナ・エル・ゴルバチ監督『クロンダイク』(2022)が選ばれている。

『クロンダイク』
©Protim, Kedr Film
2014年のマレーシア航空墜落事故を背景に、ウクライナ・ドネツク地方に住む夫婦の緊張感溢れる日常を描き出す。サンダンス映画祭とサラエボ映画祭で監督賞、ベルリン国際映画祭でエキュメニカル審査員賞を受賞するなど各国の映画祭を席巻中の注目作だ。
ちなみにウクライナを侵攻しているロシアはアカデミー賞のボイコットを表明し、国際長編映画部門にロシア作品を提出していない。
作品だけでなく、監督の背景にも注目
一方、10月29日からスタートする東京フィルメックスのアジアの新進監督を対象にしたコンペティション部門には、共に本年度のカンヌ国際映画祭「ある視点部門」にも選ばれた2作。パレスチナ代表のマハ・ハジ監督『地中海熱』(2022)と、カンボジア代表のダヴィ・シュー監督『ソウルに帰る』(2022)だ。
『ソウルに帰る』の監督は、フランス生まれのカンボジア人。映画は自身の半生を下敷きにし、フランスで養父母に育てられた韓国人が初めて韓国を訪れ実の両親を探す物語。監督の生い立ちも含めて注目されそうだ。

『地中海熱』

『ソウルに帰る』
ほか、Prime Videoではアルゼンチン代表のサンティアゴ・ミトレ監督『アルゼンチン1985 〜歴史を変えた裁判〜』(2022)が配信中。Netflixでは10月28日からドイツ代表のエドワード・ベルガー監督『西部戦線異状なし』(2022)が配信される。

『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』Prime Videoで独占配信中
©Amazon Studios

Netflix映画『西部戦線異状なし』10月28日(金)より独占配信
ハッキリ言って、今回の米国アカデミー賞国際長編映画部門は、韓国代表パク・チャヌク監督『別れる決心』(2022・2023年公開予定)や、ポーランド代表イエジー・スコリモフスキ監督『EO』(11月22日〜27日に東京都写真美術館で行われるポーランド映画祭2022で上映)あたりが強敵だと思うのだが、各国代表作を知れば、2023年3月12日にドルビー・シアターで行われるアカデミー賞授賞式がさらに楽しめるに違いない。
文/中山治美
新着記事
トラブル続出のマイナ保険証にさらなる疑念。マイナンバーカードを返納すると「無保険者」になる⁉
【こち亀】宝くじで155億円、競馬で1億5千万円を獲得。両さん、強運伝説!!



TikTok 、2年9カ月で利用者5500万から7億人に…クリエイター育成に1000億円以上の投資する最強・最新の戦略
『最強AI TikTokが世界を呑み込む』#3
