先日の『オールスター感謝祭』(TBS)。多くの人からクイズ問題の傾向が変わったという感想があった。
クイズ作家の方が交代になったというのもあるだろうが、確かに、これまでのような時事問題中心から、比較的一般常識を問うような問題が増えたように思う。
そこで、まことしやかに囁かれているのが「霜降り明星の粗品が勝ちすぎているから、対策したのではないか」という噂である。
実際のところは、おそらくそれが理由ではなく、より視聴者が楽しめる内容を追求した結果なのだろうが、そういう噂が出るくらいにここ数回、粗品は勝ちまくっていた。
そもそも、『オールスター感謝祭』自体がクイズを真剣にやる番組というよりは、マラソンやアーチェリーをはじめとする各ゲームで盛り上げ、新番組や人気番組をアピールするというTBSのお祭りである。
賞金がもらえるというメリットはあるが、仮にクイズで総合優勝したとて、おめでとうムードは数秒で、あっという間に番組はフィナーレである。
そこを敢えてむやみやたらに真剣にクイズに打ち込むという面白さを追求してきたのが、ここ最近の粗品であった。時事中心に予習をガッツリ行い、ひっかけ問題や早押しにもしっかり対策をして臨んだ結果、前回までにピリオドチャンピオンになること9回、2022年春にはついに総合優勝も果たした。
しかし今回クイズ傾向が変わったことで、粗品の総合順位は12位と大きくランクダウン。意地でピリオドチャンピオンは1回奪還したが、それが精一杯だった。
実際に『オールスター感謝祭』が粗品対策をしたのかはわからない。しかし世の中には圧倒的に強い人が出てくると白けてしまうと考える人は多い。
白熱のつばぜり合いで一体誰が勝つんだ?という勝負が見たいのであって、事前に対策をした人が圧勝していく様子は一回はいいとしても、繰り返されると「なんだよ、つまんね」となりがちである。
そういった状況になると、運営側はあの手この手で接戦になるように工夫する。

強すぎる者は嫌われる!? ベストジーニストや大食い女王にも捧げられた「殿堂入り」という最終手段
クイズ、大食い、カラオケなどテレビには「1位」を争う番組があふれ、芸能人を対象としたランキングも絶えず発表され続けている。そこで不意に登場するのが「殿堂入り」という肩書。功績を称えるはずの言葉の裏には、エンターテイメントとして視聴者を飽きさせてはいけない苦悩があった…。テレビ番組に関する記事を多数執筆する前川ヤスタカが様々な「殿堂入り」を振り返り、その効果と課題を考察する。
エンターテイメントの世界では「殿堂入り」=「卒業」
「粗品対策」の噂も出た『オールスター感謝祭』
今なお賛否残るクイズ番組での「強者」対策
古い話だが、私が思い出すのは1991年『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ)第15回のドミニカ共和国ステージにおけるルールである。
この回はクイズ界にその名を知られた能勢氏とテレビガイド編集者大石氏(元は名古屋大学クイズ研究会)が2強で圧倒的実力を見せていた。
だが、このステージのルールは、早押しクイズで答えた人が好きな人を指名して封鎖(封鎖されると解答権がなくなる)、最後まで封鎖されなかった人が勝ち抜けていくというもの。
当初は7名で始まったこのクイズ、当然自分が勝ち抜くためには強い人を先に封鎖していくのがセオリーなので、能勢・大石両名は序盤でどんどん封鎖されていく。勝つためには早押しで勝ち続け、封鎖されないようにするしかないが人数が多いとそれも難しい。
結局明らかに「2強」だった二人が脱落争いをし、大石が敗者となった。大石が途中で「この形式だと負けます」と嘆いたように、強いものが勝ち残るとは限らないルールを考えたスタッフがすごかったのだ(なお、クイズ好きの間で、このルールについてはいまだ賛否両論ある)。
「殿堂入り」が生まれるのは必然だった!?
大食いなどでも同様のことはあった。あまりに強いプレイヤーが出てくると、あまり得意そうではない食材を出してみたり、時間制限をうまくつけたりと、工夫に工夫を重ねているのが見て取れた。
それでも、どうやっても勝つ人はいて、そういう時に使われる最後の手段が「殿堂入り」である。
テレビ東京の『大食い女王決定戦』では、ある時期、魔女菅原(菅原初代)が強すぎてやる前から結果がわかってしまっている感があった。
ギャル曽根、トライアスロン正司、ロシアン佐藤、アンジェラ佐藤など実力者はひしめいていたのだが、それでも魔女菅原の実力は抜きん出ていた。
結果、菅原は2010年に女王戦三連覇したところで「殿堂入り」となり、2018年に復帰するまで姿を消した。復帰後も強さは健在で、あの時、殿堂入りさせていなかったら一体何連覇していたのかと恐ろしくなる。
この手の連覇しすぎると「殿堂入り」という手段を効果的に使った最も有名な例は、「ベストジーニスト」だろう。
5年連続受賞で「殿堂入り」の木村拓哉
「ベストジーニスト」メインの一般選出男性部門では1994年から5年連続で木村拓哉が受賞。あまりに強すぎる状況に主催者側も「殿堂入り」を使うしかなかった。
木村拓哉の消えた1999年からは芸能界きってのジーンズ好き草彅剛がこれまた5年連続受賞し殿堂入り。その後は連続ではないが累計5回受賞となった浜崎あゆみ、5年連続の亀梨和也、倖田來未、2011年に3回入賞で殿堂入りするというルールに緩和されてからは、相葉雅紀、藤ヶ谷太輔、ローラ、菜々緒、中島裕翔が、それぞれ殿堂入りしている。
それに倣って「殿堂入り」を効果的に使った例として吉本の「男前ランキング」がある。
2000年に始まったこの賞は、3年連続受賞を殿堂入りとして扱っており、田村亮(ロンドンブーツ1号2号)、徳井義実(チュートリアル)、井上聡(次長課長)、藤原一裕(ライセンス)、綾部祐二(ピース)と嘘のように全員3年連続受賞。
さらにはその裏返しの「ブサイクランキング」もほんこん(130R)、岩尾望(フットボールアワー)、山里亮太(南海キャンディーズ)、家城啓之(カリカ)、井上裕介(NON STYLE)とこれも全員3年連続受賞。

キムタクの上を行く? 15年連続1位の有名人夫婦
『an・an』の「抱かれたい男ランキング」なんかもそうだったが、一般投票で決まるものは何となく前年踏襲になりがちで、黙っていると毎年変わらない結果になってしまうのかもしれない。
その最も顕著な例が明治安田生命の毎年恒例で募集している「理想の有名人夫婦」だ。
なんと2020年まで15年連続で三浦友和・山口百恵夫妻が1位であった。そして驚いたのはここで主催者側が同夫妻を殿堂入りとしたことである。
15年はあまりに長いし、ここまできたらどこまで連続記録を伸ばせたのかの方が興味深くなってしまっている。
上記の「ベストジーニスト」や吉本「男前ランキング」だけでなく、「好きなアナウンサー」なども短いスパンで殿堂入りさせていたのだから、もっと早く殿堂入りさせることはできただろう。
ちなみに三浦夫妻が殿堂入り後初の調査となった2021年は前年2位だったヒロミ・松本伊代夫妻が受賞した。
「殿堂入り」はあくまで最終手段に
かつてクイズ番組には圧倒的に強い人が一人はいた。『クイズダービー』(TBS)でいえば、はらたいらだし、『クイズヒントでピント』(テレビ朝日)でいえば浅井慎平である。その宇宙人のような正解率を多くの視聴者は楽しんでいた。
時は流れ、あまりに強すぎるプレイヤーは敬遠されるようになっていき、クイズ番組も知識量だけを競うものから閃きを問うようになったり、逆におバカ解答が求められるようになっていった。
だが最近は『東大王』(TBS)の隆盛、QuizKnockの人気、『高校生クイズ』(日本テレビ)の再ガチ化など、シンプルに強いプレイヤーがもてはやされる時代がまたやってきている。
クイズに限らない話だが、周りが白けるほど強いプレイヤーが出てきた時にどういうルールを考えるか、そこはスタッフと出演者の知恵比べになる。
「殿堂入り」で排除してしまうことは、最終手段であって、安易に使うべきではないだろう。
前述の『ウルトラクイズ』では、「この形式だと負けます」と言った大石に対して「いろんな形式で勝ててこそ真のクイズ王だと言えます」と語った能勢はその後、優勝までたどり着いた。
テレビはエンターテイメント。ガチで強いプレイヤーもそうでないプレイヤーも平等に競えるルールを考え続けるテレビマンを応援していきたい。
文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太
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