一人の社員のアイデアから「おふろの王様」は始まった

「なくてはならない癒しの場」を掲げて、老舗スーパー銭湯・おふろの王様は1999年に1号店を板橋区光が丘にオープンさせた。

一社員のアイデアから始まった人気スーパー銭湯「おふろの王様」が業界で生き残る意外な理由_1
創業店舗である光が丘店は定期借地権満了のため2018年に閉店
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これまで不動産事業を主軸にしていた、東京建物が温浴事業に参入したのは、「新規事業として立ち上げたことが経緯になっています」と加藤氏は言う。

「今から25年くらい前、東京建物本社のある東京・八重洲付近にあった健康ランドに、後輩社員と週2くらいのペースで通っていました。その頃はまだサウナブームなどはなく、銭湯が主流でしたが、後輩は先見の明があったのか、新規事業として温浴施設の運営を企画提案。それで採択されたのが今の『おふろの王様』の原点になっています」

東京建物は、日本最古の総合不動産会社として知られており、業界に先駆けて住宅の割賦販売や分譲マンションの開発を手がけてきた。常に新しいものを取り入れる進取の精神により、若い人材の意見を積極的に受け入れる企業風土が育まれてきたのだという。

一人の社員の思いから始まったおふろの王様だが、多店舗展開していくビジネスモデルではなく、地に足つけて出店する形態をとっている。もちろん、店舗数を増やせば増やすほど利益につながるわけだが、そうしないのは「地域特性に合わせ、しっかりとしたマーケット調査を行っているから」だと加藤氏は説明する。

「決まった店舗フォーマットを作り、それを横展開させていく金太郎飴型の経営ではなく、出店エリアの特徴や地域性、そこに住む人のニーズなどをしっかり捉え、案件の選定を行ってきました。当然、出店場所によって温浴施設に求められる需要は異なってきますので、1年間だけ儲かるような短絡的なやり方では長続きしません。

地域に根ざし、地元に住むお客様に何十年も受け入れられる店舗づくりが大事になるわけで、おふろの王様では時代に合わせて少しずつ新しいものを取り入れてきました。そういう意味では、おふろの王様は各店舗ごとに特色が分かれていて、ひとつとして同じような造りはしていないんです」