ビジュアル系ではないけれど、それゆえに色々な役がこなせる俳優と評判だったアダム・ドライバーが最近誰よりも目立っている。
レオナルド・ディカプリオ、ジョニー・デップ、オーランド・ブルームたちに並んで、“新しいアメリカのハートスロブ(心臓をドキドキさせる人)”などと呼ばれています。
『スター・ウォーズ』続3部作シリーズでハン・ソロとレイアの息子であるカイロ・レンという大役に抜擢されたことで世界的に広く知られるようになり、『ハウス・オブ・グッチ』(21)ではグッチの後継者のひとりだったマウリツィオ・グッチを品良く、それでいて大曹司の傲慢さもにじませて名演していました。この役で女性の間での人気が急上昇したのは確実。
クセ強俳優、アダム・ドライバーの沼へようこそ
ハリウッドでいま最も勢いのある俳優のひとりに数えられるのが、主演映画『アネット』が現在公開中のアダム・ドライバー。憎たらしい中世の騎士やダークサイドに堕ちる銀河帝国の残党の指揮官、巨大ブランドの御曹司など、どんなクセの強い役でも演じられる巧みさは、芸達者な俳優が多いハリウッドでも群を抜いている。ちょっと怪しいのになんだか気になる……。そんな個性派俳優の魅力を、ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・中島由紀子さんが徹底解剖!
新しいハリウッドの“ハートスロブ”

『ハウス・オブ・グッチ』ではレディー・ガガと夫婦役を演じた
Everett Collection/アフロ

マット・デイモン演じる親友カルージュの妻を強姦するル・グリを熱演した『最後の決闘裁判』
Everett Collection/アフロ
『最後の決闘裁判』(21)でも、マット・デイモン演じる役に決闘では負けましたが、セクシー度では楽勝していました。
“普通の人”の感じが特徴だったアダム・ドライバーが、アメリカの“もっともセクシーな男”のリストに登場するようになったとは。彼の魅力の経歴を辿ってみました。
結婚生活では実はポンコツ!?
『マリッジ・ストーリー』(19)のインタビューのときに、結婚して10年の彼に結婚観を聞きました。
「結婚っていいものだよ。毎日のように自分のバカさ加減を指摘されるのって大切なことだからね」と独特のユーモアで笑っていました。聞いているほうも爆笑です。

スカーレット・ヨハンソンと夫婦役を演じた『マリッジ・ストーリー』ではアカデミー主演男優賞にノミネートされた
Collection Christophel/アフロ
「俳優っていう職業は変にのぼせあがったり現実が見えなくなったりするから、妻に“食べ物を噛んでるときに喋らないで!”とか色々言われたりして、地に足がついてる日々を送るって非常に重要なんだよ」とまっとうなご意見。でも、「結婚って誰にでも向いてるわけじゃないよね」と付け足していたのが印象的でした。
最新作の『アネット』(21)はマリオン・コティヤール演じる人気オペラ歌手のアンと、アダム・ドライバー演じるコメディアンのヘンリー、そして娘のアネットのストーリーなのですが、ときどきキャラクターたちが歌を歌い出し、不気味な怖さが画面に充満して殺人などが勃発する、なんとも不思議な物語。

『アネット』全国公開中
© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International /
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プロデューサーのひとりでもあるアダム・ドライバーはカンヌ国際映画祭のインタビューで、「7年もかかってでき上がった映画。まだ『ガールズ』(12〜17)に出ている頃に声がかかり、レオス・カラックス監督の『ホーリー・モーターズ』(12)の自由な雰囲気あふれる映画作りに感動していた僕は即刻“イエス”と答えたんだ。二度とこういう作品にはめぐり合えないだろうと全力投球で役作りしたよ」と答えていました。
鍛え上げられた体はエリート部隊・海兵隊出身の証
アダム・ドライバーに最初に会ったのは人気TVシリーズ『ガールズ』に出演していたとき。10年前です。
彼の話になると必ず言及されるのが海兵隊に入隊していたこと。海兵隊はアメリカ軍の中でも文武両道の優秀な若者が集まるエリート部隊で、訓練も尋常ではないほど厳しいそうです。それゆえに誇り高き隊員の絆は永遠で、鍛え上げられた体は海兵隊員の勲章だとか。
彼が迷える18歳だったときに入隊した理由はシンプルです。だらだらと目的なく日々を過ごしていた2001年、NYワールドトレードセンターなどへの同時多発テロがあり、眠気が一気にぶっ飛んだという感じで「国のために何かしよう」と思い立ったのがきっかけだとか。『ガールズ』のインタビューでも海兵隊のことが話題になりました。
「3年近く厳しい訓練を受けアフガニスタンに向かう直前、マウンテンバイクの事故で肋骨を折り、悔しい気持ちの中で仲間の出発を見送った」と振り返ります。その後も厳しい訓練に参加したことで肋骨をさらに痛めてしまい、海兵隊を名誉除隊することになったそうです。
演技との運命の出合いを通して広がった世界
「これからどうしようか?」と迷った末、選んだのが演技の道。
実は高校時代にはミュージカルからシェイクスピアまで片っ端からトライしていたほど、演劇に夢中だった過去があります。惹かれた理由のひとつが「自分の中のなんだかはっきりしない感情を言葉にして表現できるという発見があったから」。
インディアナ州のミシャワカという「スペリングを教えないと誰も発音できないような町」で育ち、深く文化に接する環境にいたわけではなかったものの、「演技を通して自分の世界が広がっていったんだ」と教えてくれました。
素顔は真面目でクレバーなエリート

大学時代に出会った妻のジョアン・タッカーと
REX/アフロ
名門ジュリアード音楽院で演技を学び始めた2006年には、クラスメートだったジョアン・タッカー(のちの妻)と“AITAF” =Arts In The Armed Forces(軍隊の中のアート)という団体を創立し、世界中に散らばる米国軍人をアートでサポートする活動を始めました。
クセの強い個性的なキャラクターを演じることが多いアダム・ドライバーですが、素顔はとっても真面目でクレバーなエリート青年。演技と家族を愛する地に足のついた常識人だからこそ、振り幅の大きい役柄を説得力を持って緻密に演じられるのかもしれません。

©HFPA
次回作は再び『マリッジ・ストーリー』のノア・バームバック監督作品です。
ドン・デリーロの原作の『White Noise』(22/原題)で、4回離婚歴があり、死への恐怖から逃れられない、ヒトラー研究を専門にする大学教授を演じます。
またもや不気味な名演技を見せてくれそうな予感。
これからもアダム・ドライバーの魅力から逃れられそうにありません。
アダム・ドライバー●Adam Driver 1983年11月19日、米・カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。身長189cm。主な映画の出演作は『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(13)、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(14)、『パターソン』(16)、『ブラック・クランズマン』(18)、『マリッジ・ストーリー』(19)など。
文/中島由紀子 構成/松山梢
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