――RTA in Japan Summer 2022では、プロの「ぷよらー」(ぷよぷよプレイヤーのこと)が行うRTA(リアル・タイム・アタック/ゲームクリアのタイムを競うゲームの遊び方)としてスケジュールの公開時から話題となっていました。そもそも、プロ入りを志したきっかけは何だったのでしょうか?
『ぷよぷよ』は昔からあるゲームですが、プロ制度が発足したのは2018年のことです。
ぷよぷよのプロになるためには、オンラインやオフラインの大会で好成績を残し、1年に一度、成績上位者が集結するトーナメントでベスト4に入る必要があります。
自分のぷよぷよ歴が今年で19年となるので、2018年当時でだいたい15年目。周囲からも実力を認められており、自分にとってもプロをめざすのは当然という思いでした。ですが、プロ入りの壁は想像以上に厚く、ライセンス取得に4年近くかかってしまいました。
――ぷよ歴19年……! 昔からぷよぷよがお好きだったんですね
実はそうでもないんです。今だからこそ言えるのですが、小さい頃はぷよぷよがゲームのなかで一番嫌いなタイトルでした(笑)。兄と一緒によく遊んでいたのですが、兄がめっぽう強くて。毎回のようにボコボコにされるので「こんなゲームのなにが面白いんだ」と思っていました。
――では、いつ頃からぷよ愛が芽生えたのでしょうか?
中学生になったあたりから、兄がコツを教えてくれるようになったんです。ぷよぷよは連鎖でぷよを消すことが戦略の基本となるのですが、コツを知り、自分で連鎖を組めるようになるとぷよぷよに対する考え方ががらりと変わり、のめり込んでいきました。

『ぷよぷよ』にドハマリしてゲーセンで出会った女性と結婚。プロぷよらーが目指すゲーム業界の未来
RTA(リアルタイムアタック)とは、ゲームのスタートからクリアまでの実時間を競う、タイムアタックの一種である。8月に開催されたRTAの祭典「RTA in Japan Summer 2022」ではTwitter上でトレンドワードが生まれるなどの注目を集めた。その一つに終電までにゲームクリアする「終電RTA」というプロゲーマーによるプレイが話題となった。JeSU(日本eスポーツ連合)公認のプロライセンスを持ち、終電RTAで界隈を賑わせたプロぷよぷよプレイヤーのreoruさんに話を聞いた。
プロゲーマーでRTA走者のぷよぷよの達人
『ぷよぷよ』は一番嫌いなゲームだった

©SEGA
今でこそオンライン対戦が主流ですが、自分が中学生の頃は週末になるとゲームセンターで大会が開催されていて、それにもよく参加していました。
――当時から強かったのですか?
優勝経験は何回もあります。自分で言うのも恐縮ですが、関西圏では5本の指に入ってたんじゃないかな、と。
ただ、プロ入りしてから上には上がいる、ということを実感しましたね。
ぷよぷよのおかげで禁酒&結婚できた
――普段はどのような練習を?
eスポーツに関しては、スパーリングが基本です。
RTAは自分との戦いで、クリアタイムを縮めるための難しい技をどう成功させるかがひとつのポイントになると思います。一方、eスポーツでは常に対戦相手がいる。相手のぷよの組み方を見ながらどこで仕掛けるか、どこまで積むかなどの駆け引きも重要なので、自然と対人練習がメインになります。
――素朴な疑問なのですが、ぷよぷよのやりすぎで日常に影響が出たこともあるんですか?
これは、ぷよらーあるあるだと思うのですが、目を閉じるとぷよぷよがまぶたの裏に浮かんでくる、ということも昔はありました。今はもうないですけどね。むしろ、ぷよぷよをやることによる良い影響のほうが多い気がします。
例えばお酒ですね。練習前に飲んじゃうと頭が働かなくなるので、飲むのは練習をしない週末だけと決めているんです。無類の酒好きなので、もしぷよぷよがなかったら際限なく飲んでしまっていたと思います。

reoruさんのTwitterでは飲酒日記もちらほら @reoru_puyo29より
あと、実は妻との出会いもぷよぷよがきっかけなんです。
4年前に行われたゲームセンターのイベントで知り合ったのがきっかけでお付き合いをはじめて、今年、入籍しました。ぷよぷよを通じての結婚なので、ぷよらー婚ですね。

RTA in Japan 2022 Summer 後の8月26日に入籍 @reoru_puyo29より
――ゲームを通じて生涯のパートナーと出会う。ゲーマーの夢のひとつだと思います
そうかもしれません。ほかには、ぷよぷよの試合後に自分のプレイを見直し、反省点を見つけて次に活かす。そうしているうちにPCDAサイクルのやり方が自然と身について、普段の仕事の効率化に役立ったこともあります。
――お仕事は何を?
会社員です。トップクラスのプロには大会の賞金やイベント出演など、ぷよぷよの活動だけで生計を立てている人もいますが、自分はまだ、ぷよぷよだけで食べていく自信がないので掛け持ちという状況です。
近い将来、もっと多くのプロゲーマーが専業として、自身の活動に集中できる社会になればいいなと思っています。自分がRTAにも参加することはその願いも込めています。
RTAもeスポーツもゲームへの情熱は同じ
――RTA in Japan Summer 2022にはどのような意気込みで参加されたのですか?
プロとしての実力はもちろんのこと、エンタメ要素を多く盛り込み、見ている人に楽しんでもらうことを意識していました。
もともと自分がRTAをはじめるきっかけとなった走者(プレイヤー)が、プレイも解説も上手な方だったんです。その動画が非常に面白くて、自分も視聴者を楽しませたい、好きなゲームの魅力を強く伝えたいという思いが自分のRTAの出発点でした。
――reoruさんのRTA中には、終電RTAがトレンド入りを果たしていましたね
ちょうど自分の出番が終わるのが終電ギリギリの時間だったので、これを利用しない手はないと。「終電に間に合わないかもしれない。終電に乗って帰るために一刻も早くクリアしなくてはならない」という裏事情を共有すれば、視聴者も一段と楽しめるのではないかと思ったんです。といっても、コメント欄が盛り上がればいいな程度に考えていたので、自分のRTAが「終電RTA」と呼ばれ、しかもそれがトレンド入りまでしたことには驚きました。

「終電RTA」がreoruさんのプレイ中にTwitchのコメントで流れ、そのままTwitterでトレンド入り。なお、RTAが「早く〇〇する」という意味で用いられる例は少なくない。例)帰宅RTA、料理RTAなど
プロになるまでは自分の腕を磨くことに集中していたのですが、プロ入りしてからはもっと多くの人にゲームの魅力を知ってもらいたいと思うようになりました。
イベントに参加する度に、ぷよぷよにはもっと多くの人に楽しんでもらえる可能性があると感じます。何よりゲームに注目が集まり業界が活発化することで、賞金の出る大会が増えたり、プロゲーマーが憧れの職業になったり、ゲームに本気で打ち込んでいる人が報われる世の中になればいいなと考えているんです。
ゲームの魅力を知ってもらう上で、RTAは普通にプレイするよりも注目を集めやすいゲーム形式だと思います。とはいえタイムが遅くては本末転倒なので、プロとしてクリアは早く、テクニックは上手く、そして面白いことを常に意識しています。
RTAとeスポーツは比較されがちですが、ゲームにかける情熱に差はありません。RTAから興味を持ってeスポーツへ、eスポーツからRTAに取り組んでというように、お互いに良い影響を与えてゲーム業界全体が盛り上がってほしい。
RTAとeスポーツ、どちらもやっている自分はその橋渡しになりたいんです。
取材・文/笠木渉太