「野心がもうあんまりないというか」

まだ残暑が厳しい、とある正午過ぎ。相模川の支流・道志川に清流を注ぐ「神の川」の最上流部に位置する「うらたんざわ渓流釣場」に、鈴木拓と筆者はいた。

「自分より他人を輝かせたい。だからマネージャーになりてぇ」ドランクドラゴン鈴木拓が46歳にして辿りついた“仏の境地”_1
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「暑いですね……」
「汗が止まらないですよ……」
「やべぇな……」

そんな言葉しか出てこない。この日の最高気温は36℃超え。それでも、どうしても鈴木と釣りがしたかった。「釣りをしていると、人は本音を話す」――そんなイメージを勝手に抱いていたのだ。

7年前、鈴木の著書『クズころがし』(主婦と生活社)出版を機にインタビューをしたことがある。当時は「努力は人を裏切る」「夢にしがみつくのはただの屍」など、毒を吐きまくってくれたのだが、「実はこの人、ただただ、めちゃくちゃいい人なのでは?」という思いを拭い切れなかった。

釣りをしたことはない。とくに釣りに興味があったわけでもない。しかし鈴木の本音を引き出すには釣りをするしかない――そんな思い込みから、炎天下の中、川のせせらぎしか聞こえない静かな渓流の片隅で釣りをするに至った。

初心者の筆者に鈴木がチョイスしたのは「テンカラ釣り」。疑似餌として毛針を使う、日本古来の釣りだ。同じく毛針を使うフライフィッシングと違い、リールを使わず、竿と釣り糸、毛針のみで行う。そのシンプルさが、海外でも人気だという。

――びっくりするくらい釣れますね! ニジマス!

釣れるでしょ? 初めてなのに、すごい上手いですよ。

――ありがとうございます。せっかちなので、釣りは向いてないかと思ったんですよね。

せっかちな人のほうが釣りに向いてるんですよ。好奇心旺盛で活発な奴ほど、興味がすぐ薄れるっていうのは人間も魚も一緒で。同じ場所で同じことをずっとやってたら、魚って見切ってくる。だから釣れないんですよ。

でもせっかちな人って「これじゃないや、これじゃないや」って違う方法をどんどん試すから、それって魚からしたら斬新で手強い手法といえるわけで。だから釣れるんです。

――なるほど! 釣れると、めちゃくちゃ楽しいです!

よかった、よかった!

――以前、インタビューさせていただいたのが、7年前です。『クズころがし』をもとに鈴木拓流処世術を伺ったのですが、あの頃から価値観に変化はありましたか?

もうそんなに経ちますか。大幅には変わってないですね。ただ、あのときのほうがシステマチックでしたね。今はもっとナチュラルです。野心がもうあんまりないというか。あのときは野心しかなかったから、ナンバー1は無理だとしても「ナンバー2を目指そうよ」っていう提案だったんですよ。