役の繊細な心情をすくいあげる松居大悟の手腕

性的描写は10分に1回。松居大悟監督が“ロマンポルノ”の制約の中で描いた普遍的な愛_1
松居大悟監督
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――日活ロマンポルノは、1971年〜1988年に製作された、当時の映倫規定における成人映画レーベルですが、みなさんはどんな印象を持っていましたか?

松居 僕は相米慎二監督を敬愛しているので、相米さんが参加していた尖ったレーベルだなという印象を持っていました。いろんなジャンルの映画を見る中で、『ラブホテル』(1985/相米慎二監督)をはじめ何本かロマンポルノを見たことはありましたけど、今回のお話をいただくまでは、「攻めてる作品を作っている」という、ぼんやりしたイメージしかありませんでした。

福永 私は45周年のときのリブート・プロジェクト作品は見ましたが、古い作品を見たことがなくて。なんとなく女性向けではなく男性が見るものというイメージがありました。

金子
 僕も同じです。ただ、今回のプロジェクトに参加しようと思った大きなきっかけは、松居監督が撮るということ。ぜひ!という感じでした。

松居 金子くんとはドラマ『バイプレイヤーズ〜名脇役の森の100日間〜』(2021)でご一緒したんですけど、映画俳優としての金子くんと一緒にやってみたいと思っていました。あと、ラブシーンを撮影するときに、全員初めてだと大変だなと思ったので、経験したことがある方がいたほうが相談しながらできるなと思い、オファーしました。

――ヒロインのさわ子を演じた福永さんはオーディションで選ばれたそうですね?

松居 オーディションで数日間いろんな方のお芝居を見ていて、福永さんが演じるさわ子を見たときに「この人のことをもっと知りたい」と思ったんです。オーディションに参加した人が全員同じシーンをやるんですけど、「この言葉をしゃべっているこの人のことを、もっと見てみたい」というか。それからは、他の方のお芝居を見ても、福永朱梨のさわ子が頭から抜けなかったです。

福永 うれしいです! オーディションに挑むときに、絶対自分がさわ子を演じたいと思って受けたんです。他の方で決まっていたら本当に悔しかっただろうなって思います。

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森役を演じた金子大地(左)、さわ子役を演じた福永朱梨

――さわ子はおじさんの写真を撮ってコレクションするのが趣味の会社員。年上とばかり付き合ってきた彼女が、金子さん演じる同年代の同僚・森と距離が近づくにつれて、心境が変化していきます。監督は男子のわちゃわちゃを描くのがお得意ですが、『ワンダフルワールドエンド』(2015)や『私たちのハァハァ』(2015)『アズミ・ハルコは行方不明』(2016)など、女性の心情もすごく繊細にすくい取られる方という印象があります。

金子 それは俺も気になっていました。松居さんはどうやって女性を撮るんだろうと思っていたので、現場に入るのが楽しみでした。

福永 撮影はすごくタイトだったんですけど、撮影に入る前にLINEをくれましたよね。夜中に、「さわ子は本当に森を好きになったと思う?」って。

松居 そうそう。(LINEを見返して)「本気で森に恋をしたのか、一瞬好きになってしまっただけなのか、どっちだと思う?」って送ったんです。僕自身、どっちなんだろうと思っていて。

福永 お互いの意見をいっぱい出しあって、「これだね」っていう方向性を決めました。演じる私の意見もしっかり聞いてくださり、すごく助かりました。

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©2022日活

――金子さんが演じる森も、つかみどころのないキャラクターです。

金子 僕自身、惨めだったり不幸だったりするキャラクターのほうが面白いと思いますし、やってやろうと思えるので、森という役をいただけてうれしかったです。

福永 森さんはさわ子に対してすごくひどいことをする人だけど、なんか嫌いになれないというか。それはきっと金子くんが演じたからこそ、チャーミングさが出たんだろうなって思います。

松居 森は森なりに、一生懸命なんだよね(笑)。でも森のキャラクター造形も結構難しくて。撮影前のリハーサルの段階で、ずっと悩んでくれました。

金子 終盤で森が涙を流すんですが、その涙の意味の見極めが難しかったんです。演技として涙を流したのか、それとも純粋に悲しくて泣いたのか。2択でずっと悩んでいました。

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©2022日活

――結論は?

松居 リハーサル中に、金子くんから「松居さん、ちょっとすみません」と外に連れ出されたんです。それまでは悲しくて涙を流すモードで森を演じていたけど、「1回、芝居をしているモードでやってみてもいいですか」って。実際、モードを変えただけで芝居の雰囲気も全然変わって、「そうなるか」って驚きました。でも、次の日かな……。

金子 「やっぱ違いました」と連絡しました(笑)。でも、一度役者の意見を肯定してチャレンジさせてくださるので、すごくありがたかったですね。