――徳弘先生の青年誌初連載となる『狂四郎2030』はどんなふうに読まれましたか?
デスペラード ディストピア感がすごかったですね。『バンパイア』もそうですが『ターちゃん』の世界の空気感とは全然違った負のオーラがあるというか。怖かった……。
――青年誌なのでセックス描写もたくさん出てきますが、エロティックさよりも悲しみを強く感じました。
デスペラード ハッピーなセックスはほとんど描かれていなかったんじゃないかな。狂四郎と志乃とのバーチャルでのセックスには愛があったと思うんですけど、それ以外はほとんどただの行為、消費されるだけのものとして描かれていましたよね。
遺伝子操作で作られた敵(八木少将)が、ユリカがバーチャルセックスをしているのを見ながら、部屋中ティッシュで埋まるくらいオナニーをするシーンがあって……人間のドロドロしたところがものがすごく濃く出ているシーンで「めっちゃ怖い!」と思いました。

新日本プロレス エル・デスペラード、徳弘正也作品とプロレスを語る(その2)~徳弘作品の主人公は、超人なのに自分の力ではどうにもできないことで悩んでいる
新日本プロレスのジュニアヘビー級チャンピオン、エル・デスペラード。レスラーとしての高い実力ではもちろん、その優雅な振る舞いや試合後に発するコメントの的確さでも多くのファンを魅了している選手だ。さらに最近ではマンガ・アニメ・ゲームなどカルチャー全般への造詣が深い選手としても注目が高まっている。そんなデスペラード選手に以前からファンだと公言してきた徳弘正也作品について話を聞いた。第2回では、「胸が痛くなった」というあの少女マンガについても語る!(取材・文 門倉紫麻)
第2回
徳弘作品の主人公は、超人なのに自分の力ではどうにもできないことで悩んでいる


『狂四郎2030』より ©徳弘正也/集英社
――徳弘作品の主人公たちのことは、どう見ていますか?
デスペラード みんなが好きな「気は優しくて力持ち」なキャラクターを描いておられて。やっぱり読んでいて気持ちがいいですよね。基本的に、主人公がみんなめちゃくちゃ苦労していますよね。超人なのに、自分の力ではどうにもできないことで悩んでいる。
例えば『黄門さま』の助さんも、本人はめちゃくちゃ強くて、自分の努力で何とかできる部分は頑張って解決する。でも黄門様の権力にはやっぱり逆らえない……そういうジレンマも描かれていて。でも全部がすっきり解決してしまったら、こんなにおもしろくは読めないと思うんですよ。

『黄門さま~助さんの憂鬱~』より ©徳弘正也/集英社
――『狂四郎』でも、連載中の『もっこり半兵衛』でも、今おっしゃったような自分の力でどうにもならない苦しさを抱えた人がどう生き抜くか、そういった割り切れないものを繰り返し描かれています。
デスペラード はい。徳弘先生は、読者に必ず何かを残してくれます。
『君に届け』は「尊い」。
『恋は雨上がりのように』は「成長物語」。
『ハコヅメ』は「ディスカバリーチャンネル」!
――少女マンガも読まれるそうですね。ツイキャスでは『君に届け』(椎名軽歩・集英社)の話もされていました。
デスペラード 数は多くないんですが、『君に届け』ぐらいのビッグネームは一般教養として読んでおかないと!と思ったのと、絵も好きだったので読みたいなと思いました。読んでいて何回も「そりゃあ胸が痛くなりますよね!」と(笑)。野球部の寡黙な長身・坊主のイケメンと、元気で明るいヤンキーっぽいの女の子を見ているだけでもう尊いじゃないですか(笑)。
読んだことのない人が今の僕の言葉を聞いたら「ああ、ああいうやつね」ってなるかもしれませんが、読んだことのある人たちからすると「バッカそれだけじゃねえんだよ!」と言いたくなりますよね。読まなきゃわかんないです。逆に言えば、読めばわかるから読んで!ということです(笑)。
――まさにそうですね。この胸の痛みを味わってほしいです。
デスペラード そういう胸が痛いマンガで、最近ぶっ刺さったものだと、『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん・小学館)ですね。
『君に届け』は「ああ、このまま行くとああなっちゃう! あーっ、なった!」っていう楽しさだったんですが、『恋は雨上がりのように』は「あーっ、こうなるのか!」っていう楽しさがありました。
――確かにどちらもマンガを読む醍醐味ですね。『恋は雨上がりのように』はバイト先の40代ファミレス店長に女子高校生が恋をするお話です。
デスペラード ストーリーとしてはそうなんですが……僕個人の感想としては2人の恋愛事情を描いた話ではなくて、止まっていた2人が先に進む、成長の話だったんじゃないかなあと。
あとアニメもすごく良くて。店長(の声)が平田(広明)さんか!とか、ちょっと『機動警察パトレイバー』 の後藤(喜一)に似てる!とかそういう良さもありました(笑)。
――ほかにも今お好きな作品はありますか?
デスペラード つい先日、『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(泰三子・講談社)にどハマりしました。
――警察官の日常を描いた作品ですね。
デスペラード 友人に警察官が10人ぐらいいまして。あの人らこんなことしてんのかあと、思いながら読んでいます。基本的にはギャグマンガなんですけど、警察学校の生活とか知らなかったことがたくさん描いてあって、警察の仕組みをおもしろがりながら知識として入れられたのもよかった。自分にとっては「ディスカバリーチャンネル」に近いものがあります(笑)。
もともと警察が嫌いだったわけじゃないですけど、ありがたいなと思うようになりましたね。『ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス』っていうギャグのほぼないディープなスピンオフもすごくおもしろいです。
実は、外から自分を見たことがあります
――マンガの場面を、すごく細かく覚えていらっしゃいますよね。視覚的な記憶がお強い。
デスペラード だから名前と数字が覚えられないんですが(笑)。
集英社オンライン編集者(以下、編集) マンガ家さんに似ている、と思いながらお話を伺っていました。マンガ家さんは特に視覚に関しての記憶力が良い方がとても多いんです。「あの時こういうことがあったよね」と今それを見ているように、言語化できる方が多い。マンガ家さんはたぶん空間認識能力も高いんですが、プロレスラーの方も戦う時に空間認識が必要になってくると思うので、そのあたりも近いのかなと。

デスペラード そう言われてみると確かに、自分がリングのどこで戦っているかは意識しますね。若い選手は、動き回って戦っているうちにどんどんコーナー際やロープ際に寄って行っちゃうんですよ。そうすると動きに制限が出てきてしまう。基本的に僕は、リングの真ん中にいるようにしています。コーナーとかロープ際にいるのは何か考えがある時ですね。
編集 空間認識ができる方は、主観のカメラで前を見つつも、遠くにあるカメラも持っていて、自分の位置を把握できたりするのかなと思います。
――タッグの試合だと、2人がドロップキックをシンメトリーの位置で同時に放ったりして、上から見て描いた構図のように美しいと思うこともあります。
デスペラード 主観じゃないカメラ……僕、1回だけ自分を外から見たことがあるんですよ。幽体離脱したんです(笑)。
一同 ええっ!
デスペラード 与太話として聞いていただきたいんですが、すごく昔、ニュートラルコーナーに振られた時に、相手のハイキックの爪先がゴッ!てこめかみに刺さったんですよ。そしたら、そのままポンッて逆側に僕が抜けて。
――「僕が」抜けた、ですか……。
デスペラード 「あれ、俺は今どこにいるんだ?」と思ったら、客席の最前列にいたんです。で、両足から力が抜けていく俺を俺が指差して「あーっ! 俺が倒れていく!」って……。そのままゴンッ!とマットに頭がぶつかった瞬間に、ライトが目に入りました。
――そこで「戻った」ということですね。
デスペラード ここからの話は後から思い出したことなんですけど、戻ってから「俺、今何してんだっけ?」って朝起きたみたいな感じでゆっくり起きようとしたら、今度は胸にボコーン!てドロップキックをされたんです。そこで「あっ試合中だ!」って復活したんですよ。
――見てしまったんですね、ご自分を。
デスペラード 見ました(笑)。変な倒れ方をしたんで、両足首捻挫してました。
――怖かったですか?
デスペラード いやもう、怖いも何も、という感じでしたね。試合中だわ、ドロップキックで息は詰まるわ、若手時代の話なので、控室では「あの受け身はなんだ!」って怒られるわで(笑)。後からいろんな人に話しましたけど「お前、話盛るからなあ」と言われて信じてもらえませんでした。
――ということは、レスラーの間でもよくある話ではないんですね。
デスペラード よくある話ではないです(笑)。

50周年を記念して往年のシリーズ「HYPER BATLLE'22」を開催!
4月9日(土)の両国国技館大会ではエル・デスペラード選手のIWGP Jr.ヘビー級王座決定戦をはじめ、豪華6大タイトルマッチが実現!
https://www.njpw.co.jp/tornament/336018?showCards=1
取材・文 門倉紫麻