駅舎のない駅

暑い……。曇りでよかった……。

飲み物を買いたいのにどこにも自販機がない……。

あ、またよその庭先に迷い込んじゃった……。

白丸駅を出て、くねくねの坂道を上っていったり、行き止まりで戻ってきたり、別の道に入ったらどんどん森が深くなったりと、当てずっぽうでウロウロすること30~40分。ウグイスやセミの鳴き声はにぎやかでしたが、人間とは誰ともすれ違いませんでした。

あとでわかりましたが、国道や渓谷の入口につながるにぎやかなエリアとは逆側をさ迷っていたようです。

8月初めの日曜日に訪れたのは、青梅線の白丸駅。ひとつ先にある奥多摩駅は青梅線の終着駅で、土日の朝にはJRが新宿駅から「ホリデー快速おくたま」という直通列車を何本も走らせています。そんな一大観光スポットの隣りの駅には何があるのか。私の事務所に近い池袋駅から、JRの山手線と中央線と青梅線を乗り継いで2時間ぐらい。青梅駅を過ぎてしばらくしたら、電車の窓の外には深い森が広がります。ここは本当に東京都なんでしょうか。

奥多摩駅のひとつ手前の「白丸駅」は東京なのに秘境だった_1
駅のホームにあった「名所案内」。距離の単位が懐かしい「粁」でした。これで「キロメートル」と読みます。そっと「Km」と書き添えたのは、JRの人でしょうか。あるいは見るに見かねた利用客でしょうか

この連載では、目的の駅に着いたときに真っ先にやらなければならないミッションがあります。それは、トップ画像用に駅舎の写真を撮ること。白丸駅を降りて無人改札を通り、あらためて駅を見ると、あれれ、駅舎がない! 券売機が設置してある小さな建物を「駅舎」と呼ぶのは、さすがに無理があります。「駅には必ず駅舎がある」という私の先入観は、見事に打ち砕かれました。旅はいろんなことを教えてくれます。

奥多摩駅のひとつ手前の「白丸駅」は東京なのに秘境だった_2
「駅舎」。奥に見える白いドームは待合室です