太眉とお団子ヘアがトレードマークだった井上咲楽が、番組企画をきっかけに眉毛を整えるようになってから早くも1年半がたつ。
眉毛に合わせて髪型や服装もイメージチェンジしたが、今ではすっかり世間も細眉咲楽に慣れ、太眉時代を思い出す人もまばらになった。ひと頃は何かの番組に出るたびに虫を食ったりもしていたが、それもすっかり披露する機会は減り、今年になってから『新婚さんいらっしゃい!』(テレビ朝日系列)のアシスタントに決まるなど順調そのものである。
一見イメチェン大成功事例という感じだが、当時の番組やその後のインタビューなどを見ると、内実そう簡単な決断ではなかったようだ。そこでは、太眉のおかげで芸能界でそれなりに仕事をもらえていた自分と、一方でそれに囚われ過ぎて仕事の幅が狭まっていた自分との葛藤が吐露されており、トレードマークというものの扱いの難しさが改めてよくわかるケースでもあった。

メガネアイドルの元祖・時東ぁみはまだメガネをかけていた! トレードマークがもたらす芸能人サバイバル戦略
メガネ女子、ヒゲ男子といった言葉があるように、ポジティブな印象に一役買いやすいのがトレードマーク。イメージを大事にする芸能人には大きな武器になる半面、業界ならではの悩ましさも付きまとう。変える勇気と変えない勇気…。最も一般的なトレードマークの「メガネ」を題材にアイドル、芸人、アーティストがどのような向き合い方をしているのか、正解の見えないトレードマークとの関係を、テレビ番組に関する記事を多数執筆する、ライターの前川ヤスタカが考察する。
トレードマークは諸刃の剣なのか?
太眉→細眉のイメチェン効果
“変化”につきまとう本人の葛藤
トレードマークは厄介な諸刃の剣だ。
芸能界で抜きんでるためには何かしらのわかりやすい特徴が必要。その特徴が強烈であればあるほどイメージは固定されてしまう。トレードマークを失うことで仕事が全くもらえなくなるのではという恐怖、一方でこのトレードマークをなくさなければ今後の仕事に広がりはないという状況に多くの芸能人が悩まされてきた。
最近でも筋肉アイドルとして名を馳せた才木玲佳が悩みに悩んだ末に「筋肉卒業」した例があるように、入口で印象付けたトレードマークが強烈であるほどその悩みは深くなる。
伊達眼鏡でスタートしたメガネアイドル
ところで、皆さんは、時東ぁみがまだメガネをかけていることをご存じだろうか。
そう、2000年代中頃、つんく♂による楽曲プロデュースでメガネアイドルとして活躍していた時東ぁみである。視力は良く、かけているメガネは全て伊達眼鏡なのだが、当時メガネをトレードマークとするアイドルがほぼいなかったこともあり一部層から熱い支持を得ていた。
私は以前よりずっと彼女のインスタアカウントをフォローしているのだが、すでにいわゆるアイドル活動は一段落していて、当時とは事務所も変わっている。活動の主軸はラジオや舞台などに移っているものの芸能活動自体は続けており、3年前くらいからは筋トレにかなり力を入れている。直近は、ご懐妊・ご出産を経て子育て奮闘中という感じだ。
こういった人生の変遷を経ていながらにして、17年もの長い間、彼女はずっとメガネをかけ続けているのである。

メガネアイドルのイメージを守る逸話
2010年の映画出演時に役柄上仕方なくメガネをとったシーンが撮影されているが、それを除けば基本的に全ての場面でメガネをかけており、2016年の『有吉反省会』(日本テレビ系列)では、バラエティ番組で戯れに「メガネとってみてよ」と言った大御所に対し、頑なに拒否して微妙な空気になったエピソードを披露している。
元々はオーディション時にたまたま伊達眼鏡をかけていたことがきっかけで、つんく♂により作られたメガネアイドルのイメージ。やめるタイミングはこれまで何度もあったと思われる。事務所を移籍したタイミング、結婚したタイミング、筋トレを始めたタイミング、それでも彼女はメガネをやめなかった(ついでに言えば「時東ぁみ」の「ぁ」も「あ」に戻せるタイミングはあったはずだが彼女は今も時東ぁみである)。
イメージの固定を嫌がる人もいれば、固定されたイメージを大事にし続ける人もいる。
どちらが良いというわけではない。トレードマークへの向き合い方というのは人それぞれだ。
しかし、井上咲楽が太眉をやめた理由や、才木玲佳が筋肉をやめた理由は長文インタビューされているのに対し、時東ぁみがなぜメガネをかけ続けているかはあまり注目されていない。
私個人としては、どっちかというと時東ぁみ側に興味があるのである。
実は伊達眼鏡な芸能人たち
メガネをトレードマークにしている芸能人は数多いが、その中には時東ぁみのように度が入っていない伊達眼鏡の人が相当数いる。つまりそれは実用でかけているわけではなく、理由があってあえてメガネをかけている人ということだ。
例えばアンジェラ・アキがそうだ。メガネは彼女のトレードマークの一つだったが、2013年の無期限活動停止時に、その理由として「自分を守ってくれる盾みたいなものでした」と語っていた。
最近だと漫才コンビ・モグライダーの芝大輔が伊達眼鏡である。これは本人が明確に語っているわけではないようだが、外見のかっこよさが漫才の邪魔にならないよう、あえてメガネをかけているというもっぱらの噂である。
他にも顔に特徴をつけるためという理由でレンズなしの伊達眼鏡をかけているキャイ〜ンの天野ひろゆき、相方と背格好が似ており区別するためにかけたという、さまぁ〜ずの大竹一樹などの例もある。
実用メガネと伊達眼鏡の境界事例としては、当初は実用だったもののレーシック手術で視力回復後もメガネをかけ続けている南海キャンディーズの山里亮太や、メガネイメージを守るため、コンタクトの上からレンズなしのメガネをかけていた大橋巨泉といったケースが挙げられる。
続ける理由はイメージだけではない?
こうやって考えてみると、メガネというのは一度かけて世に出ると意外とやめられないものだというのがなんとなく分かる。世の中一般においてはメガネからコンタクトに変えましたというのは日常的にあることだが、芸能界では意外と例は少ない。
もちろん世間にメガネイメージが固定されているので崩しづらいというのもあるが、それ以上にメガネというアイテムが芸能人として人前に出る上でのスイッチの役割になっているように思う。サングラス芸能人なども同類であろうが、オン・オフを分ける境目をメガネが担っているのだ。
時東ぁみは子役時代から芸能活動をしており、最初はガチガチに作られたメガネアイドルのイメージに抵抗があったという話もある。しかし、いつしかメガネが芸能活動スイッチに欠かせない存在になっていったのではないかと思う。
今のアイドルにメガネは不要?
それにしても「メガネアイドル」のような真似をしようと思えばいくらでも真似できるゾーンに、未だ時東ぁみの後続らしい後続が現れないのは面白い。
もちろん、BiSHのハシヤスメ・アツコなど例がないわけではないし(ちなみにハシヤスメも視力は両目1.5である)、地下も含めたアイドルグループにメガネキャラは一定数いる。しかし「メガネアイドル」でネット検索すると未だに時東ぁみが検索結果の一番上にくるのが実状である。
大量人数アイドルグループ時代において、他のメンバーより一歩目立つためにはメガネは引き続き有効な手段のように思うのだが、近年のアイドルは髪の色で個性を出す方が多い。アイドルグループ戦国時代では各グループに一人は金髪キャラがいたし、今のK-POP色の強いグループだと曲毎に髪の色が変わりまくる。
また、激しく踊る機会も多いアイドルグループでは、メガネは邪魔になるという側面もあるかもしれない。ただ、そうなるとバック転とかしまくっていたセイントフォーのメガネ担当・板谷祐三子はどうなるんだという話ではあるのだが。うん、巨泉に続き、たとえが古い。一体どの世代に向けて書いているのか私は。
求ム! 次世代のメガネキャラ
「メガネアイドル」だけでなく「メガネ女性キャスター」というのも唐橋ユミから更新が止まって久しい。ついでに言えば「メガネキャッチャー」も古田敦也から後が出てこない(ちなみにこの両名のメガネはちゃんと度が入っている)。
日本 メガネ ベストドレッサー賞も全くメガネのイメージのない人が受賞するようになってからだいぶ経つ。お笑い芸人のジャンルを除けば、メガネキャラ自体がもはや絶滅危惧種なのかもしれない。
逆を言えばニッチな分野でメガネキャラとして成功できれば、独占的地位を得ることも可能ということ。そう、令和の時東ぁみはあなたかもしれない。
文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太
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