通訳としていろんな方にお会いしてきましたが、いつも感じるのは“スター”と“アクター”の違い。アクターは、ロバート・デ・ニーロとかジョニー・デップのように、作品ごとに全く違う顔を見せてくれる人のこと。一方で、スターはどの作品を見てもスターなの。トムはやっぱりスターだから、ちょんまげを結っていても、空を飛んでいてもトム。スターの資質というのは摩訶不思議なものね。
彼の出演作の中でも、やっぱり『トップガン マーヴェリック』(2022)は特別だと思います。つまり「パート2を!」とみんなに期待され続ける中で、36年ぶりにやっと作ったわけじゃないですか。思い入れは他の作品よりもあると思います。
CGを使わないのが彼のこだわり。いつも「観客は“目”を持っていて、CGとリアルをちゃんと見分ける。だから僕はちゃんと自分でアクションを演じるし、ちゃんと顔を映す」と言っています。ただし、一番大切にしているのは物語。人間の感情の動きを丁寧に描いているから感動するのよね。あれだけの大作を、ディテールに徹底的にこだわる几帳面さで作り上げたのは本当にすごいと思います。
コロナ禍で公開が何度も延期される中、スタジオからは「ストリーミング配信してほしい」とずっと言われていたのに、トムは劇場公開にこだわって3年近く頑張ったのです。本人は「戦った」と言っていましたけど、結果が吉と出てよかったです。『タイタニック』(1997)でレオナルド・ディカプリオが言う「I'm the King of the World!」という名セリフがあるけれど、トムはきっと、そんな気分だと思うわ。彼のような根性がある人、他に見たことがありません。スターの頂点だと思います。

心の底から認める、スターの頂点。戸田奈津子のトム・クルーズ評
字幕翻訳者の第一人者・戸田奈津子さんは、学生時代から熱心に劇場通いをしてきた生粋の映画好き。彼女が愛してきたスターの見るべき1本を長場雄さんの作品付きで紹介する。
長場雄が描く戸田奈津子が愛した映画人 vol.2トム・クルーズ
スターはどの作品を見てもスターなの
『トップガン マーヴェリック』(2022)Top Gun:Maverick/上映時間:2時間11分/アメリカ
アメリカのエリート・パイロットチーム“トップガン”は、かつてない世界の危機を回避するべく、絶対不可能な極秘ミッションに直面していた。ミッション達成のためチームに加わったのは、トップガン史上最高のパイロットでありながら、常識破りな性格で組織から追いやられた“マーヴェリック”(トム・クルーズ)だった……。
トム・クルーズ
1962年7月3日生まれ、アメリカ・ニューヨーク州出身。1981年『エンドレス・ラブ』で映画デビュー。『タップス』(1981)『アウトサイダー』(1983)『卒業白書』(1983)などで注目され、『トップガン』の大ヒットと共にスターの仲間入り。『7月4日に生まれて』(1989)『ザ・エージェント』(1996)でゴールデングローブ主演男優賞を、『マグノリア』(1999)でゴールデングローブ助演男優賞を受賞。『ミッション:インポッシブル』シリーズでは製作も務めている。2023年に『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023)が公開予定。「『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のメイキング動画には、オートバイに乗ったトムが崖から飛び降りるシーンが。“撮影では6回飛んだらしいけど、心臓に悪いからやめてください”と彼に言ったんです。そしたら“あの後、翌日にさらに2回飛んだんだ”と言っていました。本当に命をかけているのね。彼のエネルギーにはただただ感心します」(戸田さん)
語り/戸田奈津子 アートワーク/長場雄 文/松山梢
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