ラッパー同士が向かい合い、DJのかけるビートの上で口角泡を飛ばしながら、ラップという表現を通して戦いを繰り広げ、勝敗を決める“MCバトル”。
そのカルチャーは、KREVAの名前をシーンに轟かせた90年代末の『B-BOY PARK MC BATTLE』や、Creepy Nutsとして活躍するR-指定をスターダムに押し上げた00年代を代表するイベント『ULTIMATE MC BATTLE』など、様々な大会やイベントを通して広がってきた。
さらには2012年にBSスカパー!にて『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』が始まり、高校生/ティーンエイジャーがその生き様をラップバトルを通して表明するこの番組が一大ブームを巻き起こし、この企画からはBAD HOPのT-PABLOWやYZERR、そしてちゃんみななど、新たな才能が発掘され、人気アーティストへとなっていった。
地上波でもMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)が2015年より放送を開始し、MCバトルカルチャーがより広い層に定着。現在も後継番組『フリースタイルティーチャー』や、『激闘!ラップ甲子園』(TOKYO MX)の放送や、バトルイベントの林立、そしてYou Tubeなどのネットコンテンツとしてなど、カルチャーのいちジャンルとして定番化している。
そしてその人気はライブハウスやクラブというキャパシティを超え、いまや日本武道館(『戦極MC BATTLE 第24章』2021年10月9日開催)や、さいたまスーパーアリーナ(『凱旋MC BATTLE』2022年5月15日)でのイベント開催など、日本屈指の大型ホールを満員にするほどに加熱し、定番化している。
一夜にして賞金1000万円も⁉ マイク1本で闘う王者が誕生する「MCバトル」の現在地
Creepy NutsのR-指定などをスターダムに押し上げた、ラップを通して戦う「MCバトル」カルチャー。8月31日にはバトル史上最高賞金額1000万円の諸団体合同イベント『BATTLE SUMMIT』の開催など、文化の一翼を担うMCバトルの現在とは。
ユースカルチャーの中心軸となったMCバトル

晋平太 vs Authority 写真:『戦極MCBATTLE』提供
「MCバトルは間口の広い世界一面白いコンテンツ」

鬼ピュアワンライン vs DOTAMA 写真:『戦極MCBATTLE』提供)
ライミング(韻を踏むこと)やフロウ(言葉の抑揚やメロディ)という、聴感を刺激するラップの根本的な技術力はもちろん、相手の言葉にどう切り返すかという瞬発力や、その人自体のキャラクター性など、様々な要素をもとに戦うMCバトルのアートフォーム。そこで生まれる、罵り、言葉尻を捕らえ、友情を確かめ、互いへの理解を深めていくドラマ性も相まって、若年層を中心に非常に高い人気を集めている。
その活況について、00年代よりMCバトルシーンに関わり、日本初のMCバトルを専門に扱う会社『株式会社戦極MC』を立ち上げ、上記の『戦極MC BATTLE』などの運営に携わるMC正社員氏は、「MCバトルは世界一面白いコンテンツであり、人気になったのは必然」と話す。
「MCバトルは音楽であり、口喧嘩であり、大喜利であり、ディスカッションであり、ドラマでもあるんですよね。そんなに幅広い要素をいっぺんに盛り込んだコンテンツが、面白くないわけない」
その多様性は、MCバトルの門戸の広さにも繋がっているという。
「MCバトルは本当に誰でも参加できるんですよね。例えば、格闘技やスポーツだったらフィジカルの能力が求められるし、勉強だったらIQとか教育資本がそこには関わってくる。でもMCバトルは、ラッパーはもちろん、不良でも、サラリーマンでも、医者でも、アイドルでも、学生でも、大人も子供もジェンダーも……そういった“属性”に関係なく、ライムする、フロウするというラップの基本さえできれば、もっといえば技術がなくても“ラップしよう”という意思さえあれば、誰でもエントリーできるんです」
具体例を挙げれば、日本テレビ系で放送された、アーティストのSKY-HIが手掛けるボーイズグループオーディション「THE FIRST」に参加したTAIKIは、小学生の頃からラッパーである父親とともにMCバトルに参戦していた。
またTik Tokで話題を集める女性ユニット「ルイとKT」のKTは、制服姿の女子高生というキャラクターで『高校生RAP選手権』に登場したが、それまでMCバトルの実戦経験はなかった。
「今日からラップを始めた人でも参加できるし、その人が実はとんでもない才能を秘めてて、いきなりベテランに勝つ可能性もある。そしてその裾野は、バトルが定着したことで、どんどん広がっているんですよね」
一番顕著な広がりといえば、ACジャパンのCMに、現在のMCバトルシーンのトップランナーともいえる呂布カルマが登場したことだ。コンビニのレジでまごついてしまう高齢の女性に対して「何も気にすんな 自分らしく堂々と生きるんだ」とラップで呼びかけ、それに対して女性も「焦ったらまさかの優しい発言 アタシも反省見た目で判断」と返す、「寛容ラップ」(https://www.ad-c.or.jp/campaign/self_all/self_all_01.html)がネットでのバズも含めて、強い関心を集めた。
「本当に素晴らしいCMだったと思うし、ああいったコンテンツはまだ広がっていくと思いますね。そして呂布カルマさんのような人が増えれば、もっとMCバトルからヒーローが生まれるだろうなって」
賞金1000万円は通過点。いずれは国民的なイベントに。

JUMBO MAATCH vs BUFFALO SOLDIER 写真:『戦極MCBATTLE』提供)
その呂布カルマをはじめ、日本のMCバトルシーンを黎明期から支えてきた漢 a.k.a GAMIや、日本のヒップホップの強度を単独で音楽シーンに知らしめた大ベテランZEEBRAが参戦するMCバトルイベント『BATTLE SUMMIT』が、8月31日に日本武道館にて行われる。
“サミット”とタイトルに冠されているように、このイベントは『KING OF KINGS』『SPOTLIGHT』『戦極MCBATTLE』『凱旋MC Battle』『真ADRENALINE』『COMBAT』という、バトルシーンを牽引する6つの団体/興行が集結した。
この日の優勝賞金は1000万円。これまでのMCバトル史上最高額の賞金であり、一夜にして1000万円を獲得するというドリームマッチとなっている。
「この日は、MCバトルの立ち位置を変えるような、大きなインパクトを音楽シーンに与えることになると思います。運営に携わる側も、ただ単にビッグマッチを開催するのではなく、MCバトルの評価をより高めて、確固たるものにするような意思があります。いまだにMCバトルは遊びだとか、一過性のものだとか、ダサいものって思っている人が少なくはないし、ヒップホップシーンにもそう思っている人がいます。でも、そういう状況をこのイベントでひっくり返す、そういう大会になると思います」(MC正社員)
そして、その視線は「その先」にも確実に向いていると話す。
「今回の賞金は1000万円ですが、これは通過点だと思ってますね。これからはもっと賞金総額の大きい大会が出てくるだろうし、それが普通の時代になっていくんじゃないかな。それこそ格闘技のように、大晦日に紅白の裏でMCバトルの大会が開催されて、それがテレビで放送されるなんて、10年後には普通になってると思う」
それは、MCバトルブームの中で実感を伴った予測だという。
「僕自身、10年前にMCバトルの会社を立ち上げたときは、『武道館でMCバトルなんて無理だ』と誰しもに言われてました。でも、ブームの中でそれがいま現実になっている。それこそ、松本人志さんとZEEBRAさんが大晦日にMCバトルするようなことが起きてもおかしくない」
その流れは、霜降り明星のせいやなどが参加した、AbemaTV『芸人界最強ラッパー決定トーナメント』など、すでに形になりつつある。
「裾野が広がったお陰で、芸人さん以外にも才能がある人がどんどんでてくると思うし、色んな才能が参入すると思うんですね。そしてMCバトルの魅力に世の中がもっと気づけば、そして新しい才能が生まれていけば、ここから更にとんでもない広がりを生むと思いますね」
■『BATTLE SUMMIT』概要
日時: 2022年8月31日(水)OPEN 午後4時30分/START 午後5時30分
会場: 日本武道館
■出演者
1. 孫GONG
2. RYKEY DADDY DIRTY
3. 呂布カルマ
4. MOL53
5. CHEHON
6. MU-TON
7. がーどまん
8. SIMONJAP
9. JUMBO MAATCH
10. 釈迦坊主
11. 漢 a.k.a. GAMI
12. CHICO CARLITO
13. DOTAMA
14. ID
15. CORN HEAD
16. ベル
17. Authority
18. 梵頭
19. 晋平太
20. Zeebra
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