8ヶ月ほど前、ある動画がお笑いファンを中心に注目を集めた。
ロバートの元ストーカーからテレビ局員になったメモ少年に学ぶ「推しとの最適な距離感」
推しの存在が、ファンの人生を変えることがある。ロバートのコントに衝撃を受け人生を激変させたメモ少年こと篠田直哉氏(現・メ~テレ勤務)もその1人だ。『ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~』(東京ニュース通信社)から「推し」の存在について考えてみたい。
なんでも15年間お笑いトリオ・ロバートを追い続けた少年が成長し、その後、ディレクターとしてテレビ局に入社。推しであるロバート・秋山さんとの番組を企画・制作したという。
熱狂的な愛を15年間注ぎ続けただけというだけでも十分な驚きだが、彼はそれだけにとどまらなかった。推しとの番組を制作する立場になり、今度はファンとしての軌跡を出版するという偉業を成し遂げたのだ。
“ロバート愛”で人生を切り拓いていく、メモ少年こと篠田ディレクターの熱量や行動力に引き込まれた人は少なくないはず。そんな篠田ディレクターのロバート愛あふれる著書を紹介するとともに、「推し」の存在について改めて考えてみたい。
「推し」の存在で性格も人生も変わった
本書はこんな一文から始まっている。
『これは、内向的だった少年がとある芸人を好きになり、周りから「ヤバい」と思われているのにも気付かず推し続けて、夢を叶えた実話である。』引用:※1『ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~』(東京ニュース通信社)4ページより
『周りから「ヤバいと思われているのにも気付かず…』この一文が、篠田少年の一途さや熱量の高さを物語っている。
篠田少年が「とある芸人」=ロバートと運命の出会いを果たしたのは、小学5年生のとき。ロバートのDVDに収録された名作コント「トゥトゥトゥサークル」に衝撃を受け、ファンとしての人生が幕を開けたのだという。
大好きなロバートの魅力やおもしろさを周りに布教していたら、自然と明るい性格に変化。好きが止まらず、自作のグッズや「ロバート検定」なるwordのテキストも作成。
ロバートが出演するライブに足を運び、そのライブ内容を忘れたくない思いから客席でメモをとることが習慣になった。メモ少年という愛称は、真剣にメモをとる少年を舞台上から見つけたロバート3人が、いじって呼び始めたのが始まりだったという。
その後、中学生になってもロバート愛が止まらないメモ少年・篠田。
このときの少年の夢は「ロバートのメンバーになること」だった。しかし、ロバート・秋山さんから冗談交りに言われた「マネージャーになったらいいじゃん」という一言で、夢が大きく変わっていく。
もし尊敬している推しに同じセリフを言われたら、自分だったらひたすら浮かれてしまうだろう。
ただ、メモ少年は違った。「ロバートと一緒に仕事をするマネージャー」という選択肢を現実的に考え、受験勉強に取り組み始めるのだった。
推しへの愛を貫ける職業はひとつではない
メモ少年のロバート愛は、高校生・大学生になっても加速し続ける。
同じロバートファンとの交流だけでなく、ついにはロバート秋山さんの実父とも交流を始める。メモ少年のロバート愛は誰にも止められない。
また成長しているのはメモ少年だけではない。
ロバートは2011年に「キングオブコント」で優勝。3人それぞれが異なる分野で本を出すなど、トリオとしても個人としてもロバートは飛躍していった。
そんなロバートに熱視線を向け続けるメモ少年は上京し、大学生となった。「ロバートのマネージャーになる」という夢を着実に現実のものにしようとする彼は学園祭実行委員となり「ロバートだけの1時間単独ライブ」を企画。まわりを巻き込み、説得し、見事そのライブを実現させた。
学園祭の経験によって「ロバートと一緒にものづくりをしてみたい」という新しい夢を抱いたメモ少年。吉本興業だけでなく、テレビ局も視野に入れて就職活動をスタートさせる。「推しと一緒に仕事をすること」を夢見て踏み出した第一歩だった。
推しの存在が原動力となったメモ少年の就活
本書を読むと、ロバートの3人がメモ少年の進路を気にかけていたことがよくわかる。
推しとここまでの関係性を築いたメモ少年も素晴らしいが、あらゆる場面でメモ少年のことを応援し、見守り続けたロバート3人の優しさも桁違いだ。
ちなみに、これを書いている筆者もメモ少年と同様「推しと一緒に仕事をしたい!」と思い、とある求人に応募して人生が変わった経験がある。当時1番の推しであったアーティストのマネージャーという肩書を手に入れたのだ。
メモ少年は就活でもロバート愛を全面的にアピールしていたが、筆者は中途採用ということもあり推しへの愛を半分ほどひた隠しながら、面接にのぞんだ。これが功を奏したのかは分からないが、当時寝ても覚めても頭の中を占めていたアーティストが所属する事務所の一員になれたのだ。
ただメモ少年と違い、感情だけでつっ走っていたあの頃の自分は浅はかだったと振り返る。そんな筆者の胸を刺したのが、秋山さんがメモ少年に対し言った「お前の人生だから、どんな道を選んでもお前に任せるよ」(引用:※1 138ページより)から始まる助言するシーンだ。ちなみに、いつも笑いを交えながら話す秋山さんが、この時ばかりは真剣なトーンだったそう。
また、ロバート・山本博さんも秋山さんと同様『「ロバートが好き」だけでは(マネージャー)はやっていけないよ』(引用:※1 139ページより)とメモ少年に伝えている。
推しと一緒に働けたことに後悔はない。ただ「推しと仕事をする=マネージャー以外にもいろんな選択肢があるよ」と、当時の自分に強く伝えたい。この本を読みながら、そんな想いが駆け巡った。
だからこそ推しの存在から夢が生まれ、その推しから直接進路についてアドバイスをもらえる関係性って「なんて尊くて奇跡的なんだ…!」と心底思う。
推しとの最適な距離感
アイドルや俳優、アーティストなどさまざまな人やモノに対して「推し」がいる人は多いだろう。
余暇や休日に推しを全力で応援したい、推しと一緒に仕事をしたい、推しを支えたい…推しとの距離感や応援の仕方は人それぞれだ。
しかし、どんな仕事や立場であっても自分にとっての「推しとの最適な距離感」を見つけることが、より「推し活」を楽しむためのポイントだと思う。
推しへの愛の強さや行動力で、想像もつかない人生につながることもあるとメモ少年は教えてくれた。15年にわたってロバート愛を貫いたメモ少年もすごいが、その愛を受けとめ、少年が青年になるまでの間ずっと一線で活躍し続けているロバートもすさまじい。
ここでは紹介しきれなかったが、メモ少年と秋山父との心温まるエピソードや学園祭でのリハーサルの話など、突き抜けた推しへの愛が『ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~』には、てんこもりだ。
絶妙な距離感でファンと接している「ロバート」のことも知れて、3人のことがより大好きになった。
ロバートの日本一のファンであるメモ少年は、テレビディレクターという「推しと一緒にモノづくりができる道」をつかみとった。
数年後、10年後…篠田ディレクターはどんな距離感でロバートとものづくりをしているのだろう。一お笑いファンとして楽しみでならない。

小学生の頃のメモ少年
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