VISIONは、音楽やファッション、アートなどのカルチャーが交錯する場として「SOUND MUSEUM(音の博物館)」と名付け、2011年10月に誕生した。オープン当初は集客に苦労したものの、ハウスやテクノといったダンスミュージックだけでなく、ヒップホップやEDMなどの時代のトレンドに合った音楽を取り入れることで、次第に渋谷の客層の心を捉えていった。
「転機になったのは、2012年から始まった『GIRLS FESTIVAL(ガールズフェスティバル)』というイベントでした。渋谷に来るお客様に合わせ、人気フィメールDJのDJ KAORIさんをブッキングし、女性のお客様はエントランスフリー(入場無料)にしたんです。
女性を入場無料にしたのは初めての試みでしたが、幸いにも多くのお客様に来場いただいて。このイベントがきっかけで、常連のみならず一般層のお客様までVISIONを広く知ってもらえるようになりました」(乗田氏)
VISIONが打ち出すイベントは着実に客層へ支持されるようになり、いつしか渋谷で最も盛り上がる大箱の一つとなった。しかし、VISIONは2022年9月3日に営業終了することが決まっている。
この11年間、国内外問わず多くのアーティストが出演してきたVISIONにはいつまでも多くの人々の記憶に残るイベントも多いはず。開店以来VISIONの見守り続けてきた乗田氏に、選りすぐりのイベントベスト5を挙げてもらった。
渋谷最大級のクラブ閉店!記憶に残る「神回」ベスト5でダントツ1位は?
渋谷最大級のキャパシティを誇る道玄坂のクラブ「SOUND MUSEUM VISION(サウンド ミュージアム ビジョン)」が、2022年9月3日に約11年間の営業に幕を降ろす。2011年の開店以来、渋谷クラブシーンの一時代を築き、明かりを灯し続けたVISIONの歴史をVISION事業部部長の乗田公平氏とともに、記憶に残るイベントベスト5を振り返る。
VISIONで開催された伝説のイベント5選
シークレットゲストにレディオヘッドのトム・ヨーク!?
第5位:コロナ禍のカウントダウンイベント(2020年)
コロナ禍でいつ営業再開できるか不透明な状況が続いた2020年。VISIONは営業自粛期間中でも賃料やその他諸経費はかかるため、クラウドファンディングを実施した。
「なんとか耐え凌いだ時期でした」(乗田氏)
2020年6月には営業再開の目処が立ったものの、コロナ前と比べて客足は明らかに減少していた。苦しいながらも営業を続け、12月には復調の兆しが見えてきたころ、毎年恒例大晦日のカウントダウンはもうすぐだった。
「コロナ禍の狭間で開催した2020年のカウントダウンイベントは、例年のハウスやテクノといった4つ打ちイベントだけでなく、ヒップホップのライブを入れてみたんです。以前からラッパーの舐達麻(なめだるま)さんのマネージャーと親交があり、カウンドダウンのブッキングをお願いしたところ、快く引き受けてくださりました。

舐達麻
実はそれまでカウンドダウンのブッキングにライブを入れたことがなく、当日はどうなるかまったく想像もできなかったんですが、蓋を開けてみれば大盛況でした。1年の最後の最後にイベントの大成功につながり、苦しい1年だったけど、がんばって耐え凌いでよかったと思えたイベントでした」(乗田氏)
第4位:ファッションブランド「UNDERCOVER」25周年イベント(2014年)
デザイナーの高橋盾が手がける「UNDERCOVER」は、裏原系ファッションの先駆者としてトレンドを牽引し、今や世界的な知名度を得るまでになったファッションブランドだ。
そんなUNDERCOVERの創業25周年を祝うイベントがVISIONで開催されたのは2014年のこと。この日、VISIONには総勢約2400名の来場があったそうだ。

UNDERCOVER創業25周年イベント
「UNDERCOVERの世界観を表現する空間の装飾がすごく印象に残っています。世界に名だたるファッションブランドだからこそ、その思い入れが随所に感じられましたね。また、何と言ってもスペシャルシークレットゲストにThom Yorke(トム・ヨーク/ロックバンド「レディオヘッド」のメンバー)がDJプレイを披露したこと。これはかなりの衝撃で、オーディエンスも大盛り上がりで、来場者にとっては最高の一夜になったと思います。
僕も中学生の頃から聴いていたトム・ヨークが、目の前でDJしているのを見ると、鳥肌が立ちましたね。自分では絶対にブッキングできないので、UNDERCOVERのコネクションの広さには脱帽でした」
2位はテクノの二大巨頭による競演
第3位:VISION6周年アニバーサリーイベント(2017年)
VISIONの6周年を祝うアニバーサリーを2日間にわたって開催したイベントが第3位にランクイン。乗田氏はDAY1のイベント「trackmaker」をピックアップした。
「アーティストのリミックスやサウンドプロデュースなどマルチに活動するtofubeatsと、ヒップホップクルー『KANDYTOWN』のメンバーであるラッパーのYOUNG JUJU(現在は改名してKEIJU)をブッキングしたんです。知っている人からしたら、『この組み合わせはもしかして……?』と伏線を張るような仕掛けをしました。

tofubeats
2017年にtofubeatsがfeat.YOUNG JUJUでシーンを席巻した名曲『LONELY NIGHTS』のライブでの披露を期待するお客様がたくさん来場し、今か今かと待ちわびるような期待感に満ちた空間の醸成を意識しました。

YOUNG JUJU
『LONELY NIGHTS』のイントロが鳴り始めた瞬間の盛り上がりは、狙い通りでしたね。日頃からスタッフとともにイベントの企画やブッキングを考えますが、『アーティストの組み合わせで、イベントでやりたいコトをお客様に想像させる』ことができた成功事例として、今でも印象に残っています」(乗田氏)
第2位:VISIONオープン初年度のカウントダウンイベント(2011年)
先述したようにVISIONの立ち上げ初年度は、渋谷の客層のニーズが掴めず、集客に苦戦を強いられた時期だった。こうした状況を打破するべく、渾身のブッキングで迎えたのがカウンドダウンイベントだったという。

2011-2012カウントダウンイベント
「VISIONの前身となる代官山AIRでもゲストで招いていたデトロイトのレジェンドDJと呼ばれるDerrick May(デリック・メイ)に、デトロイトテクノのパイオニアとして知られるJeff Mills(ジェフ・ミルズ)を加えて、豪華なブッキングを実現させたんです。当時、日本ではどちらかが来日することはありましたが、同時に二人がDJプレイする機会はなかったんですよ。
その日、私はバーカウンターで働いていたんですが、あまりの忙しさにカウントダウンにも気づかずに夜の0時を超えて、いつの間にか新年を迎えていました。ゲストDJのデリック・メイとジェフ・ミルズはそれぞれ、メインフロアの「GAIA」とセカンドフロアの「DEEP SPACE」を交互でDJプレイを披露してもらったんですが、来場客のボルテージは終始上がりっぱなしでした。
このイベントで、ブッキングの重要性をあらためて学びましたし、オープン当初の集客に苦戦していた時期の会心のイベントとして心に残っています」(乗田氏)
駅前まで行列ができたDEV LARGEの追悼イベント
第1位:BUDDHA BRANDのリーダー「DEV LARGE」さん追悼イベント(2015年)
乗田氏が「不動の1位です」と言い切るイベント。日本のヒップホップシーンにおける大御所であり、数々の功績を打ち立ててきたDEV LARGE(デブラージ)の追悼イベントを1位に挙げた。
伝説のヒップホップユニット「BUDDHA BRAND(ブッダ・ブランド)」。のリーダーとして活躍したDEV LARGEが急逝し、業界に激震が走ったのが2015年5月のことだった。
急遽VISIONで開催した追悼イベントでは、DEV LARGEに追悼の意を伝えようとするDJやラッパーが後を絶えず、史上まれに見るほどの長蛇の列が続いたという。
「私は会場の外で入場者をさばく仕事をしていたんですが、VISIONのエントランスから駅前の吉野家くらいまで約800メートルの列が続いていました。DEV LARGEさんをリスペクトする幅広い世代のDJやラッパーが『R.I.P(Rest in peace)』を伝える一心で集結していたのは、今でも鳥肌が立つほどの光景として胸に刻まれています。
印象的だったのは、入場規制でクラブ内に入れないにも関わらず、エントランス料金だけ払っていく人が多かったこと。
いかにDEV LARGEさんが多くの人に影響を与え、愛されてきたかを痛感させられました。イベントのクライマックスでBUDDHA BRANDの代表曲『人間発電所』が流れたときは、会場一体で大合唱が起こって。仕事柄、ライブで感動したりすることはありますが、その空間に集まった人たちや時間の温かさに、何事にも代えがたい気持ちになったのを覚えています」
取材・文/古田島大介
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