ライフワークバランスという言葉があるように、仕事もプライベートも両立させたいと考える人は多いはず。
しかし、自分のキャリアとプライベートを天秤にかけた時に、仕事をセーブするというのは、なかなか勇気のいる決断だ。
インタビューの前編で「子どもたちと過ごす時間を増やしたい」から働き方を変えたと話してくれたNON STYLEの石田明。後編では仕事と休みのバランスについて話を聞いた。
「休みを取ったから昇進できない時代は終わり」NON STYLE石田明が見つけた幸せ
週に2日は休みをもらい、仕事と子育てを両立しているNON STYLE石田明さん。休みたいとは思っても、休むことは容易くない。そのジレンマに答えてもらった。


カメラマンがこっそり隠しておいたけん玉を「お! けん玉がある」と見つけ、やってくれた石田さん
「ただ、休んでいる」にならないために“向き合う度”を上げた
――インタビューの前編でのお話を聞いて、思い切って休むことも大事だと改めて感じましたが、石田さんがよかったなと思うことを教えてください。
精神的にゆとりができたことが1番ですかね。
家族と一緒に過ごせる幸せな時間が確保されているので、幸福度が高いですし、仕事のほうも全部楽しめるようになりました。
――逆に課題に感じていることはあるのでしょうか?
家族に対しても、仕事に対しても、向き合う度を上げていかないとなと思いました。
自分が休んでいることを周囲に知られた上で、僕がネタを書いていない、テレビで活躍できていないとなったら、相方になにか言われるかもしれないですし、仕事も減るなと。これは家庭においても言えることで、家にいる時間は増えてるのに、何もしていなかったら「え? ただ休んでるだけ?」ってなりかねない。
だから、今の働き方をすると決めた時に気を引き締めなおしたんです。
――向き合う度を上げるために、意識されてることはありますか?
なるべく家では仕事をしないようにしています。
コロナ禍なのでオンラインでの仕事が入ることもあるのですが、基本は外でする。どうしても家でやらなきゃいけないことがあるときは、みんなが寝たあとや、いつもより朝1時間だけ早く起きてやると決めています。
僕が子どもたちの前でパソコンを開くのは、子どもたちがパソコンで絵を書きたいと言ったときだけです。
比較することをやめて、得たこと
――仕事をセーブすることや休むことをしたいと思っていても、行動に移せる人は少ない印象です。石田さんは、今のような働き方をすることや、コロナ禍にまとめて休むことに対して、不安はなかったのでしょうか?
そんなに怖いことはなかったですね。
根本的に「何のために働いてんねん」ってことを考えたときに、有名になりたいわけじゃないし、引くほどお金稼ぎたいわけではない。僕はただ、人として豊かでありたい、楽しいことをしていきたいということに気づいたからだと思います。
――例えば、休んでいる間に活躍している人を見て、焦ることはないのでしょうか?
うーん……それはないですね。もともと欲求がないんですよ。
『ラヴィット!』や『おかべろ』に出ていても、「俺より適任はたくさんいるやろ」って思っているくらい(笑)。出させてもらっているだけでありがたいんです。
――昔から周りと比較しないタイプでしたか?
いや、昔は比較してましたね。でも、M-1優勝した後で、精神的にめちゃくちゃしんどくなって心療内科に行くようになったときに心療内科の先生と、僕がめちゃくちゃお世話になっているブラックマヨネーズの吉田さんから同じようなことを言われたことがあって。
それで、自分に対して期待しすぎるのを辞めました。
――なんと言われたのでしょう?
まず吉田さんからは「お前は、おもしろいことを言おうとしすぎてる」って言われました。その時は「何があかんねん! 当たり前やろ!」って思いましたね(笑)。でも、吉田さんが「お前はそのままでおもしろいんだから、感じたことをそのまま言えば、それでおもろいことになる。自分を高く見積もりすぎや」って言ってくれて楽になったんです。
心療内科の先生からは「石田さんは自分に期待しすぎてます。周りと比べて自分はこうあるべきだと思ってませんか? 学生時代、どんな人でしたか?」と聞かれました。それで「真ん中にいるタイプじゃない、どちらかというといじめられているようなタイプでした」って言ったら「そんな人が人前に立って、大きな声でしゃべってる。それだけですごくないですか」って言われたんです。
――なるほど。期待しすぎるのをやめたと聞くとネガティブなことに感じましたが、そうではないんですね。
そう。悪い意味ではなくて、自分の期待を抑えることで、満足を感じるポイントを下げたんです。先生には「期待しない人の方が幸福度や満足度が高い。石田さんにはそういう生き方があってると思いますよ」って言われました。
だから、一気に目標を下げました。
――具体的にどのように下げたのでしょう?
それまで月に何冊小説を読んで、何本映画を見て…と決めていた目標をやめて、「ネタ帳かパソコンを1日1回開くだけでOK」という目標だけを課すようにしました。「1日1ミリでも進んでいたらOK」と。
最初は「インプットが減ると、アウトプットが減るんじゃないか」と怖かったんですけど、そのときはもう精神的に壊れていたからやってみるしかなかったんですよね。
でも、やってみてからは逆だと気づきました。インプットをしすぎていたせいで、アウトプットが詰まってたんだなと。断食した後のおかゆみたいな感覚で、良い方向に進んだんです。
休みを取ったから、チャンスが来ない時代は終わり
――石田さんのような働き方をしたい後輩芸人の方には、なんと答えますか?
実際に相談されたときには「やった方がいいよ」とは伝えていますね。
ただ、僕がこういう働き方をし出したみたいな感じになってるんですけど、もとはといえばブラックマヨネーズの吉田さんが「休みもらわな、俺は無理や」って言ってたんですよ。
――その当時は「吉田さんみたいに休もう」とは思わなかったのでしょうか?
「吉田さんほどおもしろくて、ニーズがあったら言えるんやろうけど、今の俺がそのスタンスでいたら消えるだけやろうな」って思ってました(笑)。
そう思うと、今のような働き方ができるのは、年齢を重ねて、子どもがいるからなのかもしれませんね。
――働き盛りで、「休みたくても休めない」と悩んでいる人には、どう伝えますか?
うーん…難しいですね。昇進がない世界で働いているので、なんとも言われへんなと思うんですけど。正直、育休を取ったことで昇進やチャンスを奪われるような時代は、もうこの先やって来ないんじゃないかとは思っています。
必要とされる人は、必要とされたままなんじゃないかなと。
僕の場合、実際、今の働き方をするようになって、来るもの拒まずの姿勢から、やりたい仕事を選ぶように変わりました。その結果、自分にとって良い仕事、楽しい仕事が舞い込んでくることが増えたんです。
――そういうものですか。
逆に、何も考えずに「今の時代、育休を取るのが普通でしょ」というスタンスの人ほど、案外、育児に参加せえへんと思うし、仕事も半端になっちゃう気がします。なんで休みを取るのか、自分なりに考えて取った方が良いですね。
でも、そうは言ってもわからない人もいると思うんです。子育てって未知なことばかりだし、経験せずにいきなり現場に行ったら、焦ってしまうのは当然。だから、プレ育休のようなものを取ったり、日頃から参加したりすることは大切ですよ!

取材・文/於ありさ
撮影/杉山慶伍
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