一通のメールから始まった映画出演

彼女の名は中谷茜理(あかり)さん、29歳。出演した映画は今年6月10日にベトナム国内で封切られた「Em và Trịnh」(私とチン・コン・ソン)という。ベトナムの国民的シンガーソング・ライターであるチン・コン・ソンの半生を描いたドラマだ。6月の公開から10日間で観客動員数は100万人を超え、興行収入も1000億ドン(約6億円)超えは間違いないと言われている。ベトナムではヒット作だ。彼女はこの作品が映画初出演であり、準主役級で抜擢されている。

中谷さん、出演作のポスターの前で(ご本人からの写真提供)
中谷さん、出演作のポスターの前で(ご本人からの写真提供)

もともと彼女はベトナム・ホーチミン市からベトナム語で発信しているYouTuberで、彼女のチャンネル「aNcari room」は登録者数17万人を誇る。日本人ながら流暢なベトナム語を操る彼女の存在は地元メディアでは何度か紹介されたことがあるが、言葉の関係もあって日本ではまだあまり知られていない。

ベトナム現地製作の映画に出演した日本人女性は、おそらく彼女が初めてだろう。なぜYouTuberの彼女が映画に出演することになったのか。きっかけは、一通の「不審な」メールからだったという。

「2019年末に一時帰国して大阪の実家にいたときに知らない人から英語のメールが来たんです。映画を撮影するので、その出演者を決めるオーディションに参加しませんかというお誘いのメールでした。でもその英語がカタコトで、内容がよくわかりませんでした。最初はミュージックビデオのようなものかと思っていたんです」

あまりに唐突な話に、実家の父親は「だまされているんちゃうか」と心配した。出演させてやるから金を払えといった詐欺だと勘違いしたのだ。