――物語を動かすキーパーソン・龍二役を演じることが決まったとき、率直にどう思いましたか?
キーパーソンだということや物語の先の展開についてはあまり深く考えずに、そのとき、そのときの龍二でいればいいという気持ちで臨もうと思いました。
僕は『梨泰院クラス』も観ていたんですけど、龍二は抑え込まれて育ったから内気な性格ですけど、強い信念を持っていて、自分の人生を生きるために長屋を飛び出す前向きさもあって。でも、好きな人や信頼している人の言葉を前に揺れてしまう、その部分もちゃんと表現したいので、全部を決めずに、その場で生まれるものを大切にして演じています。

『六本木クラス』のキーパーソン役に挑む鈴鹿央士。悩みながら進化する役者の今
韓国発の世界的ヒットドラマ『梨泰院クラス』の日本リメイク版『六本木クラス』が、7月7日からテレビ朝日系で放送される。飲食業界で戦う青年たちを描くこのドラマで、宿敵の長屋ホールディングス会長・長屋茂(香川照之)の次男・龍二を演じるのが鈴鹿央士だ。デビュー作『蜜蜂と遠雷』以来、硬軟さまざまな役を演じ分け経験を重ねる鈴鹿は、この話題作の難しい役どころにどう挑んでいるのだろうか。
デビュー5年目、今、役作りが難しくなってきた

僕なりの龍二を皆さんに見てほしいですね
――揺るがない部分は準備をしつつ、その場で受け取ったものに反応する余地を残して、撮影に臨む中で役を理解していくのでしょうか。
そうですね。ただ最近、役作りっていうのがよくわからなくなってきているんです。台本はしっかり読むんですけど、人間と人間が対話していたら予想外のことが起こるし。どう感情を出してどう受け取るかとかもその人の個性で、だからこそ現場を大切にしようと思っていて。そのあたりも最近、難しいなって思い始めました。
――「わからなくなってきた」ということは、役者を始めた頃はそういう悩みはなかったんですか?
最初の作品(映画『蜜蜂と遠雷』)では、向き合うものとしてピアノがあったんです。自分が人として伝える今のお芝居だと間を介すものが何もないけど、『蜜蜂』のときは、ピアノを通して相手に伝えることができたので、恥ずかしさがあまりなかったんです。
人の前で弾くシーンでも、自分を見ているわけじゃなくてピアノを聞きに来ていると思えたから、よかったというか(笑)。少しずつ、人の前で演じる恥ずかしさというか見られている意識とか、いろんな考えが出てくるようになりました。

少しずつ演じる恥ずかしさが……
――ひとりの生身の人間として演じる上での悩みや葛藤が出てきたんですね。
邪念が出てきました(笑)。いざ人と一対一で向き合ったら、あぁ、相手はこういう感じで僕を見てくれるんだって分かって物怖じしてしまうとか、そういう感覚です。『蜜蜂』のときも一対一の演技はありましたけど、当時は、何もわからなかったっていうこともあって(笑)。
そこから3年と少し経って、いろんな人と出会って、いろんな考え方がワーッて入ってきて……慣れ始めてしまったのかなと思うところもあり、それはちょっと怖いです。日々、悩んでますね(笑)。
龍二の強さと弱さを表現するバランスが難しい
――龍二という役に向き合う上では具体的に、どういう表現で難しさを感じますか?
ずっと難しいです。お父さん役の香川(照之)さんと対峙するシーンはやっぱり緊張しますし、お父さんに対して信念の強さをどこまで出すのかとか、全員に対しても、楽しい感情をどこまで「楽しい」って出していいのかとか、バランスが難しいですね。龍二は、思ったことを勢いで言えない性格ではあるけど、考え方や人への向き合い方は真っ直ぐな人だから、その強さと弱さを表現するのが課題です。

© tv asahi
――龍二のような二面性を持つ役だからこそ、鈴鹿さんの役者としての課題も相まってなおさら難しいと感じますか?
そうですね……だから、僕の悩みが龍二に影響しないように気をつけてます(笑)。
――本当ですか! モヤモヤした気持ちも、龍二の葛藤を表現する上でいい方向に作用することはありませんか?
う~ん、どうですかね……僕の方が揺れすぎてるかもしれないです。
――龍二以上に揺れてるわけですか!
はい。いつも「どうする? どうする?」ってなってます(笑)。
――反対に、龍二を演じる上での面白さや、やりがいに感じるのはどんな部分ですか?
みやべでみんなと働いているシーンや、ワチャワチャしたシーンは楽しいです。葵のことが好きな気持ちや、社長(宮部新)への信頼を感じているときもそうですね。竹内(涼真)さんはすごくどっしり構えてくれているし、てっちゃん(平手)も、葵として愛があるので、お芝居を「どうしよう?」って迷っているときも、ふたりとのシーンではプラスな気持ちになれます。そういう楽しさは、やりがいにもつながってますね。
『六本木クラス』は個性的なスパイスが詰まった最高のカレー
――龍二としてこの作品で自分が果たすべき役割を考えたり、プレッシャーを感じたりすることはありますか?
それはあまり考えないですね。お芝居を始めた頃、チームとしてひとつの作品を良いものにしようというお話の中で、「作品はカレーだ」と教えていただいたことがあるんです。キャストやスタッフは個性を持ったスパイスで、カレーのように素材やスパイスを入れて、みんなで美味しいものを作るんだって。
ひとつひとつが主張しすぎずみんなが合わさることでいい作品ができるんだと、役者を始めてすぐの頃に聞いてから、ずっとそういう思いでやってます。あくまでも僕は作品のひとつのピースとして、みんなと一緒に作っていきたいっていう気持ちですね。

カレーでいうと、僕は……何だろう(笑)
――龍二という役を演じる中で感じる『六本木クラス』の面白さや、役の見どころを教えてください。
龍二がどうなっていくのかは、やっぱり見ていただきたいです。作品としては、ひとりひとりのキャラクター性が本当に強くて、それが合わさってすごくいいドラマができているので……本当に、カレーですね(笑)。1話1話を切り取っても、全話を通じても面白い作品です。
――めちゃくちゃいいスパイスを使った超うまいカレーが、毎話、楽しめるって感じですね。
超うまいカレーです(笑)。いろんな魅力やキャラクター性がギュッと詰まった、ワンシーンも見逃せない作品だと思いますね。
取材・文/川辺美希 撮影/川島小鳥
木曜ドラマ『六本木クラス』
7月7日スタート 毎週木曜よる9時からテレビ朝日系にて放送
HP:https://www.tv-asahi.co.jp/roppongi_class/
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