
末期がんになってから性欲と食欲ゼロ。余命半年宣告の叶井俊太郎「最後だから死ぬ前に会いたいんだって言えば、たぶん何でもできるよ」
末期がんで余命半年を宣告された名物映画宣伝プロデューサー・叶井俊太郎氏。残された少ない時間を治療に充てるのではなく、仕事に捧げることに決めた叶井氏に現在の心境を聞いた。(前後編の前編)
叶井俊太郎という男#1
「自分にできることは何でもするよ」って、だったら「100万円くれ!」
――末期がんを告知されてからたくさんインタビューを受けておられますが、やはりマジメな内容のものが多いですか?
マジメな記事にもなってないよね。そもそも末期がんの俺をインタビューすることが間違ってんだって。働かせるなよ。

映画『アメリ』の買い付けなどで知られる叶井俊太郎氏
――いやいや、最後にしっかり稼いでおかないと。
まあ、対談本(『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』)も出しちゃうからね。本のリリースと同時に病気の公表をしたんだけど、くらたま(叶井の妻で漫画家の倉田真由美)がコメント出したら、Yahoo!トップになったんだよ。

漫画家・倉田真由美氏
そしたら小中高の同級生とか、昔、一緒に遊んでいた女とかがSNSで俺を探して、40~50人くらいから連絡がきたわけ(笑)。
――覚えてないぐらいの相手ですか?
ひとりも覚えてない。でも一応こっちも「ご無沙汰です」とか言っちゃって。いま56歳だから、小学校のときの友達なんて、45年前とかのレベルじゃないですか。「6年1組でしたよね」とか言われても、わかんないよ。
だいたい「覚えてる?」とか「体調大丈夫ですか?」とかそういう内容なんだけど、こっちは末期がんを告知してるんだから、大丈夫なわけないんだよ。みんな「自分にできることは何でもするよ」って締めくくってるんだけど、だったら「100万円くれ!」って言ったらくれんのかよってね。
まあ、そういう人たちから、40年ぶりぐらいに連絡がきたのは面白かった。とにかく、Yahoo!トップってすごいんだなと思いました。
――ちなみに、突然「実はあなたの息子です」みたいな人があらわれたりはしなかったですか?
「死ぬまでに会いたいです!」とかね。あったら面白かったけど、さすがになかったよ(笑)。あとはがんに効くオリーブオイルがあるから送りますねとか、ここの病院に行ったほうがいいとか、自分はヒーリングをやってるから手を当てさせてくださいとか、そういうのもたくさんきた。
残された時間に選んだのは「仕事」
――それも、覚えてないんですね(笑)。末期がんが発覚してから、一般的ながん治療はしなかったそうですね。
うん。抗がん剤は成功率10%って言われたんですよ。そりゃ、やんないでしょ。残りの80~90%が再発か転移で、半年間入院して悪化してダメでしたって言われたら、水の泡じゃないですか。逆に成功率が80~90%ならやったかもしれないけど、10%じゃそのリスクは背負えないってことでやめました。ただ、厚労省が認めてない免疫手術ってのもいっぱいあって、それはやりました。血を入れ替えるんだけど。
――効果は感じましたか?
いや、ないよね。ただ、去年の6月に余命半年と宣言されて、それからすぐに血を入れ替えたから、その効果でまだ生きられてるのかもしれない。それはわからないよね。しかも、その手術は一括払いで数百万円もするんだよ。くらたまが出してくれたけど、くらたまには感謝しかないね。

――末期がんの発覚後、叶井さんは残された時間の使い道に「仕事」を選びました。
周りは仕事をやめて、好きなことやったほうがいいよっていう人がほとんどだったけど、旅行に行っても、仕事が気になってうかうか観光とかできないんだよ。だったらこのまま仕事をやっていたほうが楽しいから、そっちを継続することにしました。
やっぱり末期がんっていうのはパワーワードで、仕事がうまくいくんですよね。いままでだったら「こんな映画、上映できねえよ」って言われるような作品を買い付けてきても、「俺、末期がんで生きてるかわかんないだよ」って言うと「やるよ」と言ってくれる(笑)。
今日の取材だって、それできてくれたわけじゃん。だから、使いまくってるよ。仮に相手が女の子だったとしても「最後だから死ぬ前に会いたいんだ」って言えば、たぶん何でもできるでしょ。でも俺、末期がんになってから性欲ゼロなんだよな。
――あくまでも「仮に…」の話ですね。
まあ、昔キャバクラで遊んでた何人かの子には言ってみたよ(笑)。
「最後に民宿に泊まって、温泉入ったりご飯食べたりしたい」って言ったら、みんな「いいよ」って。民宿行ってくれることは夜もOKってことでしょ。「できるんだ!」と思った。もちろん、そんな気力ないんだけどさ。
1か月の入院で30kg痩せた
――書籍の対談では、看護師さんにちょっかい出してみたエピソードも話していましたよね。
かわいい子が何人かいて、「ちょっと触ってくんない?」とか言ってみたけど「そんな末期がん患者いません!」って言われてね。シャレが全然通じなくて、ダメだね。

――体がついていかないだけで、気持ちはあるんですか?
気持ちもまったくない。そこはやっぱりがんになってから変わったことのひとつじゃないかな。性欲と食欲がまったくないんだよ。今年の春先ぐらいからがんが大きくなって内臓を圧迫してるから、食事をとると吐いちゃうの。
だから、胃を半分切って食道と小腸を直結する手術をしたんだけど、1か月くらいの入院で30kgくらい痩せてそのまま体重が戻らなくて……って、ぜんぜん本の話してねえじゃん。
――いや、ここからですよ。まずは先に一番重要なことを聞きたかったので。改めて、この『エンドロール!』を出した経緯を聞かせてくれますか。
最初は自分がこれまで仕事をしてきて、いろんな人に迷惑かけてるんじゃねえかっていう思いがあったので、死ぬ前に謝りに行こうっていう企画だったんです。でも、いろいろ話してるうちに懐かしくなってきてね。だから、面白かったよ。
サルの脳みそを飲んでがんを治そうとしたすごい人
――対談のオファーは自分でやったんですか?
人選も含めて、すべて自分でやりました。基本的に昔からの付き合いがあって、一般の人にわかるような、著名な人をメインに選んでいったらこの15人だった。やっぱり、末期がんはパワーワードなので、みんな快く受けてくれましたね(笑)。
ジブリの鈴木(敏夫)さんは、「やんないとバチ当たるからやるよ」って、しぶしぶ受けてくれた感じだったけど。でも、あの対談めちゃくちゃ面白かったよね。徳間書店の初代社長が、がんの治療の一環でサルの脳みそ飲んでた話とか、本当に(ハンニバル・)レクター博士みたいだよね。こんなこと、みんな知らないでしょ。

映画プロデューサー・鈴木敏夫氏(左)と叶井氏(右) 写真/二瓶綾
――衝撃的でした(笑)
あとは、中原昌也の病気はみんな知ってても、どんな状況かまではわからないでしょ?
宇川(直宏)くんと鼎談したんだけど、中原くんは病室からZoomで参加したのね。文字校正してもらおうとゲラをメールしたら、付き添いの人から「両目が見えなくなってきてて、読み聞かせるので少し時間をください」って返事がきたんだよ。失明はしないと思うんだけど、見える日と見えない日があるみたい。
俺も末期がんでいつ死ぬかわかんないけど、中原くんもきつい状況だと思うよ。糖尿病のすごい悪化したやつで、1年ぐらい入院してんだもん。俺、1か月でも入院厳しかったから。この鼎談で、いろいろと現状をわかってよかったところもあったな。
――Kダブシャインさんとの昔話も面白かったですね。
そうそう。中学のときからだから長いよね。Kダブと知らずに付き合ってて、社会人なってから「お前がKダブシャインか」って知ったくらい。

ラッパー・Kダブシャイン氏(左)と叶井氏(右) 写真/二瓶綾
やっぱりみんなと話していて、俺も忘れてることがほとんどだし、相手も忘れてることもあって。そういう意味では昔話の埋め合わせができて、楽しかったな。
#2へつづく
取材・文/森野広明 撮影/井上たろう
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