今、テレビドラマは好感度から熱狂度へ

“ファンベース”という言葉をご存じだろうか。“ファンベース”とは、文字通りブランドを愛するファンを増やし、ファンを基盤に経営やマーケティングを行う手法のこと。今やビジネスのみならず、エンタメの世界でもこの“ファンベース”という考え方が根付きはじめている。

その最たるは、演劇やアイドル、ミュージシャンといったジャンルだろう。いずれも“現場”を主体としたビジネスモデルだ。1枚5000円なり1万円なりのチケットを買い、劇場やライブ会場に足を運び、グッズなどの物販で売り上げを積む。こうした課金型のビジネスモデルの場合、重視されるのはどれだけお金を使ってくれるファンがいるか。極端な話、100万人のフォロワーがいるものの実際に課金してくれるコア層は100人だけという人よりも、フォロワーは1万人しかいなくてもそのうちの1000人は必ずお金を落としてくれるという人の方が強い。だからこそ、熱烈なファンを増やし、継続的に応援してもらうために、手厚いサービスを提供するのだ。

長らくその対極の位置にいたのがテレビだ。対象となる分母が桁違いに多いテレビでは、少数精鋭のファンを獲得するよりも、いかに嫌われないかが重要。「熱狂度」よりも「好感度」が物を言う世界だった。

しかし、テレビ離れが進む昨今、テレビもそのあり方を変えざるを得なくなりつつある。視聴率という単一の指標だけでなく、TwitterトレンドやTVerの再生回数、Blu-ray&DVDの売り上げなど、多様な視点からコンテンツの価値が測られるようになった。それには、ネット上で活発に活動し、時には惜しまず身銭を切るコアファンの後押しが不可欠。だからこそ、テレビドラマでも“ファンベース”が重視されるようになったのだ。

ドラマ『最愛』がオフィシャルツアーを開催! テレビドラマは好感度から熱狂度を求められる時代へ_a

そんな“ファンベース”シフトを決定づけるようなニュースが先日発表された。それが、2021年10月期に放送されたテレビドラマ『最愛』のオフィシャルツアー開催だ。

内容は、ドラマの舞台となった富山・岐阜(白川郷)のロケ地を巡る2日間のバスツアー。いわゆる“聖地巡礼”である。“聖地巡礼”自体は熱心なファンたちにとってはおなじみだが、テレビドラマが公式で開催するのは異例のこと。主演の吉高由里子が発表時に「ねぇ! やりすぎ!!笑笑 ちょっと?笑 もしもし?笑 終わってからもうワンクールは経ってるよ?」(一部抜粋)と茶目っ気たっぷりにつぶやいたが、このコメントこそが企画の画期性を物語っている。

ドラマ『最愛』がオフィシャルツアーを開催! テレビドラマは好感度から熱狂度を求められる時代へ_b
©TBSスパークル/TBS

そもそも『最愛』自体が非凡なドラマだった。平均視聴率は8.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と平凡だが、その熱狂度は同クールでも別格。放送中は毎週SNSを賑わせ、TVerの視聴回数は2280万回を記録、同サービス歴代1位という金字塔を打ち立てた。放送前後に盛んにTwitter上で発信し、TVerをガンガンまわす能動的なコアファンの存在がオフィシャルバスツアーという異例の企画につながったのだ。