芸人・TAIGA、禁断の織田裕二モノマネに手を出してアルタがシーン、所属事務所が経営破綻…ブレイク目前で味わった2打数0安打
ぺこぱ、モグライダーなど数多くの芸人から“兄貴分”と慕われるTAIGAさん。若き日のオードリーとともにショーパブで働きながら自分の芸を磨く日々。そしてようやくおとずれたブレイクの兆しだったが…TAIGA のリアルが詰まったドキュメンタリーエッセイ『お前、誰だよ! - TAIGA晩成 史上初!売れてない芸人自伝』(ワニブックス)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『お前、誰だよ! - TAIGA晩成 史上初!売れてない芸人自伝』#3
売れていく仲間と、くすぶる自分
ショーパブで切磋琢磨していた若手たちは着実に売れていった。ビューティーこくぶ、ダブルネーム、ミラクルひかるといったメンバーは、フジテレビのモノマネ特番のレギュラーになっていた。年に3回の特番かもしれないが、テレビの影響力は現在の比ではない。
テレビで露出するたび、営業は増えていく。仲が良かったヤツらがテレビで活躍する姿は頼もしかったが、ライバルたちはバイトをしなくていいほど稼ぐようになっていた。
一方、俺とオードリーのふたりは相変わらずパッとしなかった。深夜番組には呼ばれても、売れるにはほど遠い状況だ。のちに聞いたのだが、若林は売れないことが苦しくて、この世界を辞めようと思っていたらしい。
若林はオールナイトニッポンでこんな話をしている。
「売れたあとに高級料理をご馳走になるより、あの食えなかった時代に奢ってくれた牛丼のほうが記憶に残っている」
「20代後半なんてまだまだこれからだ」と売れてないのにポジティブなことばかりいう俺が、すこしは彼の励みになっていたのだろうか。

あの頃は、来る日も来る日もネタ作りに励んでいた。
見た目がホストっぽいからホスト風コント。見た目が昭和のバブルっぽいからバブルテレフォンショッピング。歌舞伎町のキャッチの兄ちゃん風コント……などなど自分に合ったキャラ設定のネタを考えていたが、ある時気がついてしまった。
「これって俺じゃなくてもいいんじゃないか」
自分でなければ面白くできないネタはないだろうか。そんな時に、ハッと思いついた。そう、躰道だ。俺しかできないし、俺じゃないと面白くならない。何より、他にやってる人がいない。躰道の型をやりながら、しょうもない日常のあるあるを言ったらどうだろう。
さっそく、ライブなどでこのネタをかけると、芸人仲間が「面白いね!」と声をかけてくれた。多くの芸人を育ててきたブッチャーブラザーズのぶっちゃあさんが「オモロいなぁ!」と言ってくれたのがうれしかった。
ゴールデンタイムのネタ番組に初出演、ブレイク間近の矢先に…
躰道の新ネタは評判が良かった。ショートネタブームを作り出した伝説の番組『爆笑レッドカーペット』のオーディションにも受かり、本番でも爆笑をとり、MVPともいえる「カムバックレッドカーペット」にも呼んでもらえた。
やっと、ゴールデンタイムのネタ番組に出られた。そして思ったように笑いも取れた。オンエア後は、知人から電話やメールが殺到し、芸人からも「これで売れちゃうんじゃない?」なんて声もかけられた。調子に乗った俺は、この年2008年に初の単独ライブを開催する。200人のキャパで最初は8枚しか売れなかったが、最後は友人たちの協力もあり満席となる。
ライブは地元の友人や先輩がたくさん来てくれた。やんちゃをしていた仲間も多かったので、ライブの会場前にベンツやセンチュリーなどの高級車が停まっていた様子は、今でも芸人の間で伝説になっているらしい。

俺の活動にまったく理解を示さなかった父親も単独ライブに招待した。
「この前、ゴールデンのネタ番組出たんだよ」
「見たぞ」
芸人をやっていることを応援してるんだか、反対してるんだかわからない反応だったが、ぶっきらぼうな父親らしいとも思った。
そこから何度かレッドカーペットに出演でき、ブレイク間近かと思われた矢先、なんと所属していた事務所が経営破綻で潰れてしまった。社長と社名を変えて新事務所を立ち上げることになったが、小さい事務所への不安もあった。
そんな時、オスカープロモーションがお笑い部門を立ち上げると知った。オスカーといえば、上戸彩さん、菊川怜さんなどが所属する超大手。俺のことを売ってくれるに違いないとすぐに移籍を決意した。
織田裕二モノマネで〝人違い〟?
数年前に『細かすぎて伝わらないモノマネ』で結果を残してからは、ライブやショーパブでは安定して笑いをとれるようになっていた。芸人はテッパンネタがあるとやはり強い。ひとりの営業も30分くらいなら余裕で盛り上げられるようになっていたし、ちょっとした深夜番組のオーディションにも受かるようになっていた。
フジテレビの『笑っていいとも!』のミニコーナーに受かったと、連絡が来たのもその頃だ。昔から見ていた『笑っていいとも!』に出られる。今後の履歴書に間違いなく書き込まれる1日になるはずだった。当時、流行っていた『踊る大捜査線』の青島刑事のモノマネでの出演だった。
時を同じくして山本高広さんという芸人が織田裕二さんのモノマネでブレイクしかけていたので、そのネタは一般的に広く知られていた。織田さんのモノマネは山本さんが有名にしたと言ってもいいだろう。そんな織田裕二さんのモノマネを、俺は国民的番組で披露することになる。

アルタのスタジオ裏で待機する芸人たち。オープニングからアルタは大いに盛り上がっていた。俺のモノマネが電波に乗ったらまた大きな反響があるだろう。若手芸人がネタをやるミニコーナーの時間が待ち遠しいような怖いような。
司会のSMAP中居さんが説明をしてコーナーが始まる。芸人がネタを披露するたびアルタが沸く。さぁ俺の出番だ。
「続いては、踊る大捜査線の織田裕二さんです!」
スタジオが「ワー!」と沸いたのがわかった。今ならわかる。そう、アルタのお客さんも出演者も、織田裕二さんの「キターーー!」で話題の山本高広さんを期待しているのだ。だが、踊る大捜査線の青島刑事の格好で袖から飛び出してきたのは、見たことも聞いたこともないTAIGAという芸人だ。スタジオ中がポカーンとしている。
「え?え?」
「誰この人?」
「あのキターーー!の人じゃないの?」
客の心の声が聞こえるようだ。
だが、ネタをやり切るしかない。出鼻をくじかれた俺は、そのままネタを始めるが、さっきまでの盛り上がりが嘘のようにアルタが静まり返っている。ヤバイ。冷や汗が背中を流れ落ちたのがわかった。ネタが終わると、すかさずタモリさんが「最近出てるあの子じゃないんだね~」なんてフォローを入れてくれたが、出演者一同が苦笑い。
初めての『笑っていいとも!』はホロ苦い経験となった。ちなみに、その数年後にも再び呼んでもらったのだが、その時も思い切りスベり、新宿アルタでの成績は2打数0安打。打席に立てただけで喜ぶには芸歴を重ねすぎていた。俺はもう32歳になっていた。
文/TAIGA サムネイル画像/吉場正和
『お前、誰だよ! - TAIGA晩成 史上初!売れてない芸人自伝』(ワニブックス)
TAIGA

2023/7/25
1,650円
224ページ
978-4847073366
中堅ピン芸人・TAIGA、47歳。
R-1決勝進出、オードリーの番組出演、アメトーーク!出演……チャンスはいくつかあったはずだが、ブレイクには至らず、仕事の空き時間にはウーバーイーツの配達がまだまだやめられない。
そんなTAIGAが“売れていない”にもかかわらず書き始め、ワニブックスニュースクランチで足掛け2年間連載していた自伝がついに書籍化! 若き日のオードリー、ぺこぱ、カズレーザーたちとの下積みエピソードには共感と感涙必至だ。
書籍化ではオードリー・若林正恭&春日俊彰とのスペシャル鼎談がついに実現! 若き日のなんでもない思い出を笑顔で語り合いながら、TAIGAの魅力を掘り下げる。
さらには、カズレーザー、納言・薄幸、バイク川崎バイク、ヒコロヒー、ぺこぱ、モグライダーといった人気芸人がTAIGAのために書いた手紙も特別収録! TAIGAの魅力が、さまざまな角度から立体的に!
多くの人気芸人からの信頼を得るTAIGAのリアルが詰まったドキュメンタリーエッセイ完成!
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