『竜そば』への参加、紅白出場――チャレンジを止めないシンガーソングライター・中村佳穂が語る音楽家としての未来(前編)_1

中村佳穂、激動の2021年を振り返る

歌の現場で、彼女はいつも自由を手に入れる。
フェスで、イベントで、ワンマンで。それぞれ環境や客層も異なるわけだが、いつしか自分のペースに引き寄せ、やがて歌が媒介する形で最大限の解放を生む。そのベースには、細部まで丁寧に作り込まれた作品があり、ライブでの演奏も兼ねるレコーディングメンバーとの強い絆がある。
2022年3月、待望のアルバム『NIA』をリリースした音楽家・中村佳穂。2018年のベスト・ポップアルバムと言える『AINOU』から3年半を経たわけだが、昨年は劇場アニメ『竜とそばかすの姫』(以下、『竜そば』)の主人公=すずとして声優と劇中歌を担当し、メインテーマを「millennium parade × Belle(中村佳穂)」名義で歌唱。
大晦日には同名義で『NHK紅白歌合戦』に出場するなど、その名をよりマスへと広げた一年となった。まずは、激動という言葉がふさわしい日々となった2021年を、『竜そば』への参加から振り返ってもらった。

中村 音楽活動を始めて10年ほど経ちますが、その長い中でも濃密な1年間でした。『竜とそばかすの姫』の細田(守)監督から“佳穂ちゃんに決まりました”とオーディションの最終通知をオンライン通話でいただいた時は、身体中に“ここから私はまた新しくいろんな可能性を見出していけるのだ”と、稲妻のように人生のイメージが頭の中で駆け巡っていったのを覚えています。
実際、音楽だけではなく、俳優の方々、ファッション、アニメーション、CG作家、更に幅広いジャンルレスな方たちとコミュニケーションを取れるようになったことで、視野が広がって、その分より落ち着いて自分の人生を見られるようになった気がしています。

『竜そば』への参加、紅白出場――チャレンジを止めないシンガーソングライター・中村佳穂が語る音楽家としての未来(前編)_2
2018年にリリースされたアルバム『AINOU』

声優活動から得たもの

『竜そば』は、細田守監督作品の中でも最大ヒットを記録。リアルとネット社会を巧みに対比させながら、双方のコミュニケーションの齟齬や可能性を、「歌」を起点に描いた意欲的な作品において、中村佳穂の声が果たした役割は非常に大きいものだった。彼女にとっても、「すず=Belle」という人格と向き合い、その中で歌うことは刺激になったという。

中村 すず、という人は“内向的である”という自分が作ったイメージから抜け出すのにあと一歩、力やきっかけが足りないという人。対してBelleという人は仮想現実で「絶世のいい女」という設定。対照的でありながらも、肉体を操作しているプレイヤーは同じ。唯一の違いは“環境”かなと思ったので、アフレコの最中は、すずの時はスニーカーにミニスカート、なるべく呼吸は浅く。Belleの時はパンプスを履いて、呼吸はなるべく深くしっかりと話すことを意識していました。
音楽活動においても“本番までにどんな自分でいたいのか、それまでにどのような環境を整えればいいのか”ということにさらに意識するようになりました。