「自分、2000年生まれです」
「お、“ノストラダムスの大予言の世代”だね」
「ノストラダムス?」
「え、じゃあUMAとかも知らない?」
「なんすかそれ?」
かつて一斉を風靡したオカルトブームネタが通じない世代が増えてきている。
オカルトブームといえば、「ネッシー」や「ツチノコ」といったUMA(未確認生物)だという人も少なくないだろう。昭和の頃はUMAを扱うテレビ番組がいくつも放送され、少年少女たちは怪しげなUMAに夢中になったものだ。
「UMAは“謎の未確認動物”を意味する英語『Unidentified Mysterious Animal』の頭文字をとったもので、動物研究家であり作家の實吉達郎先生が1990年代に命名しました。それ以前の日本では単に妖怪や怪獣と呼ばれていたような記憶がありますね。ブームは1970年代が最盛期だったと思います。
しかし、実はUMAはブームになる前から歴史に登場していて、それが興味深いのです。有名なイギリスのネス湖のネッシー伝説は1900年代の前半にはすでにありましたし、類人猿UMA・ビッグフットは1950年代に登場しています。UMAの目撃談は長い歴史と共にあり、ここにUMAファンはリアリティとロマンを感じているのです」(オカルト研究家の山口敏太郎さん、以下同)
UMAブームはなぜ復活しないのか。ネッシー、ツチノコ、ビッグフット…Z世代が“未確認生物”を知らない理由と令和のUMA事情
Jホラーブームや純喫茶ブームなど、昭和・平成時代の流行に再び熱視線が集まっている。そんななか、かつてお茶の間を夢中にさせた未確認生物“UMA”たちはどうなっているのか。稀代のオカルト研究家・山口敏太郎さんに令和時代のUMAカルチャーについて聞いた。
ブームの断絶で認知のエアポケットができてしまった
悲しきUMA業界

“1999年に地球が滅びる”というノストラダムスの大予言がかつて大ブームだった
そんなUMAだが、Z世代のなかにはその存在すら知らない人も増えてきた印象がある。敏太郎さんとしてもこうした実感はあるのだろうか。
「若い人にUMAファンってほとんどいないですからね(笑)。今年4月に『おはスタ』(テレビ東京の朝の子ども向け番組)で、小学生たちにUMAをいくつか紹介したのですが、みんなポカンとしていました。でもなかには、『敏太郎先生の本で初めてUMAを知りました!』という男の子もいたので、それは嬉しかったです」
UMA認知の分断には致し方ない部分もあるという。
「1970年代の第一次、続く1990年代の第二次オカルトブームが終わった2000年代は、UMAを含むオカルトコンテンツが減少してしまったのです。この時代に幼少期を過ごした今のZ世代はエアポケット的にUMAネタが伝わりづらかったのでしょう。もちろんネットを通して知っている人も一部いるでしょうが、興味がなければたどり着きづらいジャンルですからね」
こうした断絶が、敏太郎さんが出会った令和世代の小学生にまで続いているというのは寂しいものがある……。
「そうですねぇ。でも、手前味噌な話で申し訳ないですが、僕は2000年代から本格的に子ども向けのUMA本などを出すようになりまして、2010年代あたりから徐々に本が売れ始め、児童書業界全体でもオカルト系の本が増えてきた感があります。こうして僕らのようなUMA世代がコンテンツを発信する立場になり、それに触れてUMAファンになった世代が20代になると、また違った様相になってくるはずです」
ヒバゴンにツチノコ!
学術的視点でロマンを追い求めるUMAファン
ここからは過去を振り返り、1970年代のUMAブームの熱狂について敏太郎さんに伺った。
「1960年代の後半から『ゴジラ』シリーズや『ウルトラQ』、『ウルトラマン』シリーズといった特撮作品が社会現象になったことで、怪獣的な存在に関心が集まり、オカルトブームの一ジャンルとして取り上げられるようになったことが大きいでしょう。
僕は1966年生まれなのですが、小学6年生だった1977年にニュージーランド沖で、ニューネッシーと呼ばれる、首長竜の死体と思しきものが漁船の網にかかった有名な写真が新聞に載ったときは、大変興奮したのを覚えていますね」

そのほかに、当時熱狂を巻き起こしたUMAにはどのようなものがいたのだろうか。
「1970年代の日本で人気があったのは、広島県の比婆山連峰で目撃されたとして大ブームになった類人猿・ヒバゴンですね。ビッグフット的な存在がリアルタイムで日本に現れた衝撃はすごかったです。
あとは超有名どころで言うとツチノコですね。胴体が膨らんだ蛇のような生き物で、遡ると縄文時代の土器にツチノコを思わせる意匠が描かれているなど、古くから伝説のあるUMAです。1970年代当時、数多くのメディアで取り上げられ、捕獲したら懸賞金を出すという人まで現れました」
なぜ人はここまでUMAに魅せられるのか、その見解も興味深い。
「UMAが他のオカルトジャンルとは一線を画す玄人向けジャンルだからでしょう。かつては怪獣や妖怪と一緒くたにされていたUMAですが、1950年代の中盤から“発見したら学術図鑑に載るような存在”として認知され、妖怪や怪獣とは違うリアルな生物としての棲み分けが顕著になってきました。ファンにとってUMAは、“学術的・科学的な視点で選別していく存在”なのです。例えば、有名なUMAに南米で目撃談が相次いでいる、身長約1mの背中に棘の生えた吸血獣のチュパカブラがいますが、あいつはUMAファンの間では『もはや妖怪だろ』と小物扱いされています(笑)」

日本で目撃されたという類人猿・ヒバゴンは、本当に実在するのか…※(写真はイメージ)
てっきりロマンを追い求めるのが“UMA道”だと思っていたが、学術的な視点が重要だったとは……。
「学術的な視点と共にロマンを追い求めているのです。“ネッシーはネス湖にはいない説”などがいい例です。ネッシーの正体と目されている首長竜は、遺伝子の劣化を防ぐ形で種を存続させるはずなので、1エリアに200頭はいなければならない。そうなるとネス湖の広さではその種の生存は難しいとなる。そのため、ネス湖以外の場所が本来の生息地域ではないのか?と夢を見るわけです」
令和版“ツチノコ”が出現!?
人々を惹きつけるUMAの妖しい魅力
まるで考古学者のようなUMAファンたちだが、彼らを魅了する“令和時代のUMA”はいないのか。
「どんどん増えていますよ。例えば、近年アメリカのウィスコンシン州で見つかったUMAにループスネークがいます。これは、まるでウロボロスの蛇のように自分の尾を口にくわえて、コロコロと転がって移動する蛇のような生物です。こいつがおもしろいのは、日本のツチノコ伝説のなかに、ループスネークのように移動していたとする話があるからです。このように往年のUMAネタがアップデートされることがあるので興味が尽きません。だからこそ、かつてのツチノコハンターは令和になってもまだ追いかけているのでしょう」
ツチノコハンターが今も現役とは、日本のUMAファンの情熱たるや恐るべしだ。

胴体が膨らんだ蛇のような生き物とされるツチノコ(※写真はイメージ)
「日本だけじゃないですよ。先ほどお話ししたヒバゴンは、今年フランスのUMA研究家が来日して広島で調査を行っています。そもそも近い種類の生物同士は日々交わり続けているので、新しいUMAが誕生する可能性は常にあるのです。UMAはそう簡単には古びません」
最後に、令和の時代でも輝くUMAの魅力を敏太郎さんに聞いた。
「UMAのジャンルは、一定の学術知識を有するなど少々敷居は高いかもしれません。ですが、それゆえに近年、陰謀論者たちに悪用されがちなオカルト界隈において、それらを寄せ付けない自浄作用があるところが僕は好きですね。こうした面や、新種・新説が次々見つかる面など、劣化しづらいジャンルとも言えるでしょう。
僕の本などを読んで、リアルとロマンをつなぐUMAのおもしろさに魅せられた子どもたちが、大人になったときが今から楽しみでなりませんね」
取材・文/TND幽介/A4studio
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