「普通の中国を描いてくれてありがとう」

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中国で活動する竹内亮監督
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──東京で「竹内亮ドキュメンタリーウィーク」(5月25日まで)を開催中ですが、反響はいかがですか?

おかげさまで観客動員数が毎回8割を超えています。マイナーなドキュメンタリー映画の動員としては、相当いいと思いますし、ありがたいですね。

観客の比率で言うと6(中国人):4(日本人)くらい。日本人は、中国に駐在していたことがある方や留学していた、中国人と結婚をしているなど、何かしら中国と関係している方が多いです。

──今回は、全長6300キロのアジア最大の大河、長江を2年かけて横断した『再会長江』をメインに上映されています。中国人、日本人、それぞれの観客の反応に違いは?

日本の観客の方は、「こんな中国見たことない」という反応が一番多かったですね。日本のメディアで流れてくる中国って、だいたいが政治の話や中国バッシング。でも今回私が『再会長江』で描いたのは、長江流域に住む普通の人々の暮らしです。

映画の中で私は中国をほめもしないし、批判もしていません。普段から「中国って汚いんだよね」とか「中国って怖いんでしょ」といった、誤解や差別を聞かされてきた在日中国人の方からは「普通の中国を描いてくれてありがとう」という感謝の言葉をいただきました。

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──監督は中国人の女性と結婚して移住されたそうですが、それまで中国との関わりは?

まったくありません。中国語もしゃべれなかったし、興味もありませんでした。妻と出会ったことで、彼女の実家に行ったり、中国を旅行するようになって、のめり込んでいった感じですね。

──のめり込むほどの魅力はどこに?

ひとことで言うと「テキトー」なんですよ(笑)。私自身、子供の頃からすごく空気が読めない人間でした。でも中国に行ったら、みんながKYなんです。いい意味でも悪い意味でも。天国だなって思って、一気に好きになっちゃいました。

人口が14億人もいるので、空気を読んでいたら埋もれてしまうんですよね。和をもって尊しとなす日本とはまるで違って、いかにアピールしていくかが勝負なんです。もちろん日本を否定しているわけではなく、そっちの方が僕にあっていたってことなんです。

──先ほど、在日中国人は差別や誤解を受けているとおっしゃっていましたが、南京在住の監督が、日本人に対する厳しい意見に直面したことは?

「南京」という悲しい歴史があった街で暮らしていますが、10年間住んでいて嫌な思いをしたことはないんです。これは神に誓って1度も。もっと田舎に行ったときに、「中国人をたくさん殺したから日本人は嫌いだ」と言われたことはあります。でも私のことを直接攻撃してきた人は一人もいません。

──それはどうしてだと思いますか?

多分、私が中国人のことを大好きだからでしょうね。結局は人と人との繋がり。もしも私が中国人が嫌いだという態度で接していたら、多分「俺もお前が嫌いだ」と言われるでしょうから。

──『再会長江』では、南京に住む紙灯篭職人の男性が、「歴史問題でわだかまりはない」と発言しているのも印象的でした。

それは友人の私に向けてというよりも、日本人全体に向けて言った言葉だと思います。日本の政治や歴史は嫌いだけど、日本人や日本の文化は好きというように、中国人は政治と庶民を完璧に分けるんです。

アニメ映画の『THE FIRST SLAM DUNK』(2022)が大人気ですし、宮崎駿監督の作品だってめちゃくちゃ人気がありますから。