アンチに「宇宙一ブス」と言われても、死ぬまでアイドルでいようと決意した大先輩の一言。スターダム王者・中野たむは「死んでもいいと思って、残りのキャリアをすべてこのベルトに捧げようと思っている」
地下アイドルからプロレスラーに転向した、中野たむ。今や女子プロレス界最大の団体「スターダム」の王者に上りつめ、業界のスーパースターになった。テレビ番組『ザ・ノンフィクション』でも特集された地下アイドルが、なかば騙されて踏み入れたプロレスの世界で「宇宙一カワイイアイドルレスラー」を貫く理由、そして「死んでもいい」とまで言うベルトへの思いとは…。(前後編の後編)
宇宙一カワイイアイドルレスラー#2
「プロレス舐めんな」というアンチが大量に湧いた
――スターダムでは、「COSMIC ANGELS」(コズミックエンジェルズ)というユニットを結成し、入場時にダンスやオリジナル曲の歌唱を行なうようになりましたね。女子プロレスのマットでアイドル的なパフォーマンスをすれば批判されるかも、とは思わなかったですか?
中野(以下同) めちゃくちゃ思ってました。実際、結成した瞬間からアンチが大量に湧いたんですよ(笑)。「プロレス舐めんな」「チャラチャラしてベルトとか言ってんじゃねぇ」みたいな。でも、そこで辞めたらかっこ悪いし、当時は批判どうこうどこ4ろじゃなかったんですよね。一緒にコズエンを結成したふたり(白川未奈、ウナギ・サヤカ)をどうにかしなきゃ、と思ってたから。

――どちらかというと、仲間のためだったと。
そうですね。私は岩谷麻優に手を差しのべてもらったけど、今度は誰かに施す側になりたかったから……。つまり岩谷麻優になりたかったんですね。
――岩谷選手は、「スターダムのアイコン」として団体の旗揚げ時から活躍する大スターですね。かつては中野さんも、岩谷さんからの誘いを受けて本隊ユニット「STARS」のメンバーとしてリングに上がっていました。
はい。最初はSTARS内のユニット内ユニットとしてコズエンを立ち上げたつもりだったんですけど、岩谷から「何がしたいの?」って詰められて、独立せざるを得なくなりました。そのときはめちゃくちゃショックで、自分には背負いきれないと思ったけど、私に人生を預けてくれた白川とウナギのためにも引くに引けなくなったんです。でも、あのときがあったからこそ今の私があるので、独立してよかったなと思っています。
アンチに「宇宙一ブス」と言われても
――中野さんは「宇宙一カワイイアイドルレスラー」を自称しつつ、試合では感情むき出しのハードな殴り合いをするところが魅力だと思います。アイドル路線に対するアンチは、さすがにいなくなりましたか?
いえ、いますよ。というか、めちゃくちゃ増えてます(笑)。Twitterのリプ欄でも、「コズエン早く解散しろ」とか「コズエンからたむを追い出した方がいい」とか言われてますから。自分としては、スターダム全体の観客が増えた分、アンチも増えてるのかなって考えてるんですけど。そもそもアンチって私に興味があるってことだから、「結局私のことが好きなんじゃん?」って思います。

――めちゃくちゃ前向きですね(笑)。たたかれてもアイドル路線をやめない理由って何なんですか?
そもそもアイドルとは生き様を見せていく人たちのことだと思っているので、スターダムの選手はある意味みんなアイドルなんじゃないですかね。ただ、プロレスラーになった当初は「私、アイドルやめました」っていうキャッチフレーズを使っていたんですよ。その当時、井上貴子選手と試合をさせていただいたことがあるんですけど……。
――井上選手は80年代から活躍する元祖アイドルレスラーであり、いまだ引退していないリビングレジェンドですね。
はい。その井上さんから、「あんた、アイドル辞めるんじゃないよ」って言われたんです。「アイドルって1回言われた人間は死ぬまでアイドルなの。だから私もアイドルよ」って。めっちゃカッコいいなと思って、私も死ぬまでアイドルでいようと決意しました(笑)。だからアンチに「宇宙一ブス」と言われても、私は自分で「宇宙一カワイイ」と言い続けます!
ジュリアにはムカついてムカついて、すごく苦しかった
――プロレスラーになってからの一番の転機は、何ですか?
そうだな……。ジュリアと出会ったことかもしれないですね。初めてあいつと対戦したときに、自分の中の闘いの炎が燃え上がる感覚があって。試合が終わって家に帰ったあとも、「ウワー!」ってすごい暴れてました(笑)。

――ジュリアさんは2019年にスターダムに所属、またたく間に団体の中心人物になった選手です。そのジュリアさんのおかげで、闘いの楽しさを知ったということですか?
いや、楽しくはなかったっす(笑)。ムカついてムカついて、すごく苦しかったから。でも、ジュリアとやりあってるときは「生きてるな」って思えたんです。私はこいつと戦うためにプロレスを始めたのかなと思うくらい。
――結果的に、「スターダムの象徴」と呼ばれるワンダー・オブ・スターダム王座も、「女子プロレスの最高峰」という位置づけのワールド・オブ・スターダム王座も、どちらもジュリアさんから獲りましたね。
うん……。それもマジ、腹立つんですけど(笑)。
――そういうライバルに出会えることは、人生でも稀かもしれません。
そうですね。ジュリアがいなければ、こんなに悔しいとか苦しいって思う気持ちも感じないで済んだだろうけど、ジュリアがいたからこそここまで強くなれた。これって、「夢」と一緒だと思いませんか?

――目標という意味の夢、ですか?
はい。人って夢を見ずに現状に甘んじていた方が絶対に楽なんだけど、夢があるからこそ頑張れる、上に行ける。私も岩谷の下にいたころは「自分はこんなもんなのかな」って思ってたんですけど、コズエンとして独立して、ジュリアと出会って、こうしてチャンピオンになれた。悔しさや苦しさが原動力になって、人は強くなれるんだと思います。
「私の結婚相手を決めるトーナメントを開こうかなと…」
――チャンピオンともなれば、興行の顔として客を呼ばないといけないし、過酷なタイトルマッチを戦わなければいけないですよね。その重圧は感じますか?
感じます。もう、すごいストレスです(笑)。「ベルトは獲るより獲ってからの方がしんどい」って言いますけど、それは本当ですね。私はチャンピオンらしくいられているのか? 話題を振りまけているか? チャンピオンが私で大丈夫か? ……毎日毎日、怖いです。

――どの重圧とどう戦っているんですか?
もう、いろんな人の魂がこもったベルトを巻いているという事実を、自信に変えるしかないですよね。それに、恐怖や悲しみをたくさん感じた人って、オーラをまとっていくと思うんです。だからいま感じているすべての重圧が、私を強いチャンピオンにしてくれるんだろうなって思います。
――自伝『白の聖典』の中で、引退するときは「寿引退」と語っています。どこまで本気かわからないんですが、プロレスラーとしての幕の引き方って考えていますか?
あ、寿引退はほんとうにしたいんですよ。これは一昨日、思いついたことなんですけど、私の結婚相手を決めるトーナメントを開こうかなと思って(笑)。一般公募で集まった男性たちに後楽園ホールで戦ってもらうんです。
――プロレス版の『バチェロレッテ』みたいですね(笑)。
いいかも、それ! ファンが死闘を繰り広げる姿を、ぜひどこかのテレビで密着してほしいですね。最後までめちゃくちゃ話題をつくって、引退したいです(笑)。

――最後に、ベルトにかける思いを聞かせていただけますか?
はい。私はこのベルトを獲ってから、「私をぶっ壊しに来てくれる挑戦者を待ってます」って言ってるんです。私を引退に追い込むくらい、ボコボコにしてほしい。死んでもいいと思ってます。私は残りのキャリアをすべてこのベルトに捧げようと思っているので。
だから、プロレスラーとしての中野たむの最後も、そう遠くないかもしれないです。
中野たむ選手の宇宙一カワイイアザーカット

取材・文/西中賢治 撮影/武田敏将
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